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訪問診療に携わる方必見!これを知らないと褥瘡(床ずれ)対策はうまくいきません(2026年3月8日更新)

まもりさん

褥瘡の対策って治療法も予防法もたくさんあって何から手をつけてよいのやら…

S先生

確かにね…
ただ、褥瘡(床ずれ)対策はやることが多いので、優先順位をつけるのがコツです。まず最初に対策してほしいポイントがあります。

まもりさん

え、何ですか?
ぜひぜひ、教えてください!

S先生

では、今回は高齢者に携わる医師・看護師・介護士・ケアマネなどあらゆる医療従事者の皆さんにぜひ知っていてほしいこと、お話しします!

褥瘡予防の第1回目はなぜ褥瘡は発生し、どのように対策すればよいのか、についてのお話です。褥瘡予防は、ご本人を守るだけでなく、介護する皆さんのぐっすり眠れる時間を守ることにもつながる、在宅医療では必須のスキルだと思います。

では、いきなり結論からお話しします。訪問診療における褥瘡対策で最も大切なことは一体何なのか?
それは…
訪問診療における褥瘡対策(予防・治療)で最も大切なこと(私見)
寝返りを打てない患者さんには素早く(できれば当日中に)適切な体圧分散寝具(主にエアマット)を導入する!
※エアマットにも種類があり、患者さんの状態に合ったものを選ぶことが大切です。選び方の詳細は『エアマットの適切な選び方』をご覧ください
ことだと、私は考えています。
※1 もちろん、体位変換やずれの対策、全身・栄養状態の管理、失禁や湿潤(ふやけた状態)への対応なども大切です。ただ、マンパワーに限りのある在宅では、人手もコストも最小限で済むエアマット導入の優先度が高いと考えています。
※2 エアマットは手配に時間がかかることもあります。その間はクッションや枕を使って30度側臥位のポジショニング、こまめな体位変換(可能なら2~4時間ごと)でつなぎましょう。特に、骨が出っぱる場所(仙骨・踵など)が、圧迫で消えない持続的な発赤・紫〜黒っぽい変色(紫斑)(下写真参照)、熱感・腫れがないかをあわせて確認することが大切です(詳細はこちら)
※3 この記事は主に、自力で寝返りを打てずベッド上で過ごす患者さんの予防が対象です。座位の褥瘡予防は⑦をご覧ください。
”褥瘡対策”と聞くと、多くの方が、褥瘡の治療や処置を想像します。しかし、訪問診療において一度生じた褥瘡、特に壊死組織を伴うような深い褥瘡を治すことは褥瘡治療に精通した医療従事者でも簡単なことではありません
さらに、現状の訪問診療では、いくつかの問題があります。
訪問診療における褥瘡治療の現状

褥瘡に精通した医師は充足していない(地域差が大きい)
→そのため、いかにして治りにくい褥瘡(特に脂肪層に至るような深い褥瘡)を作らないようにするか、に重きを置くことが訪問診療では大切
このような現状から、適切な褥瘡予防を身につけることが、褥瘡対策ではとても大切だと考えています。そして、その中でも前述のとおり”寝返りを打てない患者さんにいかに素早く適切なエアマットを導入できるか”、が褥瘡対策の最重要事項だと考えています(あくまで私見です)。
ただ、現状は残念ながら、適切なタイミングで適切な体圧分散寝具を選べているケースは、まだまだ多くはありません

今回は、なぜ訪問診療では褥瘡対策に体圧分散寝具の導入が最も大切だといえるのか、そして、適切な体圧分散寝具選びについて簡単なさわりをお話ししたいと思います。
※ここからのお話しは、自力で寝返りをうてず、ベッド上で過ごされる患者さんについてのお話しです。

※本記事の内容は、皮膚科専門医の臨床経験とガイドラインに基づく目安です。個々の患者さんの状態により異なる場合がありますので、最終的な判断は担当医や主治医にご確認ください。
目次

1 褥瘡予防の3本柱

褥瘡を予防するのに数多くの対策法があります。
その中でも、個人的には以下の3つの対策を行うことが大切だと考えています。
褥瘡予防の3本柱(私見)
①適切な体圧分散寝具の使用(詳細はこちら)
②適切なポジショニング+体位変換(詳細はこちら)
③全身状態・栄養の改善
ただ、「言うのは簡単」でも、実際に訪問診療の現場でこれらすべてをしっかり行うのは大変ですよね。
私、訪問診療で勤務する中で、特に居宅においてマンパワーが大変不足していることを実感します。
そのような現状において、上記対策の②適切なポジショニングやこまめな体位変換を行うことは決して簡単ではありません。時に夜中何度も起きて体位変換を行うよう指導されている、という声も聞きますが、これでは介護疲れで介護者が心身ともに疲れ果ててしまいます。
さらに、③全身状態の改善も、簡単にできることではありません。
例えば、全身状態の悪化が褥瘡発生のリスクとなる代表的なものには、①糖尿病、②動脈硬化による循環障害、③栄養状態の低下(食事量低下、嚥下困難)など様々な要因があります。
ただ、これらどれをとっても簡単に解決できるものではありません。

そのような現状において、褥瘡対策として、在宅でも取り入れやすく効果が期待できるのが、①適切な体圧分散寝具の使用、なのです。
※もちろんポジショニングや体位変換も大切ですので、そちらについては以下のページに詳細がありますので参考にしてください。
寝姿勢+ポジショニングについて学ぼう!
在宅でも負担の少ない体位変換を考えよう!

では、体圧分散寝具がなぜ早期の導入が大切なのか?、そして、早期のエアマット導入の大切さを知っていたとしても褥瘡が減らない原因について、ここからお話ししていきます。

2 体圧分散寝具選びと導入のタイミングが褥瘡発生の運命を決める!?

では、ここからは体圧分散寝具を導入するタイミングについてお話しします。
上のイラストのように筋力が落ちて、ベッド上の生活となり寝返りをうてなくなった患者さんがいます。食欲も低下し、やせてきて仙骨の突出もみられます。
このような患者さんにウレタンフォームマットが導入されました。はたして、これで十分に褥瘡予防はできるのでしょうか?

2-1 ウレタンフォームマットで褥瘡は十分に予防できるのか?

その答えを知るために、下のグラフはとても役立ちます。ちょっととっつきにくいですが、決して堅苦しいお話しではないので、少々お付き合いください。
このグラフは、「どのくらいの強さの圧迫が」「どのくらいの時間続くと」褥瘡ができてしまうのかを示したものです。縦軸が圧力の強さ、横軸が圧迫が続く時間で、赤いラインを超えると皮膚の組織がダメージを受ける(壊死=組織が死んでしまう)おそれがあることを表しています
※1赤いラインはあくまでも一例で、全身状態や体格による個人差やずれ力により変化することをご了承ください
※2褥瘡発生の原因は上記グラフで示されるような虚血によるものだけではありません。また、近年は「組織変形」による褥瘡も注目されています。これは、特に骨が突出した部位において、骨と皮膚の間の組織(主に柔らかい脂肪や筋組織)がねじれたり引っ張られたりして傷むもので、ごく短時間(数十分ほど)でも組織が傷むと考えられています(J Biomech. 2008;41(9):2003-12)。
例えば、先ほどの患者さんがウレタンフォームマットに寝ていても、痩せていて骨突出の強い部分には40mmHgを超える圧がかかる可能性があります。
※40mmHgは、指で皮膚を軽く押して白くなるくらいのそれほど強くない圧力です。
では、40mmHgの圧がどのくらい持続すると褥瘡が発生しうるのかこのグラフを利用して確認してみましょう。
グラフを見ると、それほど強くない圧である40mmHgでも、寝返りが打てず圧迫が続くと、約半日(12時間ほど)で皮膚がダメージを受ける可能性があることが分かります。(前述のとおり赤いラインは全身状態や血流の程度、ずれ力などによって変わるため、必ずこの圧が持続すれば褥瘡を生じるわけではありません)。
このグラフから以下のことが読み取れます。
れほど強くない圧でもその圧が持続すれば数時間で褥瘡が発生する可能性がある(寝返りを打てない、足を動かさない場合など)
しかも、持続的な圧を解除できないウレタンフォームマットでは褥瘡を十分に予防できない可能性がある
だからこそ、次にお話しするエアマットが必要になるのです!

2-2 寝返りをうてない患者さんを持続的圧迫から解放する方法

持続圧迫への対策は、①体圧分散寝具 ②体位変換 ③踵のオフローディング ④ギャッチ角度の見直しの組み合わせです。その中で、在宅でいちばん続けやすい土台がエアマットなのです。。

では、なぜエアマットが圧迫が持続しないようにできるのでしょうか?それは、エアマットの構造を知ることで理解できます。
下の写真はエアマットのシートを外したものです。
エアマットというと単なる空気の入った大きな袋だと思っている方もいますが、そうではありません。
エアマットにはエアセルと呼ばれる空気の入った細長い袋(下写真のオレンジ四角)が複数並んだ構造をしています(黄色矢印)。では、エアマットの構造を理解するため横から観察してみましょう(黒矢印)。
以下はエアセルの動きをイラスト化した動画です。
このようにエアマットは約10分前後の間隔でエアセルが凹んだり膨らんだりを繰り返しているのです。エアセルが凹むことで皮膚への持続的圧迫が解除され、皮膚への血流を回復させられる可能性が高まるのです!
※エアセルの切替の間隔は機種により異なります
以上のポイントをふまえ、以下にエアマットの有効性をまとめます。

エアマットはエアセルの収縮・膨張を繰り返すため、同じ部位に持続的な圧迫がかかりにくく、褥瘡がかなり発生しにくい構造になっている
そのため、寝返りを打てなくなったら素早く(できれば当日中に)適切なエアマットを使用することで褥瘡発生のリスクを大きく下げられる可能性がある!

※ただ、これはあくまで個人的な経験に基づいた考えであることをご了承ください(エアマットは国や製造メーカーによって予防効果に差が大きく、全体として、科学的に十分に証明しきれている段階ではない、という現状があります)。
※エアマットは持続圧迫を軽減する非常に有効な道具ですが、エアマットだけで体位変換やポジショニングが不要になるわけではありません。エアマットと体位変換を組み合わせることで、より効果的に褥瘡を予防できます。

さらに訪問診療のような介護保険を利用できる患者さんでは非常に大きなメリットがあります。
それは
在宅におけるエアマットのメリット
在宅の患者さんで要介護2以上であれば、介護保険を使って体圧分散寝具をレンタルできる。1割負担の場合、月におよそ1,000円前後が目安
※要支援・要介護1でも、状態急変などで医学的に必要と判断され、市町村確認が通れば例外給付になることがあります。ケアマネジャーに相談してみてください
※自己負担額は機種と負担割合で変わるので、契約前に月額を確認しましょう
上記のような在宅における大きなアドバンテージを生かし、特に重度褥瘡の発生リスクが高い患者さん(下記参照)では褥瘡予防効果の高いエアマットをレンタルすることをおすすめします
ただ、中には月に1,000円も出せないという声もあります。そのような場合には、患者さんやご家族に対し、実際褥瘡発生した際の負担が1割負担でも数万円かかる(※1)上に、患者さんは連日の処置や痛みなどで生活の質を大きく損なう可能性がある旨を丁寧に説明することで納得していただけることが多いと思われます
※1脂肪組織を超える深い褥瘡で訪問看護による連日の処置が必要になった場合

以下に褥瘡発生リスクが高く、褥瘡予防効果の高いエアマットを早期から導入すべきケースをお示しします。
褥瘡予防効果の高いエアマットを導入すべきケース(私見)
1 すでに褥瘡がある
2 拘縮がある
3 30度以上のギャッチアップを長時間(目安は1時間以上)行う
4 やせていて骨突出が強い
上記患者さんには褥瘡予防効果の高いエアマットの導入をおすすめします。では、具体的にどのエアマットを選ぶべきか?、詳細は以下のページを参照ください
実は多くの医療従事者が勘違い!?エアマットの適切な選び方

ただ、これらのことを知っていても、褥瘡が発生してしまうことが少なからずあります。その原因は一体何なのでしょうか?

3 エアマットの重要性を理解しても褥瘡が発生する4つの理由

では、エアマットの重要性を理解していても、褥瘡が発生する理由を4つお伝えしたいと思います

原因① 全身状態が悪化して急に動けなくなった場合、その対策に追われエアマット導入に意識が回らない

例えば、感染症や脱水・脳血管障害などで急に動けなくなった場合、どうしてもそれらへの対応で手いっぱいになることがあり、寝返りの有無まで考えられない可能性があります。そうして、褥瘡が発生しているケースは少なくありません。
そのため、急変した際にも、ご家族に寝返りの有無を確認し、寝返りを打てていないようであれば、寝返りを打てるようになるまでエアマットを導入することをおすすめします(寝返りが打てているかは以下のように確認するとよいと思います)。
寝返りが打てているかの確認方法
1 患者さんが指示に従える場合:ベッド上で左右に向いてもらえるかを実際に確認

 確認ポイント
 ①肩と骨盤が一緒に動くか
 ②途中で止まらないか
 ③戻るのに介助が要らないか
以上3点を確認し、1つでも難しければ寝返り低下ありとして対応を考える
2 患者さんが指示に従えない場合:ご家族に朝起きたとき寝たときと同じ姿勢かを確認
※2 基本的に介護度2以上ないと介護用ベッドはレンタルできませんが、急変時などは例外的に借りることができる可能性があります。ただ、市町村で異なる可能性があり、詳しくはケアマネジャーにご相談ください。

原因② 筋力低下などで少しずつ寝返りを打たなくなっていることに気づかない

サルコペニア(加齢などによる筋肉量の減少・筋力低下)などにより少しずつ寝返りを打つ回数が減少し褥瘡が発生するケースも少なくありません
実際トイレは行けても寝返りは打てず褥瘡を生じていることもあります。
患者さんの状態を観察し、寝返りを打てなくなっている可能性があれば、座位で不安定になりにくいようなエアマットもありますので、歩ける患者さんでもエアマット導入の検討が必要です。
※観察ポイントとしては、一人暮らしであれば朝起きたときにいつも同じ姿勢で寝ていないか、ご家族がいれば『最近、寝ているときに体の向きは変わっていますか?』と聞く方法も有用です。
ただ、現実的にご家族も常に監視しているわけではないので寝返りを打てなくなっているかどうかわからないことも多いです。その場合は、前述の原因①の寝返りを打てているかの確認方法をご活用ください。
(ちなみに、海外では3Dセンサーなどを利用し寝返りをうっているかどうかを評価し、長時間寝返りを打っていなければアラームで通知するような医療機器が使用され、一定の成果をあげています(①Int J Nurs Stud. 2018 Apr:80:12-19. ②Adv Skin Wound Care. 2016 Dec;29(12):567-574.))
褥瘡は発生すると多額な医療費がかかりますし、本人・ご家族共に大変な思いをするため、日本でも導入が望まれます。

原因③ エアマット使用していても防げない、踵の褥瘡

特に麻痺などで下肢を動かすことができない患者さんは、エアマットを使用していても踵部褥瘡のリスクがあります
それはなぜなのかといいますと、上のイラストをみて頂ければわかりますように、踵は突出が強いのでエアセルが膨張時はもちろん収縮時にも圧迫され、持続的圧迫が加わってしまうことが一因と考えられます。踵の褥瘡予防は、おしりの褥瘡予防とは少し違うアプローチが必要なのです。
※特に踵褥瘡は見落としやすい場所です。入浴やおむつ交換のときなどに、踵の皮膚が赤くなったり水疱が発生していないかチェックする習慣をつけましょう。これらの異常がある場合は早めに医療者へ相談してください。
では、どのようにして対策すればよいのか、以下のページに詳細を載せていますので参考にしてください。

エアマットでも防げない!?踵褥瘡の対策法

原因④ エアマットの重要性について医療従事者の認知不足

ここまでのお話しで、エアマットの大切さがわかって頂けたかと思います。ただ、実際にはこのような知識をもっている方はまだまだ多くはありません
特に訪問診療では個別に患者さんの自宅を訪問することが多いです。そのため、訪問診療に関わる方々全員が今回お話ししたような知識を得て、さらに実行できて初めて褥瘡発生を大幅に減らすことができます
ぜひ、今回学んでいただいたみなさんが、エアマットの大切さについて、周りの方々に周知していただけますと幸いです

まとめ

今回はなぜ褥瘡が発生し、どのようにして対策すればよいのかお話ししてきました。では、まとめです。
  • 在宅で褥瘡を予防するためには寝返りを打てないことに気付くことが大切
  • 寝返りが打てない場合、『体圧分散寝具』『体位変換』『踵を浮かせる(下肢を動かさない場合)』『皮膚観察(発赤や紫斑の有無)』の4つの対応を行う
  • 特に在宅では介護負担を増しにくいエアマットが有効。寝返りを打てなくなったら可能な限り早急(できれば当日中)に適切なエアマットの導入を検討する
このように、寝返りを打てなくなったら早期にエアマットを導入することが非常に大切だと考えています。
これは褥瘡予防だけでなく褥瘡治療においても同様です。発生した褥瘡はいくら適切に処置しても、創部が圧迫されていれば治りにくくなってしまいます。ぜひ、褥瘡が発生した際も早急にエアマット導入をご検討ください

そして、もう一つ大切なこと、それは患者さんの状態に合わせた適切なエアマットを選ぶ、ということです。
次回、適切なエアマットの選び方についてお話しします。
(もちろんエアマット導入だけでは褥瘡対策として不十分です。体位変換や踵褥瘡や坐位での褥瘡対策なども必須です。在宅の限りある資源の中でどのように対策していけばよいのか記していますので、明日からの対策にお役立ていただき、みんなで在宅褥瘡を減らしていきましょう)
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