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⑤深い褥瘡攻略の道標 ”TIME+α”のE(創部辺縁の段差):難関攻略!褥瘡ポケットを治す秘策とは!?

非皮膚科医

ポケットが何をやっても治りません…

S先生

ポケットは物理的な刺激で生じているのでそれを解除しないと治りにくいですね

非皮膚科医

では、どうすればよいのですか??

S先生

いくつかの対策法があります
では、今回はポケット対策についてお話ししましょう!

今回は創が治らない原因”TIME+α”のうちの"E"創辺縁の段差についてのお話です。一度できると非常にやっかいなポケットですが、どのように治療すればよいのか、そして、予防はできないのか?、そんなお話をしていきます。

ちなみに”TIME+α”??という方は、以下のページの冒頭をご参照ください。
②深い褥瘡攻略の道標 ”TIME+α”のT(壊死組織/活性のない組織)

今回のテーマ、E”創辺縁の段差”は、TIMEのその他に比べてややイメージしにくいと思いますので、まずは”ポケット・過剰肉芽とは何なのか?”、それを理解するために、始めに以下に示すような深い創の治る経過をお示ししつつ、創辺縁の段差をもう少しわかりやすく説明します。
深い創は上の図②→③のように、肉芽が皮膚の高さまで増殖すると、創の辺縁の皮膚が内側に入ってきて創が治っていきます。
しかし、左写真の褥瘡左側に示す破線のように、何らかの原因で創部の辺縁に空洞を生じたり(これをポケットといいます)、逆に、右の写真のように肉芽が増え過ぎて、創周囲の皮膚の高さを超えて盛り上がり過ぎてしまう(これを過剰肉芽といいます)と、創の辺縁からから上皮化(表皮が創の辺縁から内側に向けて作られること)ができなくなってしまいます

では、なぜポケットや過剰肉芽が形成されるのか、そして、どのように対策すればよいのか、それぞれについて考えてみましょう。
まずは、なぜポケットができるのか、がわからないと予防できませんので、ポケット発生の原因、そしてその原因に応じた予防法からお話ししたいと思います。
そして、最後に実際にポケットを生じたとき、どのように治療すればよいか、お話ししたいと思います。
目次

1,ポケットの原因と対策

1、ポケットはなぜできるのか

ポケットを生じる原因はいくつかあると思ますので、以下に代表的なポケット形成の原因について列挙します。
ポケットを生じる3つの原因(私見)
1,皮膚への持続的な強い圧迫やずれ力により深い組織を中心に壊死してそのままポケットを形成する
2,皮下脂肪より深い層で膿瘍を形成し、組織同士の接着(腱や筋層間など)が失われてそのままポケットを形成する
3,皮膚のずれによる創部の変形
では、それぞれのポケット発生の原因について、イラストを用いて説明します。

1-1 ポケットの原因① 褥瘡発生時の深部組織の壊死


まずは1からです。

例えば痩せていて骨の突出の強い寝返りを打てない患者さんが、体圧分散寝具でないマットで背中を上げた状態で寝ていたとします。すると、仙骨部に強い持続的の圧迫とずれ力を生じます
上のイラストは皮膚の断面を見ています。わかりやすいように表皮~真皮、脂肪~筋肉、骨の3層に分けています。
皮膚に強い圧迫がかかると、イラスト左側から右側への変化を見ていただければわかりますように、表皮~真皮に比べて柔らかい皮下脂肪~筋肉がより激しくつぶれます。
特に骨の上の脂肪~筋は激しく潰れます。すると、柔らかいお餅を手のひらで押さえつければ潰れて横に広がるように、上からの圧迫によって横に引っ張られる力がかかります(左イラストの紫矢印)。この垂直方向の圧迫と水平方向への広がり、さらには今回は複雑になるため割愛しましたが、ずれ力などが加わるため、特に骨の上のより柔らかい脂肪や筋やそれらを栄養する血管は激しく変形することにより壊死してしまうのです(上のイラスト中央)。そして、その壊死した部分をデブリードマンすると、そのままポケットになってしまうのです(上のイラスト右)。

1-2 ポケット発生の原因② 深部の壊死組織+膿瘍

膿瘍によるポケットは、基本的に1-1でお話ししました”深部の壊死組織”に連続して生じますので、深部が壊死したところから、話を始めます。
深部組織が壊死した場合に早期に十分なデブリードマンが行われないと、壊死の深部で膿瘍を形成することがあります(上のイラスト左)。すると、壊死組織を除去し排膿した後、壊死組織に加えて膿瘍を形成していたところも、ポケットになってしまうのです(上のイラスト右)。

1-3 ポケットの原因③ 褥瘡発生後のずれ力

いままでお話ししてきました、壊死組織によるポケット発生の原因は、主に褥瘡発生時に原因があると考えられます。
一方で、褥瘡発生後にポケットを生じることがあります。
それは皮膚のずれ力による創部変形伴うポケット形成だと考えています。これも文字ではわかりにくいと思いますので、イラストでお話しします。
始めに、上のイラストの中で、下の2枚のイラストを見ていただきたいのですが、皮下脂肪に至る褥瘡は、脂肪組織が柔らかいため、外力によって左下のイラストから右下のイラストのように簡単に創の形が変形してしまうのです。
そのため、皮下脂肪まで至る褥瘡のある患者さんに、長時間ギャッチアップする、ずって体位変換を行う、などをしますと、創部にずれ力が生じ、その影響で皮下脂肪が変形して、ポケット形成してしまうのです。

このように、ポケット形成の原因は一つではなく、様々な原因があるのです。

2,一度生じたポケットはなぜ治りにくいのか?

そして、一度ポケットが作られてしまうと、非常に治すのが難しくなります。それはなぜでしょう?
それは、上のイラストを見て頂きたいですが、ポケット内部では、繰り返されるずれ力によって、肉芽同士がこすれ合う(青矢印)ため、上の層と下の層の肉芽同士が接着することは難しいです。さらに、ポケットが縮小するには、最深部(黄色矢印)から肉芽が増殖する必要がありますが、鋭角に折れ曲がった最深部の肉芽は、物理的にも増殖できないのです。

このように一度生じるとポケットの治療はなかなか難しいですので、ポケットの対策として大切なのは、ポケットをいかに作らないか、その方法を知ることだと思います。

3、ポケットをいかに予防するか

では、ポケット予防法についてお話しします。
ポケットを予防するには、ポケットの原因を対策できればよいのです。前述しましたように、ポケットの発生原因は3つありましたが、1-2でお話ししました膿瘍は1-1の進行例であり、根本の発症原因は1-1深部組織の壊死ですので、大まかにはポケットの原因は以下の2つにまとめられます。
ポケットの大まかな発生原因
1 
寝返りを打てなくなった患者さんに生じる長時間の持続的な圧迫やずれ力による深部組織主体の広範囲の壊死
2 
褥瘡発生後に深い褥瘡に生じるずれ力
ポケットの原因は、長時間の圧迫への対策とずれ力であり、それらを対策すればポケットを予防できる(通常の褥瘡予防と変わらない!)
このように、ポケットの原因は、発症時、発症後とタイミングは異なりますが、持続的な圧迫やずれ力であり、通常の褥瘡予防を適切に行うことがポケットの予防にもつながるのです。
そこで、改めて、強い持続的な圧迫やずれ力をいかに対策すればよいのか、以下にお示しします。
ポケットを作らないための予防法
1 持続的な強い圧迫への対策
  ①寝返りを打てなくなったら早期に適切なエアマットを導入する
(詳細は褥瘡予防編1褥瘡予防編2)
  ②体位変換を行う(詳細は褥瘡予防5)
2 ずれ力への対策
  ①長時間のャッチアップを行わない(30度以上のギャッチアップは1時間まで
 詳細は褥瘡予防4)、
②体位変換をずって行わない
③背上げ・背下げの都度背抜きを行う
それぞれの詳細は褥瘡予防編で詳しく述べていますので、褥瘡を作らないためにも、ポケットを予防するためにも、ぜひ、改めて見直し対策を行っていただければと思います。

では、最後に実際ポケットが発生してしまった場合の治療法について考えてみましょう。

4、ポケットを改善させるには

2でお話ししましたが、ポケット内部では、ずれ力などにより肉芽同士が擦れあい(上イラスト青矢印)、さらには最深部(黄色矢印)から肉芽が増殖する必要がありますが、鋭角に折れ曲がった最深部の肉芽は、物理的にも増殖できないため、ポケットは非常に治りにくいです。
では、どのようにしてポケットを治療していけばよいでしょうか?
そのためには、“鋭角”に折れ曲がった最深部の肉芽を“鈍角”にする、上のイラストでいえば、何らかの方法で左図の状況を右図にもっていければ、肉芽は増殖できるのです。
では、どうすればポケット最深部の肉芽を“鈍角”にできるでしょうか?
それには、大きく2つの方法があると思います。
ポケットを改善させるための2つの方法
① 電気メスなどを用いてポケットを切開する
(特に全周性のポケット、深くて深部に壊死組織を伴うようなポケットに有効)
② 伸縮テープでポケットを牽引する
(浅くて一部のみのポケットや切開後のポケット再発予防、すれ力軽減などに有効)
文字だけでは分かりにくいと思いますので、これら2つの方法について、イラスト(下図)にしてみました。
では、ここで実際の患者さんで、どのように上の2つの対策を行っているかお示しします。

4-1、電気メスによるポケット切開

始めに電気メスによるポケット切開について説明します。
ちなみにポケット切開というと十字切開を行っている症例も散見しますが、十字切開では、弁状になった皮膚の深部の肉芽が折れ曲がったままとなり、傷が治らないことが少なくありません
そのため私はポケットは基本的には全周性に切開するようにしています(詳細は後述)。ただ、もちろん全例ポケット切開を行うわけではありません。次にポケット切開の適応について考えてみましょう。

4-1-1 ポケット切開の適応

このようなポケット完全除去のための切開は侵襲の大きい治療であり、すべての患者さんに適用となるわけではありません。たとえば、時に見かけるトンネル状の幅が狭くて深いポケットは、感染兆候がなければ切開せずとも自然に閉鎖することが多いです(おそらくそれほどずれ力がかからないため)。
では、どのようなポケットは切開が適応になるのでしょうか?
以下にポケット切開の適応ついて個人的意見ではありますが列挙します。
ポケット切開の適応(私見)
・ポケット内に壊死組織や膿瘍があり感染のリスクがある(全身状態によっては最小限の切開にとどめデブリードマンする)
・深いポケット(目安は深さ2cm以上) or 全周性にポケットがあるなどして、後述する伸縮テープによる対策ではポケットが改善しにくい(ただ、深くて非常に広範囲のポケット形成の場合は切開して創を大きくすることで予後を縮めるリスクがある)
・栄養状態が悪くなく(経口摂取できる)ポケット以外の潰瘍の肉芽形成が良好
・長期的予後が見込まれる
・適切な除圧や処置が行われている
・ご本人・ご家族の同意が得られる
ポケット切開は侵襲が少なくなく、さらに切開後に必ずしも創部が順調に改善するわけではないため、このような様々な条件を複合的に判断する必要があります
そのため、ポケット切開の適応となる症例は決して多くはありません。
ただ、比較的ポケット切開を積極的に行うべき症例として、ポケット内に壊死組織があり感染リスクがある場合です。ただ、壊死が筋肉レベルなど深い場合や、広範囲のポケットがあり全身状態不良の場合などポケットすべてを除去しても後の創部改善が見込めない場合などは、最小限の切開(線状切開)に留め、デブリードマンを行うこともあります(その場合右下の写真のように弁状の皮膚が残り創は治りにくい旨をお伝えしています)。
ただ、上記のような感染リスクのある創以外は、ポケットがあってもいきなり切開はせず、まずは保存的に経過をみることも少なくありません。特に発生間もない褥瘡のポケットやトンネル状のポケットなどは、ポケット内に壊死組織がなければ自然にポケットが閉鎖することも少なくない印象です。
保存的に経過をみても改善しない症例についてポケット切開を検討しますが、注意点があります。
それは、ポケットが筋層など深いところに広範囲にあり、切開時に出血量も多いことが見込まれ、切開後も浸出液の増加などにより、逆に予後を縮めるリスクがある場合などは、あえて切開はせず保存的に治療する事もある、ということです。
そのような場合、患者さんやご家族には以下のようにお話ししています。
ポケットが深い、全身状態不良などで切開が困難なため褥瘡の閉鎖が見込めない場合のご本人・ご家族への説明
創が治ることは難しいかもしれませんが、感染を生じにくく、痛みも少ない、患者さんが安楽に過ごせる創にすることを目指しましょう”
上記の状態に持っていくために大切なのは創部全体を肉芽組織に置き換えることです。
実は脂肪層や肉芽組織には痛みの神経がありません。逆にいえば、筋や腱などは痛みの神経があるため、それらが露出していると創を痛がります。可能な限り早期に十分なデブリードマンを行い、肉芽組織に変化させてあげることで、痛みの少ない創にすることができると思います。

では、次にポケット切開を行う際、実際にどのような手順を踏むとよいのかお話しします。

4-1-2 ポケット切開のポイント

ポケット切開のポイント
1,出血リスクを抑えるため、血管収縮効果のあるエピネフリン含有のキシロカインを使用する(麻酔後5分ほどおくと血管収縮効果が高まるため、局所麻酔を行ってから様々な準備をすると効率がいい)
2,筋層に至るような厚みがあるポケットは、モノポーラの凝固モードで切開すると出血量を減らせる(切開モードよりやや切開しにくいが安全)
3,ポケット上部の皮膚に厚みがある場合は、下のイラストにあるように、おわん型になるように切開するとポケットが再発しにくい
(十字切開では、弁状に残った皮膚の肉芽が折れ曲がったままなので改善しにくい)
4、筋層レベルの切開では、動脈性の出血リスクが高まるため、モスキートペアンや縫合セットなどを用意し、迅速に止血できる対策が必要
このなかでおわん型の切開が分かりにと思いますので、以下に創部を断面にしてどのように切開するとよいか示します。
このように適切に切開してもポケット切開後のポケット再形成をきたす可能性があります。
上記“ポケットの原因”、でもお話しましたが、 ポケット発生原因の一つが“ずれ”ですので、せっかくおわん型にポケット切開しても、再びずれが生じるとポケットが再発することが少なくありません。
ずれ力の対策法については先ほどのお話ししましたが、改めて基本的なずれ対策を列挙します。
創部のずれ対策のポイント
1,30度以上のギャッチアップを長期間行うことは控える(できれば1時間まで)
2,体位変換を一人でずるようにして行わない(なるべく複数人いる時に浮かせながら体位変換する)
3,背上げ、背下げの際に背抜きを行う

4,伸縮テープによりもともとポケットがあった方向に牽引を行う
この中で、4番目の伸縮テープによる牽引は、生じたポケットの治療にもなりますが、ずれ力による新たなポケット形成の予防にもなり、非常に汎用性の高い治療法ですので、これからお話しする注意点もふまえて積極的に活用していただければと思います。

4-2、伸縮テープによるポケット対策

伸縮テープによるポケット対策というのは、下の写真のように伸縮テープを利用し皮膚を牽引する(下の写真右側)方法です。
この方法には以下のようなメリットがあります。
伸縮テープによるポケット対策のメリット・デメリット
メリット
 1 浅いポケットであればポケット深部をオープンにできてポケットの消失が期待できる
 2 深いポケットでは牽引してもポケット最深部をオープンにはできないが、ずれ力を軽減することでポケット縮小が期待できる
 3 ポケット切開後や、まだポケットがない深い褥瘡に対し、牽引を行うことで未然にポケット形成を予防できる


デメリット
 1 広範囲のポケット(全周性のポケットなど)の場合は牽引での改善は期待しにくい(改善には切開が必要なこともある)
 2 伸縮テープでかぶれることがある(対策は下記参照)
メリットその1からもう少し補足します。
上左の写真のように3時方向にポケットがある場合(白破線)、9時方向にずれ力が働いていることが多いです(赤矢印)。この牽引テープで3時方向に皮膚を牽引することで(青矢印)、①ポケット深部をオープンにできる、②9時方向のずれ力を抑制できる、という2つのメリットがあるのです。
ただ、デメリットに記載したように深い褥瘡の場合は、牽引だけでは最深部をオープンにはできません。しかし、ずれ力を減らすことでポケットが改善しやすくなる可能性はあります
さらに、複数個所にポケットがある場合や、複数方向にずれ力が働いており複数のポケット発生リスクがある場合は、上右の写真のように複数方向に牽引を行うこともあります。
このように、伸縮テープによる牽引は、切開などの侵襲性のある処置を行わずに、ポケットの治療と予防、両方の効果を発揮できる汎用性の高い施術なのです。

では、実際にどのようにして伸縮テープで皮膚を牽引するのか、実際の方法を動画で見てみましょう。。
動画の内容をふまえ、施術のポイントを列挙します。
ポケットの伸縮テープによる牽引法のポイント
1、伸縮テープは15~20㎝ほど
に切る(短すぎると牽引できない)
2,施術前に牽引テープの剥離紙をすべて剥がす(剥離紙がついたままではテープを伸ばせない)
3,傷の周りを十分に乾かす(伸縮テープは濡れているとつかない)
4,創部の辺縁ぎりぎりの皮膚にテープの先端を貼る(弱い皮膚は避ける)
5,4で貼ったテープを指(手のひら)で押さえつつ、ポケットが開く方向に引っ張る
6,反対の手で伸縮テープを伸ばす
7,伸ばしたテープを皮膚に貼る
8,特に創部辺縁のテープは剝がれやすいので、しばらく押さえ続ける


牽引テープは粘着が強いので毎日貼ったり剥がしたりを繰り返すと皮膚が荒れます牽引力がある程度維持できていれば数日間貼りっぱなしでよいです
もし、皮膚めくれなど皮膚トラブルを生じたら以下のページの”2 テープ刺激で皮膚が荒れた際の対処法”をご参照
適切なテープの剥がし方+テープによる皮膚トラブルの対処法
このように、伸縮テープによるポケット・ずれ対策は実はかなり抑えるべきポイントが多いです。そして、正しく行えないと十分な牽引になりません
ただ、前述の通り汎用性の高い施術で、褥瘡治療の極力な武器になりますので、是非習得していただければと思います。

5,ポケットへのおすすめの外用剤・創傷被覆材

では、最後にポケットに対してどのような外用剤、創傷被覆材を使用するとポケットがよりスムーズに進むかについてお話しします。ただ、あらかじめお伝えしますが、基本的にポケットの治療に外用剤や創傷被覆材は主役ではないはと考えています。それは、今までお話ししてきたようにポケットはおもに外力で生じ、難治化しているので、それらの対策がより重要だと思われます。
それを踏まえた上で、以下のように、①ポケット内の壊死組織の有無、②浸出液の量、この2点で使用する薬剤を選択していくことをおすすめします。
ポケット対策としておすすめする外用剤・創傷被覆材
1 壊死組織を伴う場合
 1-① 浸出液が多い:ブロメライン軟膏(感染のない壊死に限定。壊死組織により感染している、または感染のリスクがある場合はポケット切開+デブリードマンが必要で、その場合は抗菌作用のあるゲーベンクリームやカデックスなどを選択)
 1-② 浸出液が少ない:ゲーベンクリーム
2 壊死組織を伴わない場合
 2-① 浸出液が多い:ヨード系外用剤
 2-② 浸出液が少ない:ゲーベンクリーム、フィブラストスプレー+ベスキチンWA
少し捕捉します。1-①ブロメライン軟膏は蛋白分解酵素が含まれ壊死組織を溶かす作用があります。これをポケット内に入れ込みます。ただ、ブロメライン軟膏には使用上の注意点がありますので以下に示します。
ブロメライン軟膏使用上の注意点
1、皮膚に付くと肌荒れする可能性があるため、使用前に周囲の皮膚にワセリンを塗って保護する
2、抗菌作用はないため、菌の増殖が疑われる場合は抗菌作用のある外用剤などとの併用が必要
3、ポピドンヨードや銀イオンで失活するため、ユーパスタやゲーベンクリームとの併用は避けた方が無難
次に、フィブラストスプレー+ベスキチンWAの組み合わせについて補足します。
フィブラストスプレーは肉芽を盛り上げる作用がありますが、深いポケットの最深部に十分に届かせることが難しいことがあります。その際にベスキチンWAにフィブラストを噴霧して、最深部に入れ込むとベスキチンに含まれたフィブラストが創部に拡散してくれるため、肉芽増殖が期待できます(ちなみにその他の創傷被覆材ではそのような作用は内容です)。
ベスキチンをポケット深部に充填できるように切開して、ベスキチン10cm2あたりフィブラストスプレーを2噴霧してポケット最深部に入れ込みます。

創辺縁段差(過剰肉芽について)

最後は過剰肉芽についてです。
過剰肉芽というのは、上の写真を見て頂けると分かりますように、周囲の皮膚の高さより肉芽が盛り上がっている状態です。
ではなぜ、これが問題かといいますと、過剰肉芽があると、それが壁になって創部辺縁からの上皮化が妨げられるのです。
では、どのようにして対策するのか、それはステロイド外用剤を使用すると良いです。ステロイド外用剤には、過剰肉芽を平坦化させる作用があります。肉芽が皮膚の高さまで縮小すれば、多くの場合、辺縁より皮膚が作られ、創は改善するのです。
ただ、創部にステロイド外用剤を使用すると、菌が増殖して、感染やクリティカルコロナイゼーションのリスクとなります。どうすればよいでしょう?
その時は『エキザルベ軟膏』を使用することをお勧めします。
では、なぜエキザルベ軟膏がおすすめなのか以下にメリット・デメリットを示します
メリット
・ステロイドが含有されており、過剰肉芽を縮小させる効果がある。
・軟膏の中に死菌が含まれており、それにより免疫が活性化され、ある程度感染に強い。
デメリット
・死菌の効果はあるが、長期に使用すると菌が増殖することによる合併症(クリティカルコロナイゼーション、感染)のリスクがある。
よい適応
・過剰肉芽。
もし、まだ十分に過剰肉芽が平坦化せず、ぬめりを生じるなど菌の増殖が疑われた場合は、”エキザルベ軟膏+カデックス軟膏の重ね塗り”、などを行うこともあります

エキザルベ軟膏はステロイド外用剤でありながら、ある程度菌の増殖を抑えることができ、肉芽縮小効果が期待できるのです。

3,まとめ

では、最後にまとめです。
TIMEの”E” まとめ
・ポケット形成や過剰肉芽があると、上皮化が妨げられ、皮膚潰瘍は治りにくくなる
・対策として、ポケット形成に対しては、①外科的切開、②伸縮テープでの牽引、が有効
・ポケットを作らないために、持続的な圧迫やずれ力への対策が大切
・過剰肉芽にはエキザルベ軟膏を使用する

ポケットは一度生じると対策が非常に大変です。特に在宅ではポケット切開の選択肢は限られるため、治療が難しいことも少なくありません。
ぜひ、”ポケットを作らない対策”、も熟知していただければ幸いです。

目次