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訪問診療に携わる方必見!これを知らないと褥瘡対策はできません

まもりさん

褥瘡の対策って治療法も予防法もたくさんあって何から手をつけてよいのやら…

S先生

確かにね…
ただ、実は褥瘡の予防・治療含め、最優先で行うべきことは決まっています!

まもりさん

え、何ですか?
ぜひぜひ、教えてください!

S先生

では、今回は高齢者に携わる医師・看護師・介護士・ケアマネなどあらゆる医療従事者の皆さんにぜひ知っていてほしいこと、お話しします!

さて、訪問診療での褥瘡対策で最も大切なことは一体何なのでしょうか?。
早速、結論からお話しします。
それは…
訪問診療における褥瘡対策(予防・治療)で最も大切なこと
寝返りをうてない患者さんには素早く(半日以内に)適切な体圧分散寝具(主にエアマット)を導入する!
ことだと、私は考えています。
”褥瘡対策”と聞くと、多くの方が、褥瘡の治療や処置を想像します。しかし、訪問診療において一度生じた褥瘡、特に壊死組織を伴うような深い褥瘡を治すことは褥瘡治療に精通した医療従事者でも簡単なことではありません
さらに、現状の訪問診療において、以下のような2つの問題があります。
訪問診療における褥瘡治療の2つの問題
1 褥瘡に精通した医師は充足していない
2 
(ここだけの話)褥瘡に精通した訪問診療医は限られるため、いかにして褥瘡(特に深い褥瘡)を作らないようにするか、に重きを置くことが訪問診療では大切
このような現状から、適切な褥瘡予防法を身に着けることが最も褥瘡対策には有効だと考えています。そして、その中でも前述のとおり”寝返りを打てない患者さんにいかに素早く適切なエアマットを導入できるか”、が褥瘡対策の最重要事項だと考えています。
ただ、現状は残念ながら、適切なタイミングで適切な体圧分散寝具を選べているケースは、まだまだ多くはありません

今回は、なぜ訪問診療では褥瘡対策に体圧分散寝具の導入が最も大切だといえるのか、そして、適切な体圧分散寝具選びについて簡単なさわりをお話ししたいと思います。
※ここからのお話しは、自力で寝返りをうてず、ベッド上で過ごされる患者さんについてのお話しです。
目次

1 褥瘡予防の3本柱

褥瘡を予防するのに数多くの対策法があります。
その中でも、個人的には以下の3つの対策を行うことが大切だと考えています。
褥瘡予防の3本柱(私見)
①適切な体圧分散寝具の使用
②適切なポジショニング+体位変換
③全身状態の改善
ただ、言うは易し、訪問診療でこれらを十分に行うことは難しい現実があります。
私、訪問診療で勤務する中で、特に居宅においてマンパワーが大変不足していることを実感します。
そのような現状において、上記対策の②適切なポジショニングやこまめな体位変換を行うことは決して簡単ではありません。時に夜中も起きて体位変換を行うよう指導されている、という声も聴きますが、これでは介護疲れで介護者が心身ともに疲れ果ててしまいます。
さらに、③全身状態の改善も、簡単にできることではありません。
例えば、全身状態の悪化が褥瘡発生のリスクとなる代表的なものには、①糖尿病、②動脈硬化による循環障害、③栄養状態の低下(食事量低下、低アルブミン血症)など様々な要因があります。
ただ、これらどれをとっても簡単に解決できるものではありません。

そのような現状において、褥瘡対策として最もお手軽かつ有効だと考えられるのが、①適切な体圧分散寝具の使用、なのです。
特に在宅の患者さんで要介護2以上あれば体圧分散寝具は月に1,000円ほどで借りることができるのです。褥瘡発生してからの多額の医療費を考えますと、非常に費用対効果に優れた選択肢だと考えます。

※もちろんポジショニングや体位変換も大切ですので、そちらについては以下のページに詳細がありますので参考にしてください。
寝姿勢+ポジショニングについて学ぼう!
在宅でも負担の少ない体位変換を考えよう!


では、このメリットてんこ盛りの体圧分散寝具ですが、なぜ早期の導入が大切なのか?、そして、早期のエアマット導入の大切さを知っていても褥瘡が減らない原因について、ここからお話ししていきます。

2 体圧分散寝具選びと導入のタイミングが褥瘡発生の運命を決める!?

では、ここからは体圧分散寝具を導入するタイミングについてお話しします。
上のイラストのように筋力が落ちて、ベッド上の生活となり寝返りをうてなくなった患者さんがいます。食欲も低下し、やせてきて仙骨の突出もみられます。
このような患者さんにウレタンフォームマットが導入されました。はたして、これで十分に褥瘡予防はできるのでしょうか?

2-1 ウレタンフォームマットで褥瘡は十分に予防できるのか?

その答えを知るために、、下のグラフはとても役立ちます。ちょっととっつきにくいですが、決して堅苦しいお話しではないの少々お付き合いください。
このグラフは縦軸に皮膚にかかる圧力、横軸にその圧迫の持続時間、赤いラインがどのくらいの圧がどのくらいの時間持続すると皮膚が壊死するか(褥瘡ができるのか)を示しています
※赤いラインはあくまでも一例で、全身状態や体格などによって個人差があることをご了承ください
例えば、先ほどの患者さんウレタンフォームマットに寝ていても、痩せていて骨突出の強い部分には40mmHgを超える圧がかかる可能性があります。では、40mmHgの圧がどのくらい持続すると褥瘡が発生しうるのかこのグラフを利用して確認してみましょう。
なんと40mmHgというそれほど強くない圧でも、寝返りが打てず圧迫が続けば12時間、つまり約半日ほどで皮膚が壊死してしまうことが分かります
  • 寝返りを打てず仙骨などの突出部に持続する圧が続くと、ウレタンフォームマットなどの体圧分散寝具で寝ていても、たった半日で褥瘡を生じる可能性がある!
ただ、実際の褥瘡発生はこのグラフを利用して皮膚にかかる圧だけで褥瘡発生時間が決まるほどシンプルではありません…
ずれを生じていたり、骨の突出が強かったり、栄養状態や基礎疾患を含めた全身状態が悪ければ、さらに弱い圧でも短時間で褥瘡を発生するリスクはあります

ただ、このお話で大切なことは、それほど強くない圧でもそれが持続すれば比較的短時間で褥瘡が発生し、それをウレタンフォームマットでは十分に予防できない可能性がある、ということです

では、寝返りをうてない患者さんに対しては、どのようにして褥瘡予防すればよいのでしょうか?

2-2 寝返りをうてない患者さんを持続的圧迫から解放する方法

持続圧迫に対してどのように対策すればよいか、結論から言いますと、その方法がエアマットなのです。

では、なぜエアマットが圧迫が持続しないようにできるのでしょうか?それは、エアマットの構造を知ることで理解できます。
下の写真はエアマットのシートを外したものです。
エアマットというと単なる空気の入った大きな袋だと思っている方もいますが、そうではありません。
エアマットにはエアセルと呼ばれる空気の入った横長の袋(下写真のオレンジ四角)が縦に並んだ構造をしています(黄色矢印)。では、エアマットの構造を理解するため横から観察してみましょう(黒矢印)。
以下はエアセルの動きをイラスト化した動画です。
このようにエアマットは約10分前後の間隔でエアセルが凹んだり膨らんだりを繰り返しているのです。エアセルが凹むことで皮膚への持続的圧迫が解除され、皮膚への血流を回復させることができるのです!
以上のポイントをふまえ、以下にエアマットの有効性をまとめます。

エアマットはエアセルの収縮・膨張を繰り返すため、同じ部位に持続的な圧迫がかかりにくく、褥瘡がかなり発生しにくい構造になっている
そのため、寝返りを打てなくなったら素早く(できれば半日以内に)適切なエアマットを使用することで褥瘡発生をかなり減らすことができる!

※ただ、これはあくまで個人的な経験に基づいた考えであることをご了承ください(エアマットは国や製造メーカーによって予防効果に差が大きく、全体として質の高いエビデンスを示せない現状があります)。

さらに訪問診療のような介護保険を利用できる患者さんでは非常に大きなメリットがあります。
それは
介護度2以上なら月に1,000円ほどでエアマットをレンタルできる(しかも、エアマットは褥瘡予防効果が高いものでもレンタル料はほとんど変わらない+一度褥瘡を生じればその10倍以上の治療費がかかる可能性がある)
実はエアマットにはかなりの予防効果に差があります。ただ、レンタル料は予防効果が高いものと劣るものを比べてもほとんど差がない(月数百円程度)ため、特に褥瘡発生リスクの高い患者さんでは褥瘡予防効果の高いエアマットをレンタルすることをおすすめします
ただ、中には月に1,000円も出せないという声もあります。そのような場合には、患者さんやご家族に対し上記のように実際褥瘡発生した際の負担が10倍以上かかる旨を説明してあげることで多く場合導入を受け入れてくれます。

以下に褥瘡発生リスクが高く、褥瘡予防効果の高いエアマットを早期から導入すべきケースをお示しします。
褥瘡予防効果の高いエアマットを導入すべきケース
1 すでに褥瘡がある
2 拘縮がある
3 30度以上のギャッチアップを長時間(目安は1時間以上)行う
4 やせていて骨突出が強い
上記患者さんには褥瘡予防効果の高いエアマットの導入をおすすめします。では、具体的にどのエアマットを選ぶべきか?、詳細は以下のページを参照ください
実は多くの医療従事者が勘違い!?エアマットの適切な選び方

ただ、これらのことを知っていても、褥瘡が発生してしまうことが少なからずあります。その原因は一体何なのでしょうか?

3 エアマットの重要性を理解しても褥瘡が発生する4つの理由

では、エアマットの重要性を理解していても、褥瘡が発生する理由を4つお伝えしたいと思います

原因① 全身状態が悪化して急に動けなくなった場合、その対策に追われエアマット導入に意識が回らない

例えば、感染症や脱水・脳血管障害などで急に動けなくなった場合、どうしてもそれらへの対策に意識が集中してしまうため、寝返りの有無まで考えられない可能性があります。そうして、褥瘡が発生しているケースは少なくありません。
そのため、急変した際にも、ご家族に寝返りの有無を確認し、寝返りを打てていないようであれば、寝返りを打てるようになるまでエアマットを導入することをおすすめします(基本的に介護度2以上ないと介護用ベッドはレンタルできませんが、急変時などは例外的に借りることができる可能性があります。ただ、市町村で異なる可能性があり、詳しくはケアマネジャーにご相談ください)。

原因② 筋力低下などで少しづつ寝返りを打たなくなっていることに気づかない

サルコペニア(加齢による筋力低下)などにより少しずつ寝返りを打つ回数が減少し褥瘡が発生するケースも少なくありません実際トイレは行けても寝返りは打てず褥瘡を生じていることもあります。
患者さんの状態を観察し、寝返りを打てなくなっている可能性があれば、座位で不安定になりにくいようなエアマットもありますので、歩ける患者さんでもエアマット導入の検討が必要です。
ただ、現実的にご家族も常に監視しているわけではないので寝返りを打てなくなっているかどうかわからないことも多いです。
そのため、海外では3Dセンサーなどを利用し寝返りをうっているかどうかを評価し、長時間寝返りを打っていなければアラームで通知するような医療機器が使用され、一定の成果をあげています。
褥瘡は発生すると多額な医療費がかかりますし、本人・ご家族共に大変な思いをするため、日本でも導入が望まれます。

原因③ エアマット使用していても防げない、踵の褥瘡

特に麻痺などで下肢を動かすことができない患者さんは、エアマットを使用していても踵部褥瘡のリスクがあります
それはなぜなのかといいますと、上のイラストをみて頂ければわかりますように、踵は突出が強いのでエアセルが膨張時はもちろん収縮時にも圧迫され、持続的圧迫が加わってしまうことが一因です。
では、どのようにして対策すればよいのか、以下のページに詳細を載せていますので参考にしてください。

エアマットでも防げない!?踵褥瘡の対策法

原因④ エアマットの重要性について医療従事者の認知不足

ここまでのお話しで、エアマットの大切さがわかって頂けたかと思います。ただ、実際にはこのような知識をもっている方はまだまだ多くはありません
特に訪問診療では個別に患者さんの自宅を訪問することが多いです。そのため、訪問診療に関わる方々全員が今回お話ししたような知識を得て、さらに実行できて始めて褥瘡発生をゼロに近づけることができます
ぜひ、今回学んでいただいたみなさんが、エアマットの大切さについて、周りの方々に周知していただけますと幸いです

まとめ

では、エアマットの有効性と導入のタイミングについてのまとめです。
  • エアマットは寝返りを打てない高齢者が褥瘡を予防する上で非常に有効
  • 寝返りを打てなくなったら可能な限り早急(できれば半日以内)に適切なエアマットを導入する
  • 褥瘡リスクの高い患者さんには予防効果の高いエアマットを選ぶ
  • 寝返りを打てなくなっていることを見逃さない
このように、寝返りを打てなくなったら早期にエアマットを導入することが非常に大切です。
これは褥瘡予防だけでなく褥瘡治療においても同様です。発生した褥瘡はいくら適切に処置しても、創部が圧迫されていれば治る創も治らなくなってしまいます。ぜひ、褥瘡が発生した際も早急にエアマット導入をご検討ください

そして、もう一つ大切なこと、それは患者さんの状態に合わせた適切なエアマットを選ぶ、ということです。
次回、適切なエアマットの選び方についてお話しします。
目次