まもりさん寝返りが打てない患者さんのベッド上での姿勢って大切ですね



そうなんです
一日の大半を過ごす姿勢が心地よくないと褥瘡や拘縮のリスクになってしまうのです



不快な姿勢で寝ていたら患者さん辛いですよね



実際、不快な姿勢が続いて拘縮を生じてしまうことは少なくありません…
褥瘡予防と、患者さんが心地よい姿勢を両立させることって意外に難しいのです
今回はポジショニングのお話しです。
ポジショニングを一言でいえば
ポジショニングとは、褥瘡や拘縮のリスクを抑えつつ、患者さんが心地よい姿勢を整える
ということです。
いかに適切なポジショニングをとれるかは、褥瘡・拘縮予防の大切なポイントです。
特にこまめな体位変換を行えない訪問診療においては適切なポジショニングはより重要となります(実際の体位変換の頻度を知りたい場合は”テーマ⑤体位変換”を確認してください)
ただ、適切なポジショニングにはいくつかの押さえるべきポイントがあります。例えば、下肢を動かせない方が仰臥位で長時間過ごせば仙骨部褥瘡とともに踵褥瘡のリスクも生じます。では、踵褥瘡も臀部褥瘡のリスクも軽減しつつ、患者さんが心地よいポジショニングをどのように行えばよいか、考えてみたいと思います。
さらに、後半では忘れがちなギャッチアップによる褥瘡リスクとその対策についてもお話しします。
※皮膚科医にとってポジショニングは決して専門領域ではありません。今回のお話しは学会や医学書などを参考に、実際の医療現場で私が試行錯誤した経験に基づいてのお話しで、一部に個人的な考えが含まれていますのでご了承ください。
目次
ポジショニングの基本姿勢 2選
では、早速基本姿勢についてお話しします。
ポジショニングの基本姿勢には主に2つの姿勢がありますので、以下に特徴とともにお示しします。
基本姿勢は『仰臥位』と『30度側臥位』の2つ
仰臥位:楽な姿勢だが、寝返りが打てない方では仙骨に圧が集まりやすい
30度側臥位:除圧しやすい一方で、クッションの入れ方が悪いと不快感やねじれが出やすいため、適切にクッションを利用する必要がある
このように、基本姿勢のおすすめは仰臥位と30度側臥位ですが、それぞにメリット、デメリットがあるのです。 詳細は後述しますので、ここでは、30度側臥位について少しだけ補足しておきます。 30度側臥位は下の写真のように30度クッションなどを背中~臀部に入れてベッド面から30度傾いた姿勢をとります。


なぜ30度側臥位がおすすめされるか、下のイラストを見てください。


このように30度側臥位では褥瘡発生の頻度が高い仙骨や大転子など突出している部位の圧迫を受けにくく、比較的お尻の平坦な部位がマットと接するため、褥瘡予防にはおすすめの姿勢なのです。
ただ、みなさん30度側臥位で寝ることはありますか?…
まずないですよね。30度側臥位は通常の寝る姿勢としてはほぼありえないのです。
そのありえない姿勢でありながら、患者さんが心地よく感じてもらう、これが30度側臥位では大切だと思います。
では、そのポイントについて後程お話ししたいと思います。
それでは、ここからそれぞれの姿勢について、適切な方法と、どういう患者さんに用いればよいのか、についてお話したいと思います。
1 仰臥位(仰向け寝)におけるポジショニングのポイント
では、ここから仰臥位におけるポジショニングのポイントについてお話しします。
仰臥位は寝る姿勢の最も基本的な姿勢で、患者さんにとっても心地よい姿勢であることが多いです。
その反面、寝返りをうてない場合、実は最も褥瘡発生リスクの高い姿勢となります。
なぜ、仰臥位が褥瘡発生リスクが高いのでしょうか?


上のイラストをみて頂ければわかりますように、体重の大部分を占める体幹の体重が仙骨に集中しています。
そのため仙骨部は褥瘡発生リスクが高いのです。実に、褥瘡全体の約25~50%ほどが仙骨部に発生しているという報告もあります(Crit Care Med. 2018 Nov;46(11):e1074-e1081)。つまり、仙骨が圧迫される仰臥位は褥瘡発生リスクが高い姿勢といえます。
そのため、患者さんによっては、仰臥位は避けた方がよい場合があり、以下に仰臥位がおすすめできないケースをお示しします
仰臥位がおすすめできないケース
1 仙骨部に褥瘡がある
2 寝返りが打てず、やせていて仙骨の骨突出が強い(※仙骨の骨突出の目安:仰向けに寝た状態で患者さんのお尻下に手を入れて仙骨を触れた際、骨がゴツゴツと明らかに突き出て感じられるようであれば、骨突出が強いと考えられる)
上記に当てはまるケースでは、仰臥位はなるべく避け、次にお話します左右30度側臥位のポジショニングを行うことをおすすめします。
ただ、30度側臥位は人の手が必要なため、独居などマンパワー不足の場合は難しいケースも時にあります。
そのような場合は少なくとも以下のような対応を行うことをおすすめします・
褥瘡リスクが高くても仰臥位をとらざるを得ない場合の対応 1 適切なエアマットの導入:特に長時間仰臥位になる場合は、エアセルに厚みがあり、スモールチェンジ機能など皮膚にかかる圧を変えられるものを検討(エアマット選びの詳細はテーマ②参照) 2 踵の褥瘡予防:下肢を動かさない場合は下肢の下にクッションを入れて踵を浮かせる(踵褥瘡予防の詳細はテーマ③参照) 3 定期的な皮膚の観察:骨突出部の発赤や紫斑など皮膚の異常がないかおむつ交換の際などにチェック(皮膚観察の詳細はテーマ⑧参照)
このように、比較的褥瘡発生リスクの高い仰臥位においては、主にエアマットや下肢用クッションを利用して褥瘡予防を行います。


ただ、これらの対策を行っても褥瘡リスクの高い患者さんが長時間仰臥位を維持した場合、それだけで完全に褥瘡予防を行うことは難しいのが現状です。おむつ交換や入浴の際などに仙骨部の発赤など皮膚の異常がないかを定期的に観察することが大切です。
さらに、上記以外にも、多少なりと仙骨部への圧集中を防ぐため、背中に大きめのバスタオルを丸めて入れ、わずかでも体の向きを変えることで仙骨への持続的圧迫を軽減できます。また、ある程度腕に力がある方であれば自分で掴めるベッド柵を利用して少しでも体の向きを変える、ことなども有用と思われます。
2 左右30度側臥位におけるポジショニングのポイント
では、次に左右30度側臥位についてお話ししたいと思います。始めに断らせて頂きますが、30度の角度はあくまでも目安です。大柄な方や姿勢が崩れやすい方では、少し角度を前後して調整しても構いません。
実は特に訪問診療においては左右30度側臥位は寝る姿勢として頻度が高く重要な姿勢となります。
それはなぜかといいますと、基本的な寝姿勢は仰臥位、左右30度側臥位ですが、同じ姿勢を続けると、同じ部位が圧迫され続けるため、褥瘡や拘縮のリスク、患者さんの不快感の悪化などが考えられます(拘縮予防の詳細はテーマ⑥参照)。そのため長期の仰臥位はリスクがあるため、左右30度側臥位はほぼ必須のポジショニングとなるのです。
ただ、ここで一つ知ってほしいことがあります。それは…
左右30度側臥位は基本的に通常はとることのない姿勢であり患者さんが不快感を感じやすい →適切なポジショニングを理解することが大切
では、実際、どのようなポジショニングを行えば、30度側臥位でも患者さんが心地よいのか考えてみましょう。
例えば下の写真ように、背中に30度クッションを入れてポジショニングを行いました


このポジショニングの良いところは肩から臀部にかけて幅の広い30度クッションを使用しているところです。そうすることで体幹全体に圧が分散されますし、心地よくクッションに預けられると思います。
逆に不適切な背中へのクッションの入れ方を下のイラストにお示しします。


赤破線で示す背部の下のクッションのように、背部の一部にしかクッションが接触していないと、体幹の圧がそこに集中し圧迫感を感じます。また、クッションに触れていない背部下部~臀部はフラットになる(青矢印)ため、上背部とそれ以下でねじれを生じてしまうのです。これは患者さんにとって寝心地の悪い姿勢になってしまいます。


先ほどの患者さんに戻ります。このポジショニング、背部のクッションはよいのですが、実は問題があります。
それは、上記写真のように下肢に屈曲拘縮がある患者さんに、背中と両下肢の間のみにクッションを入れるポジショニングでは、下肢が真横を向いてしまうことがある、ということです。
すると、上半身は30度、下半身は90度側臥位となり前の患者さん同様ねじれを生じてしまいます。このねじれの状態はみなさんもぜひ試していただきたいですが、非常に寝心地の悪い姿勢です。
さらには、上記イラストでいえば左下肢の腓骨頭や腓骨・外踝(外くるぶし)など骨の突出した部位に褥瘡発生のリスクも生じます。
上半身を30度にするのであれば、可能な限り下半身も30度に近い角度にしてねじれのない状態にすることが大切です。
では、そのためにはどのような対策を行えばよいのでしょうか?


その一つが、上写真の様に左30度側臥位を向いているのであれば、左下肢の下にクッションを入れて30度を維持するという方法があります。さらに、下肢同士の圧迫を避けるため、下肢の間にクッションを入れます。こうすることで、上半身と下半身がねじれのない姿勢になると思います。
ただ、この方法はいくつか懸念点があります。
一つ目は左下肢の外側だけにクッションを入れる場合、上記写真の患者さんのように屈曲拘縮がある場合なら安定しますが、拘縮のない患者さんの左下肢の外側にクッションを入れても下肢を30度側臥位にすることは難しい印象があります。


さらには、下肢の間のクッションの入れ方によっては、上記イラストのように上側になる右下肢の下にはクッションがない状態になってしまうためマットとの間に隙間ができてしまいます(黄色破線)。それは非常に不安定な姿勢ですので患者さんは不快感を増し緊張することで、拘縮が悪化するリスクがありますし、さらに下肢の体重が踵に集中するため踵褥瘡が発生するリスクにもなってしまいます。
では、どのようにすれば30度側臥位でもねじれがなく、患者さんが心地よい姿勢を維持できるのでしょうか?
(※ここからは教科書的でないあくまでも個人的考えであることをご容赦ください)


この解決法として、下肢の下全体に入れるようなクッションを利用することをおすすめします。
大腿~膝裏~踵上まで下肢全体が接するような大きなクッションを作成することで、両下肢全体にクッションが触れるため圧が分散され、さらには安定して心地よい姿勢になりやすいです。さらに、30度側臥位の姿勢において、左上のイラストの青矢印のように下肢が90度回転してしまうのをボリュームのあるクッションが防いでくれるため、上半身と下半身のねじれが生じにくいです。
ただ、適切なクッションづくりにはコツがいります。詳細は”テーマ③踵の褥瘡予防”をご参照ください。
以上30度側臥位についてお話ししました。
30度側臥位は普段とることのない姿勢ですので、それでも心地よく感じてもらえるような適切なポジショニングの理解が必須になります。
ギャッチアップは実は隠れた褥瘡好発の姿勢
1 ギャッチアップによる褥瘡の好発部位を知る
最後にギャッチアップについてです。
実は長時間(おおよその目安は2時間以上)のギャッチアップが褥瘡発生の原因となっていることは少なくありません。
そして、このギャッチアップによる褥瘡について多くの方が勘違いしていることをお伝えします。
ギャッチアップで生じる褥瘡のほとんどは仙骨部ではなく尾骨部
なぜ、このことが大切なのでしょう。その理由を以下にお示しします。
褥瘡が仙骨部か尾骨部かを見分けることの重要性
・仙骨部褥瘡:主に仰臥位で生じる
・尾骨部褥瘡:主に坐位やギャッチアップで生じる
→圧迫される姿勢が異なるため、除圧の対応も異なる
仙骨部と尾骨部では除圧のための対策は全く異なるのです。そのため、これらを混同してしまうと、例えば尾骨部褥瘡であっても仙骨部と考えてギャッチアップを続けてしまえば褥瘡は治すことは非常に困難になります。
臀部中央に褥瘡を見つけた際には、仙骨部なのか尾骨部なのか適切に評価することが大切です。
2 その褥瘡、尾骨部?仙骨部?
褥瘡が仙骨部なのか尾骨部かを見分けるにはそれぞれの部位を知ることが大切です。尾骨とはどこにあるでしょう?


上のイラストの左側にお示ししますように、尾骨は仙骨の肛門側の先端にあります。そのため、尾骨部褥瘡はより肛門に近い部位となります。ただ、時に臀部中央に生じた褥瘡が仙骨部は尾骨部か見極めることは難しいです。
そのため見分けるポイントをお示しします。上のイラストの右側は骨盤を横から眺めています。尾骨は仙骨がカーブを描いて腹部側に屈曲した先端にあるため、仰臥位では圧迫されにくいです。もし、臀部中央に褥瘡を認めた際には仰臥位で圧迫されうるか、つまり、お尻方向に突出した部位にあるのか、そうでないのかで仙骨と尾骨のどちらの褥瘡かはある程度見分けられると思います。
3 ギャッチアップにより褥瘡リスクを高める2つの原因
先ほどのイラストでもわかりますように、尾骨は尖っているため強い圧が一点に集中しやすく、長時間のギャッチアップや坐位は褥瘡発生のリスクとなります。
特にギャッチアップで褥瘡発生のリスクになるのは、①長時間のギャッチアップをしている、②角度をつけてギャッチアップしている、という大まかに2つの問題があります。
では、なぜギャッチアップで褥瘡発生のリスクがあがるのでしょうか?
以下のイラストを参照してください。


角度をつけてギャッチアップすると、①臀部がずれやすい、②上半身の体重がより臀部に集中する、という2つの問題が生じ、褥瘡発生のリスクを高めてしまうのです。
さらに、30度以上ギャッチアップすると、エアマットを使用していても、臀部のエアセルが膨張したままになり(底付き予防のため)持続的圧が続いてしまうエアマットが多い、のです(詳細は”テーマ②エアマットの選び方”参照)
では、どのようにギャッチアップによる褥瘡リスクを減らせばよいでしょうか?
4 ギャッチアップによる褥瘡をいかに予防するか?
主にギャッチアップによる褥瘡対策には以下の3つの方法があげられます。


これ以外にも、”背抜き”といって、ギャッチアップの前後で、お尻の下に手を入れるなどして、皮膚とマットのずれを改善させる方法も有効です。
ただ、ギャッチアップの角度をつけないように、といっても現実難しいこともあります。
実際の訪問診療でも、テレビを見たり、食事に長時間かかるなどして角度をつけて長時間ギャッチアップせざるを得ないことが少なくありません。
その際には、それらを止めてもらうことは難しいので、例えばテレビを見る際は30度以下のギャッチアップにとどめてもらったり、食後は誤嚥予防のため30分~1時間はギャッチアップを維持したのち、速やかにギャッチアップを30度以下にするなどの対応を行うことがおすすめです。


さらに、上の写真のような頭部の角度も変えられるベッドもあり、ギャッチアップを最小限にテレビ鑑賞や食事ができるベッドをレンタルすることも選択肢です。


もう一つの対策法として、例えばビッグセルアイズのような”30度以上ギャッチアップしても臀部のエアセルが収縮できるエアマットを選ぶ”ということを検討してください(ただ、このようなエアマットを選んでも2時間以上30度以上のギャッチアップを行うことはなるべく避けた方が無難です)。
※エアマット選びの詳細については、”テーマ②エアマットの選び方”参照してください。
まとめ
以上、寝姿勢+ポジショニングについてお話してきました。
では、まとめます。
・仰臥位では、仙骨と踵部の褥瘡発生リスクがあるため十分に対応する
・左右30度側臥位では、①背部~臀部広範囲に接するクッション、②両下肢の下に広範囲に接するクッション、を利用するなどして、ねじれのない寝心地の良いポジショニングを意識する
・30度以上のギャッチアップは可能な限り2時間以内に留める(それ以上ギャッチアップする場合は、それに対応したエアマットを選ぶ)
単なる寝る姿勢…であっても押さえるべきポイントは少なくないですね。
ただ、今回のお話しは、患者さんの日常に関わることですし、早速明日からの看護や介護に参考にしてみてください。