まもりさん
”寝返りを打てなくなったらすぐにエアマット”、これが褥瘡対策の最優先事項なのですね!
前回の内容よく理解できました!
でも、エアマットってどれも似たりよったりですよね
実は同じようにみえるエアマットもかなり個性があるのです!
えっ
それぞれの患者さんに適切に選ばないと、さまざまなトラブルを生じてしまうこともあるのです!
前回もお話ししましたが、褥瘡対策で私が最も大切だと考えていることを復唱します。
寝返りを打てなくなったら可能な限り早急(できれば半日以内)に適切なエアマットを導入する
ここでポイントとなるのが、患者さんに応じた”適切なエアマットを選ぶ”ということです。今回は全てのお話の中でも超重要ポイントである、”エアマット選びのポイント”についてお話しします。エアマット選びを適切に行えれば、非常に患者さんが辛い思いをする深い褥瘡を激減できると思います。
ちなみに、最後のまとめにエアマット選びのフローチャートがありますので、結論だけでよい方はそちらをご活用ください。
目次
エアマットの特徴
前回、エアマットはエアセルという空気の袋が凹んだり膨らんだり繰り返すことで、同じところに長時間の圧迫が持続しないため、褥瘡予防に非常に有効、というお話をしました。
ただ、実は、エアマットの構造はメーカーや種類によってかなり違いがあります。では、エアマットによってどのような特徴があるのか、実際よく使われる2つのエアマットを比較してみましょう。
エアマットの比較(オスカー® vs ビッグセルアイズ®)
では、実際よく使用されるオスカー®とビッグセルアイズ®でどのように構造が異なっているか確認してみましょう。 以下にそれぞれのエアマットの断面をお示しします。
オスカー®(イラストの左側)のマットの厚みは17㎝ですが、イラストをみていただくとわかりますように、実際に膨張収縮するエアセルは上の半分だけで、下半分のエアーは膨らみっぱなしです。したがって、エアセルに厚みがそれほどないため、エアセルが縮小しても隣接した膨らんでいるエアセルとの高低差が少ないです(赤矢印)。すると、痩せている方の仙骨などの突出部ではエアセルが収縮しても圧迫が持続するため、褥瘡発生リスクを軽減しにくくなる可能性があると考えられます。
一方でビッグセルアイズ(イラストの右側)はマットの厚みが15㎝ですが、厚み分全てがエアセルであるため、エアセルが収縮した際に周囲の膨らんでいるエアセルとの間で十分な段差ができます(赤矢印)。
そのため、エアセルが凹んだ際に持続的圧迫は解消されやすく、骨突出が強い方でも褥瘡発生のリスクをより軽減できます。
このように同じエアマットでも構造はかなり異なっていることがわかります。
では、このように構造に違いが大きいエアマットを、どのようにして選べばよいのでしょうか?
私は以下の点を最も重視してエアマットを選んでいます。
”褥瘡発生リスクの高い患者さんや発生した褥瘡治療の観点からは、エアセルにより厚みがあるものを選ぶ”
※褥瘡発生リスクが高い患者さん
①拘縮がある
②30度以上のギャッチアップを1時間以上行う
③痩せていて骨突出が著明
エアマットの褥瘡予防として最も大切な役割は”定期的に十分除圧すること”だと考えています。その十分な除圧に最も寄与するのが、”エアセルの厚み”なのです。つまり、先ほどのビッグセルアイズのようにエアセルが厚い方が、エアセル収縮時に十分除圧できるため、そこで血流が回復し、褥瘡予防にも発生した褥瘡の改善にも貢献できるのです。
ただ、実はエアセルが厚いエアマットは、寝心地が悪くなる可能性があります。この辺りは十分な褥瘡予防とのトレードオフです。
そのため、患者さんの状態に応じて、褥瘡予防と寝心地のバランスを考えてエアマットを選ぶことが大切となります。
以下で、その具体的なエアマット選びのポイントについてお話ししていきます。
エアマット選びのポイント
1,寝返りは打てないが自立で座位になれる場合
サルコペニア(加齢などによる筋力低下)などで次第に動きが減ってきていて、自立座位やつかまり立ちなどはできますが、実は寝返りは打てなくなっている患者さんは少なくありません。そのような患者さんでも褥瘡を生じることがあるため、可能であれば早期のエアマット導入を検討したいところです。ただ、エアマットは沈み込むため、座位で不安定になることがあり転倒のリスクがあります。
そこで、先ほど登場したオスカー®は縁のみウレタンフォームでできているため、転倒リスクを軽減しています。
ただ、さきほど説明しましたようにエアセルの厚みはあまりありませんので、褥瘡発生リスクが高い患者さんにはすすめにくいです。具体的には、骨突出が軽度であり、長時間の30度を超えるギャッチアップは行わない、さらに拘縮もない患者さんが適応になると思われます。
ちなみに、オスカーにはもう一つ、自動体位変換機能という機能があり、この是非について考えてみましょう。
1(補足) 自動体位変換機能は本当に必要なのか??
実は、この自動体位変換機能には賛否両論ありますので、個人的な見解を述べさせていただきます。
自動体位変換機能の是非(個人的な意見)
・定期的に体を強制的に傾かされるため、患者さんの寝心地が悪く、QOLが低下する可能性
・傾けすぎるとずれを生じ褥瘡リスクにつながる可能性
・寝心地の悪くならない程度の傾けでは、十分な除圧にならない可能性
→以上から、エアマットによる自動体位変換機能は少なくとも褥瘡予防という観点からは十分な役割を果たさない(むしろマイナスの要素もある)可能性がある
学校でも実臨床でも、褥瘡予防に”体位変換は必須”、と刷り込まれています。もちろん体位変換は必要ですが、それは”機械で代用できるものではなく、あくまで人の手で行う必要がある”、と考えています。
では、やせていて自立座位保持が可能な方では何を選べばよいかといいますと、例えばここちあ利楽flowは起き上がろうとすると離床動作を自動感知して、エアセル内圧を高め転倒しにくくなるような機能が備わっています。さらに、エアセルが厚いためやせて骨突出のある方でもおすすめできます。
2,自力で座位になれない+褥瘡発生(-)、拘縮(-)、長期間の30度以上のギャッチアップ(-)場合
自力で座位になれず、寝返りを打てない上に、褥瘡発生(-)、拘縮(-)、長期間の30度以上のギャッチアップ(-)の場合は、寝心地と除圧性能がバランスの取れたエアマットがおすすめです。
個人的におすすめなのは、ネクサスIB®とここちあ利楽flow®です。
ネクサスIBはエアセルの厚みが10㎝以上あり、痩せている方でも除圧しやすい上に、背上げ時のずれ対策やモニターに背上げの持続時間が表示されるため、褥瘡リスクの一つである長時間の背上げへの対策も容易です。さらに、近年注目されている皮膚の蒸れによる褥瘡発生への対策として、マット内で空気を循環させ蒸れを防ぐ機能も備わっています。
ここちあ利楽flowは先ほども説明しましたようにエアセルに十分厚みがあるとともに、もう一つ独自の機能があります。それはスモールフロー機能です。
スモールフロー機能は上のイラスト右側に示しますように、通常のエアセルのさらに下の層に縦長のエアセルが体の四方に組み込まれています。それらが順番に膨張収縮を繰り返すことで、圧の分散効果が高まり、さらには拘縮悪化予防や寝心地の改善にも貢献することが期待されています。拘縮というのは関節を動かさないことで関節が固くなってしまう現象です。拘縮すると痛みを生じたり、ポジショニングが困難になったり、褥瘡発生リスク増加につながります。
この縦長のエアセルは、構造上オスカーの自動体位変換機能に似ていますが、スモールフロー機能による傾きはより軽度のため、寝心地を悪化させにくいと考えられています。
そして、なぜ、このスモールフロー機能が拘縮予防に有効かといいますと、この縦長の独特な形状のエアセルが膨らんで皮膚を刺激すると、その圧迫をもとに戻そうとする反発力(姿勢反射)が生まれ、それが拘縮の進行を抑制すると考えられています。
拘縮予防についての詳細は以下の記事に詳細を載せています。
拘縮予防の対策法
3,自力で座位になれない+以下の一つでもあてはまる場合
□褥瘡発生、□拘縮、□30度以上のギャッチアップを1時間以上続ける
上記チェック事項に一つでもあてはまる場合は、定期的に十分な除圧をしないと、褥瘡発生のリスクが高いですし、すでに発生した褥瘡がある場合は治りにくくなってしまいます。
そこでおすすめなのが”ビッグセルアイズ”です。
なぜビッグセルアイズがおすすめか、それは冒頭でもお話ししましたように”エアセルに国内最高峰の厚みがある”ということです。このエアセルの厚みにより、エアセル収縮時に十分な除圧ができるため、拘縮していたり骨突出が強い患者さんでも、褥瘡発生リスクをより減らせますし、さらに褥瘡発生部位への圧迫が減ればより改善しやすいと考えています。
さらに、”30度以上のギャッチアップを行うかどうか”、もエアマット選びを考える上で、非常に大切なポイントとなりますので以下で深堀りします。
3(補足)30度以上ギャッチアップする際の落とし穴
実は、エアマット選びにおいて、“30度以上の背上げをどのくらいの時間行うか”が非常に重要になります。
なぜこれが重要かといいますと、30度以上背上げをしますと、臀部にかなりの圧がかかります。そのため、それほどエアセルに厚みのないエアマットでは、エアセル収縮時に臀部がベッド底の固いフレームで圧迫される可能性があります。その対策として、エアセルに厚みのないエアマットは30度以上背上げをすると、臀部のエアセルを膨らみっぱなしにして、底付き予防しているのです。しかし、もし長時間ギャッチアップを続れば、持続的圧迫につながり、さらにギャッチアップによりずれを生じていることもあり、褥瘡リスクが非常に高まってしまうのです。
そのため、可能な限り30度以上の背上げを1時間以上行うことは控えるように指導しています。ただ、テレビを見たい、食事に非常に時間がかかる、など在宅の現場では長期間の背上げが続いているケースも少なくありません。
そこで、30度以上の背上げを1時間以上行う方にはビッグセルアイズ®がすすめられます。前述のとおりビッグセルアイズ®はエアセルに非常に厚みがあるため、30度以上背上げをしても底付きしにくい構造になっています。そのため、30度以上の背上げでも臀部のエアセルは収縮が可能で、臀部の褥瘡リスクを最小限に抑えることができるのです(先ほど説明しましたネクサスIBやここちあ利楽flowにも同様の機能がありますがビッグセルアイズの方がエアセルに厚みがあるため褥瘡発生リスクが高い方にはより有用と考えます)。
まとめ(エアマットの選び方のフローチャート)
では、エアマット選びにはかなり抑えるポイントが多く、頭が整理しにくいと思いますので、最後に今までの内容をふまえ、患者さんの状態ごとにどのようにエアマットの選べばよいかフローチャートを示します。
※このフローチャートはあくまでも個人的な考えであることご容赦ください。
ただ、数多あるエアマット選びが難しいという声もよく聞きますので、参考にしていただければ幸いです。
次回はこのように適切なエアマットを使用しても発生しうる踵褥瘡についてのお話しです。なぜ、エアマットを使用していても発生しうるのか、どのように対策すればよいのか、についてお話しします。