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在宅で2時間おきの体位変換はムリ!ではどうすれば?

まもりさん

先生、体位変換は介護者の負担が大きいですし、エアマットで褥瘡が予防できるなら体位変換は必要ない気がするのですが…

S先生

確かにそう考えたくなりますよね…
でも、体位変換を行わないと問題になることがあるのです

まもりさん

問題ってなんですか?

S先生

では、体位変換がなぜ必要なのか、考えてみましょう!

今回は体位変換についてのお話しです。
体位変換は実際行ってみるとわかりますが、大変な重労働です。
それを在宅で介護する方に、”床ずれ予防のために夜中も起きて体の向きを変えてください”、などとお話しすれば、多くの介護者は介護疲れを起こしてしまいます。在宅だけでなく、高齢者施設における介護士の負担の原因にもなっており、介護士不足を助長する恐れもあります。

ただ、褥瘡予防の①と②で、エアマットをいれれば褥瘡発生はかなり抑えられる、というお話をしました。
そうすると、体位変換は重労働ですし、行わなくてもよいのでは?と考えたくなります。
ただ、体位変換を全く行わないというのは、実は様々な問題を生じるリスクがあるのです。
今回は体位変換をなぜ行わないといけないのか、そして、体位変換の頻度について考えてみたいと思います。

※今回のお話しは学会や医学書などを参考に、あくまでも個人的な考えが含まれますのでご了承ください。
目次

1 エアマットだけでなく体位変換が必要な理由

始めに、エアマットの使用に加え、体位変換が必要な理由をあげてみます。
1 臀部や踵部などの褥瘡発生リスクを減らせる
2 患者さんの不快感を減らせ、拘縮のリスク軽減にもつながる
このように、体位変換を行うことは様々なメリットがあるのです。
では、それぞれについてもう少し詳しくお話しします。

1-1 体位変換が必要な理由 その1 臀部や踵部の褥瘡予防

エアマットを使用することで褥瘡発生はかなり抑えることができます。ただ、エアマットのみで褥瘡が全くできないようにすることはできません。
例えばやせていて骨突出の強い患者さんでは、エアマットを使用していても臀部に褥瘡が発生するリスクがあります。
さらには、褥瘡予防③でお話ししましたが、エアマットを使用していても踵部褥瘡のリスクがあります踵部褥瘡のリスク軽減のためにクッションを入れることを推奨しましたが、体位変換を行わないと下肢を動かせない患者さんはクッションによって同じところに持続的な圧迫が加わるため、特にクッションが固かったり、下肢の血流の悪い患者さんでは、下肢に褥瘡を生じるリスクがあります。

このような臀部や踵部の褥瘡予防のため、定期的に体位変換を行い、同じところに圧が持続しないように対策する必要があります

1-2 体位変換が必要な理由 その2 患者さんの不快感軽減~拘縮予防

体位変換が必要な理由、二つ目は患者さんの不快感軽減のためです。
寝返りをうてない患者さんの体位変換をおこなわないと、同じ部位が長時間圧迫されてしまうため、たとえ褥瘡は生じない程度の弱い圧迫であっても、患者さんの不快感が増してしまいます
そして、その不快感の増大とともに、同じ姿勢でいることで筋肉や関節も硬くなってしまうため、拘縮が進行するリスクがあるのです。

以上の理由などから、可能な限り体位変換を行う必要があります。
では、体位変換はどのように、どのくらいの頻度で行う必要があるのでしょうか?

2 体位変換を行う上で抑えるべきポイント

適切な体位変換を行う上で抑えるべき2つのポイントがありますのでそちらからお話しします。
体位変換で抑えるべきポイント
1 どのような寝姿勢を選び、ローテーションするか
2 どのくらいの間隔で体位変換するか
体位変換を行う際に、現在の姿勢から、次にどのような姿勢に変えれば、患者さんの不快感が軽減し、褥瘡のリスクも減らせるのか、知っている必要があります。
さらには、体位変換をどのくらいの頻度で行うか、これも大切なポイントです。褥瘡予防のためには体位変換はこまめに行うにこしたことはありませんが、それでは介護者の負担は増しますし、患者さんも高頻度に体を動かされると落ち着きません
では、体位変換はどのような寝姿勢をどのくらいの間隔で行うのが適切なのでしょうか?これら2つのポイントについてもう少し詳しく検討しましょう。。

2-1 どのような寝姿勢を選び、ローテーションするか

どのような寝姿勢を選ぶか、そのポイントは、仰臥位を選択してよいか、ということだと思います。
仰臥位がすすめられないケースは、前回のポジショニングでお話ししましたように、①仙骨部に褥瘡がある、②寝返りが打てずやせていて仙骨の骨突出が強い、の2つでした。
それらを踏まえ、寝姿勢の選択とローテーション方法について一例をお示しします。
寝姿勢をローテーションする一例
①仰臥位が行えない場合:右30度側臥位→左30度側臥位→右30度側臥位…仰臥位が可能な場合:仰臥位→右30度側臥位→左30度側臥位→仰臥位…
上記の寝姿勢を体位変換の都度変えていく
これはあくまでも一例で、全身状態に応じどちらかの30度側臥位をとれない、など様々なケースがありますので、適宜アレンジしてみてください。

2-2 どのくらいの間隔で体位変換するか

では、次に体位変換をどの程度の間隔で行えばよいのか、についてお話しします。私が医師になったころは体位変換は2時間おきというのが基本でした。しかし、これはとてつもなく重労働であり、医療従事者の腰痛など職業病の一因になっていたと思います。
最近では体圧分散寝具が進化していることもあり、体位変換の間隔もかなり緩和されてきました。
以下に2023年に策定された日本皮膚科学会の褥瘡診療ガイドラインが推奨される体位変換の間隔に対する内容を一部抜粋します。
体位変換の時間については、身体状況が許せば 2時間以内の体位変換が推奨されている。しかしながら…(中略)、様々なエアマットの登場によりそれらをひとくくりに評価できないこともあり、体位変換の時間に関する明確な答えは現在のところないと言わざるを得ないのが現状である。
つまり、エアマットを使用した場合、体位変換の間隔に明確な決まりはない、ということです。
といわれても…困っちゃいますね。
そこで、別のガイドラインをみてみましょう。褥瘡予防・管理ガイドライン 第4版では以下のように示されています。
粘弾性フォームマットレスを使用する場合には、体位変換間隔は4時間以内の間隔で行ってもよい
粘弾性フォームマットレスはいわゆるウレタンフォームマットと考えてよいと思います。
しかし、肝心のエアマットについての記載はありません。というのもエアマットは性能差が大きいため、一概に基準を決められないのだと思います。
そこで、これはあくまでも個人的意見ですが、私は以下のように体位変換を行っています
体位変換の間隔(私見)
①高齢者施設など在宅以外の場合(スタッフが充足し体位変換をこまめに行える場合):(エアマットを入れていたとしても)4時間を超えない範囲で体位変換を行う
②在宅の場合
(高齢者施設でもスタッフが充足せず体位変換をこまめに行えない場合)介護者の負担が増し過ぎない範囲で体位変換を行う(適切なエアマット導入が最優先)。例えば、在宅なら介護士や看護師などが訪問した際、おむつ交換や食事前後などに体位変換を行う

骨の突出部に発赤(1度の褥瘡)をみとめたら、深い褥瘡ができるリスクがあるため、もう少し頻回な体位変換を検討する
特に在宅においては一人で体位変換を行うのは大変な作業です。また、一人で体位変換を行うとずれを生じ、褥瘡リスクを高める恐れもあります
そのため、在宅では、複数人いるときに体位変換を行う程度にせざるをえないケースも現実的に少なくありません
ただ、その分、患者さんに適した高性能なエアマットを選択することでかなり褥瘡発生は防げることをこれはあくまでも個人的な経験上ではありますが実感しています。とくに、動けない方でも拘縮が進行しにくいよう工夫されたエアマットも登場しており、患者さんごとに適切なエアマットや介護用品を選ぶことで褥瘡や拘縮をある程度予防できるようになっています。
褥瘡・拘縮予防のためのエアマットや介護用品の選び方については以下に記載してありますので参考にしてください。
エアマットの選び方
褥瘡と共に拘縮も防ごう!

2-3 深い褥瘡発生のサイン 1度の褥瘡を見逃さない!

ただ、もちろん体位変換の頻度が減れば褥瘡発生のリスクは高まります。褥瘡リスクが高いことを示す一つの指標が骨突出部に一致した発赤です。このような突出部の発赤があったら、今後深い褥瘡が発生するリスクが高いサインです。ぜひ、サインを見逃さず以下のような対策をしてきましょう。
1度の褥瘡があり深い褥瘡発生のリスクがある場合の対策
1 適切なエアマットを導入する
(詳細はこちら)
2 (下肢の場合)血流の評価+下肢のしたに入れるクッションの見直し
(詳細はこちら)
3 体位変換の回数の見直し
(詳細はこちら)
4 骨突出部にエスアイエイドなどのクッションを貼り除圧
(詳細はこちら)

まとめ

以上、体位変換についてお話ししてきました。

では、まとめます。
・体位変換を行わないことは、患者さんの不快感が増し、褥瘡や拘縮発生につながる
・体位変換の頻度はウレタンマットでは4時間おきが推奨されているが、エアマットでは不定
・在宅では高性能のエアマットを選び、介護負担が生じない程度で体位変換を行う
体位変換は褥瘡予防だけでなく、患者さんの不快感の軽減や拘縮予防のためにも必要不可欠です。ただ、その頻度については体圧分散寝具の進歩などに伴い今後大きく変化する可能性があり、介護の現場で疲弊する介護士やご家族を多く見てきた私個人としても、患者さんにも介護者にも優しい時代になっていくことを願います。
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