S先生
始めまして、皮膚科専門医Sと申します。
私、皮膚科一筋20年余、現在は非常勤医師として訪問診療クリニックなどで高齢者の皮膚トラブルを中心に診察している地方在住の皮膚科医です。
訪問診療クリニックで皮膚科医が働くのはかなりマイナーですので、現在に至るいきさつを簡単にお話しさせていただきます(関心のない方は、青枠は飛ばして進めてください)。
自身が幼少時からアトピー性皮膚炎を患い、少なからず人と異なる経験をする中で同じように皮膚疾患で苦しんでいる人の力になりたい、と医学部でない大学在学中に思い立ち、思い切って大学を中退し、医師を志しました。
といっても幼少時から地方のごく平凡な家庭で過ごしてきた世間知らずには、医学部の壁は途方もなく厚く高い壁であることを目指して始めて知りました。
数年間浪人(大学を中退した負い目と授業料節約+授業を聞くのがそもそも苦手なこともあり予備校にはいかず自宅浪人を選択)を続け、図書館にこもりながら、運よく地元の国立大学医学部に入ることができました。
医学部に入ると、受験で燃え尽きていたこともあり、常に留年すれすれ…。落とされそうになるふるいに必死でしがみつき、なんとか医学部を卒業し、医師免許取得(汗
その後、総合病院で経験を積み、皮膚科専門医も取得し、地元で開業しましたが、想像以上に多忙な日々で、自分のキャパシティーを超えた仕事を続けた結果、体調を崩し閉院…
どうせなら、今までと違う世界を見てみたい、特に、訪問診療はこれからますますニーズが増える数少ないフロンティアで、総合病院時代から褥瘡診療には関心があったこともあり、訪問診療へと足を踏み入れ、現在に至ります。
唐突に話はかわりますが、みなさんSNSは利用しているでしょうか?(ちなみに私はLINEとかスタンプとかよくわからず、時代から取り残されつつあります…)
誰もが気軽に、世界中の人たちに様々な情報を発信できる時代になりました。
しかし、高齢者の皮膚トラブルを数多く診察するようになって実感したことがあります。
在宅の患者さんは強い痒みや創の痛みで辛い思いをしていても、その辛さを目の前にいる自分たち以外には伝えることができない。
だからこそ、自分たち医療従事者が、その思いをくみ取り、患者さんの苦しみを共感し、軽減してあげなければ、患者さんは救われない。
在宅で過ごされる患者さんの世界のほとんどがベッドの上なのです。ストレスが溜まっても、友人とスタバに行ってだべったり、温泉で癒されることも多くの方はできません。
それでも、住み慣れた環境で少しでもその人らしく人生を全うしていただくため、どうしたら皮膚のかゆみや褥瘡などの皮膚トラブルを最小限にできるだろう?、と模索する中で、もう一つ大きな問題があることに気づきました。
それは、
在宅患者さんの皮膚トラブルは非常に多いにも関わらず、それに精通した医療従事者は全く足りていない
ということです。
例えば、在宅患者さんと密接にかかわるケアマネジャーは前職が介護福祉士の方が多く、さらに、訪問看護師ももとは総合病院で勤務されていた方がほとんどであるため、皮膚トラブルに対して十分に学ぶ機会は多くはなかったと想像します。
加えて、在宅介護・看護での仕事は、それぞれの患者さん宅に少人数で訪れる、という特殊な環境のため、適切な皮膚トラブルの対応法について教育を受ける機会は決して多くはなく、良くも悪くも個人の主体性に任されてしまいがちです。そのため、時に十分な対応がなされず、褥瘡の発生や悪化など不幸な転帰に至ってしまうことがあります。
医師も同様で、訪問診療に皮膚科医が携わっている医療機関の方が少ない現状で、かゆみや褥瘡などの皮膚トラブルに十分対応するのは難しいと感じます。
このような現状を訪問診療の現場に身を置く中で実感し、LINEもTikも触れない機械音痴ではありますが、WEBを通じて皮膚トラブルの対策法を情報発信することを決断しました。
20年以上皮膚科医を続けてつくづく思うのですか、皮膚疾患は本当に奥が深いです。未だに“この皮疹は何だ??”とあたふたする症例は少なくありません。
ただ、かゆみのある疾患や褥瘡などの在宅でよく出会う疾患に対しては、いくつかのポイントを抑えることでもちろん全員ではありませんが、治癒へと導くことができるようになりました。さらには、やはりいくつかのポイントを抑えることで、褥瘡の発生もかなり減らせることができるようになりました。
そのような経験をふまえ、このWEBサイト、さらにはYouTubeを作成しています。
YouTubeは褥瘡予防に絞って作成しました。
また、WEBサイトでは褥瘡だけでなく湿疹やスキンテア、爪のトラブルなど様々な皮膚トラブルについてその対策法を配信しており、今後も配信していく予定です。
医師・看護師などの医療従事者だけでなく、介護士や高齢者にかかわるご家族にも分かりやすい内容となるよう、難しい専門用語はできるだけ控えるようこころがけて作成していますので、是非多くの方にお役立ていただければ幸いです。
皮膚の病気やトラブルは見た目にわかります。それは、うまくいかなかった時言い逃れができず苦しいのですが、コツをつかめれば改善できる患者さんは飛躍的に上昇します。
そうして、きれいになった肌をみて、"すごいよくなりましたねー!"って患者さんやご家族と喜びを共有できるのが皮膚疾患の醍醐味なのかなと感じています。
是非、そんな実感をみなさんと共有できたら幸いです。
最後にある参考書に載っていた私が大切にしている言葉を贈り締めくくります。
ご遺体は医療従事者・介護者への通信簿
もし、患者さんが息を引き取るとき、かゆみのある皮疹があちこちにみられたり、大きな褥瘡があったら、それはその方から赤点をもらっているのだと思います。もっと、改善すべきことが沢山あるのだと我々に教えてくれているのだと思います。
一人でも多くの高齢者が、痒みや痛みに苦しむことなく、その人らしく人生を全うでき、通信簿に合格点を頂けるよう、ともに楽しく学んでいきましょう!!
どうぞ、よろしくお願いいたします。