まもりさん
踵の褥瘡はエアマットを使用しても防げないことがあるって本当ですか?
そうなんです…特に筋力が弱ったり、麻痺があって足がほとんど動かなくなったら、エアマットとは別に下肢の褥瘡予防が必要です
褥瘡予防はエアマットで万事解決!ではないんですね…
残念ながら、褥瘡予防はそんなに甘くはありません^^;
では、今回はなぜ踵の褥瘡はエアマットでも防ぎきれないか、どのように対策してけばよいか、お話ししたいと思います。
実は踵褥瘡の予防法は、仙骨など臀部褥瘡の予防法とは大きく異なります。
それを意識して対策しないと、踵褥瘡を十分に予防することはできません。しかも、詳細は後でお話ししますが、一度踵褥瘡を発生すると、高齢者は足の血流が悪い方も多いため、創は治らず痛みも強く患者さんのQOLを大幅に低下させてしまいます。さらに、感染を合併すれば最悪命にかかわったり、そこまでいかなくても足切断のリスクもあります。
そのため、踵褥瘡の対策法を臀部とは別に十分に理解して実践することが大切です。
その方法について今回お話しするのですが、始めに一つ注意点があります。
踵の褥瘡予防は寝たきりの患者さんすべてに適応があるわけではありません。寝たきりの患者さん全員に行うと介護負担が大幅に増加し、介護士やご家族が疲弊する一因となってしまいます。
以下に、踵褥瘡予防を行った方がよいケースをお示しします。
踵褥瘡予防を行った方がいい場合
① 麻痺などで下肢をほとんど動かせない
② 糖尿病や腎不全などがあり足の血流障害がある
特にポイントとなるのは①です。もちろん②も大切ですが、どの程度足の血流が保たれているのかを必ずしも評価してはいませんので、②が分からなければ、少なくとも足をほとんど動かさない場合には、これからお話しする踵褥瘡対策を行うことをおすすめします。
目次
1 なぜ、エアマットでも踵褥瘡は防ぎきれないか?
実際の対策法の前に、なぜ踵褥瘡が発生してしまうのか、についてお話しします。
踵がなぜエアマットを使用しても褥瘡発生のリスクがあるのか、それにはいくつかの原因があると思います。
その最も大きな原因の一つが“踵は突出している”ということです。
では、なぜ突出しているとエアマットを使用していても褥瘡のリスクがあるのか、それは下のイラストをみるとわかると思います。
踵のような突出が強い部位はエアセルが膨張しているときだけでなく、収縮している時も圧迫が持続してしまうのです(エアセルがわからない方は、こちらをご参照ください)。
つまり、エアマットを使用していても、踵は持続的な圧迫を生じやすく、褥瘡を発生するリスクがあるのです。
さらに踵などの四肢末端は、高齢者では閉塞性動脈硬化症などで血流が良くない方も少なくないため、臀部より弱い圧でも褥瘡を生じやすいのです。
その上、閉塞性動脈硬化症などにより足への血流が悪い場合、一度踵褥瘡を生じると創に酸素も栄養も十分には届かなくなるため、非常に治りにくい上に創の痛みも強く患者さんのQOLが大幅に低下してしまうのです。したがって、褥瘡が発生する前に対策することが大切です。
2 踵の褥瘡予防のポイントと注意点
では、どのように踵などの下肢褥瘡を予防すればよいのでしょうか? その方法は非常にシンプルです。それは、
- 下肢の下にクッションを入れて、踵を浮かせる
ということです。踵を浮かせて圧迫されないようにするのです。 ただ、ここで注意点があります。下の写真を見てください。
このようなコンパクトなクッションを下肢の下に入れると踵を浮かせることはできます。ただ、クッションの幅が狭いため、下肢の体重がクッションの接する狭い範囲に集中し、患者さんの不快感が高まりますし、クッションが当たるところに褥瘡を生じるリスクもあります。
さらにもう一例。例えば上写真のような介護用クッションを入れて踵対策をしたとします。
このクッションでは、クッションの三角の頂点が当たる部位(膝下)に圧が集中し、さらに踵もマットに当たってしまっています。これでは膝下にも踵にも褥瘡ができる可能性があります。
このように適切でないクッションを入れると、十分な踵部褥瘡予防にならないばかりか、踵以外に褥瘡を生じる可能性もあるのです。
では、下肢の下に入れるクッションはどのようなものがよいのでしょうか?
踵を浮かせるためのクッションで抑えるべきポイント
ここからは患者さんの不快感は最小限に、踵褥瘡の予防を行うためのクッションについて考えてみます。 そのクッションの最も基本となるポイントは
①なるべく下肢の広範囲に接するクッションを入れ圧を分散させる
②踵はマットから少し浮かせる(踵の下に手を入れてマットとの間に少し隙間ができる程度)
③クッションが固すぎず柔らかすぎない
ということを意識することが大切だと考えています。
ただ、やっかいなのは足の長さや拘縮の度合いなど、下肢の形状はかなり個人差が大きいため、介護保険で下肢用のクッションをレンタルできますが、あらゆる下肢にフィットするクッションはありません。
ではどうするか…
それは、”介護保険でレンタルできるクッションや家にあるものを組み合わせてオーダーメイドでクッションを作る”のです。
では、具体的にどのように行えばよいかみてみましょう。
先ほどの三角クッションを入れたケースで考えてみましょう。
実はこのクッション少しアレンジすればより適切なクッションに変えることができます。
それは、この三角クッションの上に別のクッションを重ねる、ということです。
それも自宅にあるものを使用すれば余分な費用もかかりません。今回は下写真のように柔らかくて厚みのある毛布を折り畳み三角クッションに重ねてみました。
すると、このように①毛布が下肢全体に接し、②踵がぎりぎり浮く、クッションを作ることができました。
さらに、このクッションを下写真のように養生テープなどで固定すると、おむつ交換などで外してもばらけることなく、簡単に再度下肢の下に入れることができます。
ただ、例えば下写真のような下肢の長い男性の場合は、このクッションではボリューム不足です。
そのため、今回はご家庭にあった冬用の綿の掛け布団をお借りして、それを6つ折りにし、下肢の下に入れることで、下肢と踵の褥瘡対策を行いました(どのくらい折り曲げるかは布団の厚みや下肢の形状により異なります。程よいクッションが完成したら、先ほどと同様に養生テープで固定すれば、ばらけにくくなります)。
このように、介護用クッションや家にあるもの(冬用の綿の掛け布団や枕)などを利用して、先ほどお話しした2つの条件を満たすクッションを作ることで、踵の褥瘡対策を行っています。
そして、ここで、下肢の下に入れるクッションについてもう一つのポイントがあります。
それは、
良肢位を意識してクッションを作る
ということです。
良肢位とは、教科書的には"身体が麻痺しているなど関節がうまく動かせない状態にある患者さんを、日常生活を送る上でより過ごしやすい・動きやすい状態に保たせておくことができる肢位"、と定義されています。
ただ、これでは、ちょっとわかりにくいので、すごくかいつまんで表現すれば、”良肢位とは患者さんが心地よい姿勢”、です。なぜ、良肢位が大切か、もちろん患者さんの安楽に繋がることが一つですが、それは拘縮の予防にもつながると考えられているのです。
それぞれの関節がどのくらいの角度になると良肢位になるのかを、上のイラストは示しています。
この中で下肢のクッションを入れる際に関係してくるのは股関節と膝関節で、それぞれ20度くらいを保つのが良肢位になります。
では、下肢にクッションを入れた際に良肢位になっているかをどのように確認すればよいでしょうか?
その一つの方法を下の写真に示します。
上の写真のようにマットから膝下までの距離が指を除いた手のひらの幅(上写真の黄色矢印)くらいになると股関節・膝関節が良肢位になっていると考えられます。そのため、クッションがやや沈むことをふまえ、クッションの厚みは指も含めた手のひらくらいの厚みを持たせ(もちろん素材により異なりますので一応の目安)、踵がマットに強く圧迫されないよう踵ぎりぎりまで幅のあるクッションを作成する(上写真参照)とよいと思います。 ただ、良肢位にすれば拘縮を完全に予防できるわけではありません。拘縮対策については別のページでお話ししていますので参考にしてください。 拘縮は苦痛のサイン? 褥瘡と共に拘縮も防ごう! このようにして、レンタルできる介護用クッションや冬布団などを駆使し、患者さんに適したクッションを作成することをおすすめします。 最後に、下肢のクッションはポイントが多くややこしかったと思いますので、おさらいしましょう。
下肢の下に入れるクッションのポイント まとめ
①クッションが太もものつけ根~踵直上まで下肢全体に接する(膝の裏も隙間がないように)
②踵とマットの間に少し隙間ができる
③クッションが固すぎず柔らかすぎない
④良肢位を意識し、膝下が指を除いた手のひら分くらいマットから高くなるようにクッションにボリュームももたせる(1枚でボリューム不足の場合はいくつかのクッションを重ねる)
⑤おむつ交換などに下肢に入れたクッションを外す際に形が崩れてしまう場合は、養生テープなどで固定する
実際これらの条件を満たすクッションを作るのはなかなか骨の折れる作業です。特にすでに拘縮している患者さんは一筋縄ではいかないことが多々あります。
具体的なクッションの作り方はYouTubeの中で動画解説していますので、参考にしてみてください
このように患者さんにとって心地よく、さらには褥瘡や拘縮の予防などにもなるクッションを作成するよう心掛けましょう。
3 下肢にクッションを入れることで新たな褥瘡発生??(クッションによる弊害とその対策)
3-1 下肢にクッションを入れると持続的な圧迫が生じ褥瘡発生のリスクがある?
最後に、前回までのサイトを見ていた方は疑問思った方がいるかもしれません。
”持続的な圧迫が加わると褥瘡ができるはずなのに、下肢にクッションを入れたら持続的な圧迫を生じてしまうのでは???”
それは事実です。ただ、持続的圧迫でも体幹部の重みが仙骨の突出にかかる圧に比べると、体幹に比べて軽い下肢の体重が、クッションを入れて下肢全体に分散されることで生じる圧は非常に弱いです。
弱い圧では、皮膚の毛細血管はつぶれないため、褥瘡発生のリスクはそれほど高まりません。ただ、時に例外もありますので、次に下肢に下にクッションを入れるリスク、についてその対策法と共にお話しします。
3-2 下肢の下に入れるクッションで褥瘡発生するリスクとその対応
実は、閉塞性動脈硬化症など血流が悪い患者さんでは弱い圧でも下肢に褥瘡を発生するリスクがあります。特に、О脚(左股関節の外旋)などになっていると、クッションの圧迫により下腿外側の腓骨部に褥瘡を発生することが散見されます(下のイラスト参照)。
では、なぜO脚になっていると腓骨部に褥瘡を生じやすいのか、下の写真を用いてもう少し詳しくお話しします。
上図左側のように、右30度側臥位で寝ていても左下肢がO脚のため、左下腿の腓骨部が下になり圧迫を受けています(黄色破線)。すると、次に左30度側臥位に体位変換した際にも、当然左下腿の腓骨部は圧迫を受けるため、持続的圧となり褥瘡発生のリスクになってしまうのです。
その対策として上図右側のように、右30度側臥位では、左臀部~左大腿部まで接するような大きさのクッション(赤破線)を踵の褥瘡予防として両下肢の下に入れるクッションのさらに下に入れ、左下肢が内旋するようにします(青矢印)。すると、左下腿の腓骨部がクッションに圧迫されにくくなるため、持続的な圧が解除されます。
ちなみにO脚は両下肢で生じていることが多いため、左30度側臥位では、逆に右臀部~大腿部にクッションを入れて右下腿外側の腓骨部に対する褥瘡予防も行います。
3-3 下肢の下に入れるクッションで褥瘡を生じないためのクッション作りのポイント
さらに基本的な対策として、下肢に入れるクッションはある程度弾力のある固すぎない素材を選ぶことやクッションの作り方も大切です(柔らかすぎてもつぶれて底付きするため適度の弾力が必要です)。
以下に、下肢に入れるクッションづくりの注意点・課題点とその対策法をまとめます。
下肢の下に入れるクッションにおける4つの問題点とその対策
①夏布団や座布団等の硬いクッションを使用すると腓骨部など下肢の圧迫されるところに褥瘡のリスクがある
→冬用の綿の掛布団や介護用クッションなど硬すぎず・柔らかすぎない、適度に弾力のあるクッションを選ぶ
②長時間の同じ姿勢は同じ部位に持続的圧迫が続き不快感・褥瘡のリスクとなる
→ご家族が無理のない程度に体位変換を行う(その際、O脚があり上になる下肢の腓骨部が圧迫されるようであれば、臀部~大腿部の下に下肢を内旋させるようなクッションを入れる(3-2参照))
③ボリュームがあるので、おむつ交換などの際に着脱が大変
→完成したクッションを養生テープで固定してばらけないようにする
④便などで汚染されるリスクがある
→大きなビニールでクッションを包み、さらに蒸れないようにビニールの表層をタオルなどで覆う
ぜひ、これらの問題点を対策しながら、適切に踵褥瘡予防をしていきましょう!
ちなみに拘縮がある場合は、複数個のクッションを駆使して両下肢を除圧する必要があり、さらにひと工夫必要ですので、以下のYouTubeも参考にしてみてください。
まとめ
では、最後にまとめです㋑
①踵はエアマットだけでは予防できない可能性がある(特に㋐下肢を動かせない、㋑下肢の血流が悪い場合)
②踵の褥瘡対策としては下肢の下にオーダーメイドのクッションを入れる。クッションのポイントは
1 クッションは硬すぎず柔らかすぎないものを選ぶ。
2 クッションが下肢全体に接する(膝下がマットから手のひら分くらい高い位置になるとベター)
3 踵がぎりぎりマットから浮く
③血流が悪がったり、やせていて骨の突出があると、下肢に入れるクッションで褥瘡を発生するリスクがある(ただ、総じてクッションを入れないよりは褥瘡発生リスクを軽減できることが多い)
→定期的な体位変換(左右30度側臥位)などで対策
冒頭でもお伝えしましたように踵褥瘡は一度作ってしまうと、痛みが強く傷も治りにくいため、患者さんに大きな不利益となってしまいます。
ここまで読んでいただいて感じられたと思いますが、下肢の下に適切なクッションを入れることは、意外と難しいです。大切なのは、まとめでに書かれているようなポイントを抑えたクッションを作ることだと思います。
ただ、これは慣れや経験も必要ですし、是非、みなさんも善は急げ、”下肢を動かせない患者さんへのクッション作り”、始めてみてはいかがでしょうか。