非皮膚科医
S先生、壊死組織はほんとにやっかいですね…
そうなんです。壊死組織があると2つの問題があります
一つは感染のリスクがある、ということですね!
もう一つは何だろう…
壊死組織が蓋をすることで創が治らなくなってしまうのです
だから、早急に壊死組織は除去したほうが無難ですね
でも、出血が怖くてデブリードマンできません…
なるほど、では、止血のおすすめ方法も含めて、今回はデブリードマンについてお話ししましょう!
では、今回から5回にわたって、私含め多くの方が頭をかかえる”深い褥瘡”を攻略するために必須である、”TIME+α”それぞれの詳細と対策法をお話ししていきます。ちなみに、TIME+αについては前回お話ししましたように、創が治らない4つの阻害因子の頭文字を表していて、その4つは以下のようになります。
つまり、深い創を治すには、T:壊死組織を除去し、I:菌の増殖を抑え、M:創に適した湿潤環境を維持し、E:創の辺縁のポケットや過剰肉芽を治す、必要があるのです。褥瘡ではそれに加えて、+α:圧迫やずれ力への対策や全身状態の改善も必要になります。
このTIME+αのポイントは、これらのどれか一つでも解決すれば深い褥瘡が治るわけではなく、”TIME+α”のすべてを解決してようやく深い創は治る、ということです。
そのため、深い創を治すには、それぞれについて熟知している必要があります。
では、今回は”TIME+α”のT:壊死組織をどのように対策していけばよいかお話ししたいと思います。
壊死組織への対策として欠かせないのがデブリードマン(壊死組織除去)です。デブリードマンは壊死組織への対策として非常に重要な手技ですが、 適切にデブリードマンを行わないと、思わぬ大量出血を生じることもあり、特に訪問診療ではリスクが高い施術になります。しかし、リスクを恐れ、十分なデブリードマンを行わないと傷は治らず、感染のリスクも減らせません。
では、どのようにデブリードマンを行えばよいのか、出血した際にはどのように対策すればよいのか、今回はそんなお話をしたいと思います。
是非、適切なデブリードマンを行うため参考にしてください。
目次
1 これを知らないとデブリードマンで苦戦必至!壊死組織、活性の無い組織の大切なポイント
1-1,壊死組織、活性の無い組織は何が問題となるのか?
始めに、”壊死組織や活性のない組織がどのような悪影響を及ぼすのか”、についてお話ししますが、その前に”活性のない組織”というのが分かりにくいと思いますので、少し捕捉します。
実は、この“活性のない組織”の定義が、詳しく記された書物が見当たらず、これはあくまでも個人的な考えではありますが、"活性のない組織"というのは、見た目は正常に近い組織でありながら、肉芽形成を生じない組織だと私は解釈しています。これはパッと見では分かりませんので、定期的に写真などで比較して、壊死組織ではないのに肉芽形成を生じない組織を活性のない組織だと考えるのが分かりやすいと思います。
このような壊死組織・活性のない組織があると、大きく2つのの問題があります。
1、壊死組織・活性のない組織が感染源となる
2、壊死組織・活性のない組織により肉芽が形成されず傷が治らない
特に、1つ目についてですが、可能な限り早期に十分なデブリードマンを行わないと、時に、命に関わる壊死性軟部組織感染症などを合併することがあります。壊死性軟部組織感染症は致死率が高いわりに見逃されやすいです。以下のページに詳細をのせてありますので参考にしてください。
③深い褥瘡攻略の道標 ”TIME+α”のI(感染/炎症):壊死性軟部組織感染症、クリティカルコロナイゼーションって知ってますか?
さらに、2つ目につきましては、壊死組織だけでなく、以下の写真のような活性のない組織も含めて十分にデブリードマンすることが時に必要となります。
1-2,できたての褥瘡に潜む落とし穴
しかし、デブリードマンを行う上で始めに抑えるべきポイントがあります。それは
褥瘡は2週間かけて完成する
→できたての褥瘡は壊死組織を伴うかどうかすぐには分からない
ということです。 これだけで分かりにくいと思いますので実際の症例でお話しします。
上の写真はできたての褥瘡です。 明らかな壊死組織もなく、それほど深い褥瘡でないようにみえます。
そしてこちらが1週間後、明らかな黒色の壊死組織がみられます。
この変化をみると“褥瘡が悪化した”、と考えてしまう方がいますが、そうではありません。 褥瘡は発生した時点で深さが決まっているのですが、 壊死する運命にある組織も見た目に壊死とわかるまで2週間ほどかかるのです。
特に出来立ての褥瘡に紫斑がみられる場合、深くまで壊死した褥瘡に変わることが多いです。 なぜこれが大切か、そこには2つのポイントがあります。
1,できたての褥瘡に対して、フィルム貼付など密封する治療を行うと、思わぬ感染の悪化をきたすことがある
2,できて間もない褥瘡のデブリードを行う際、見た目に正常に見える組織が今後壊死組織に変わる可能性があることを意識する
では、それぞれについてもう少し詳しく説明します。
まず1つめですが、できたての褥瘡に対してフィルム貼付など密封する治療をしてしまうと、知らぬまに壊死組織に変わっており、密封されているため菌が逃げられず感染を生じることがあります。褥瘡感染の多くは壊死組織に繁殖した細菌が原因ですので、壊死組織の有無がはっきりしないうちから密封する処置はリスクが高いです。
そのため、できたての褥瘡は、2週間はワセリン(又はゲーベンクリーム®)を塗りガーゼで保護する、など連日の処置を行い壊死の拡大や感染の合併がないかを確認することが大切です。
そして、二つ目、できて間もない褥瘡が壊死しデブリードマンする際、正常にみえる組織付近までデブリードマンしても、正常に見える組織からほとんど出血がない場合は、それらの組織は壊死組織の可能性があり、できれば週に1~2回ほどのペースで追加のデブリードマンを検討することが大切です(もちろん感染を合併していればさらに高頻度にデブリードマンを検討します)。
まだ、個人的には壊死組織の残存が疑われる場合には、感染リスクを減らし壊死組織を融解する作用のあるゲーベンクリーム ®を使用しています。ゲーベンクリームは浸出液の多い創には不向きでは、という声もありますが、そもそも壊死組織やそこで繁殖する菌が浸出液増加の主な原因ですので、壊死組織を早期に除去するための処置を行うことが浸出液減少においても大切だと個人的には考えています。
ということでできたての褥瘡、特に紫斑形成している場合などは、密封する処置は行わず、ゲーベンクリームを塗布し、メロリンガーゼなど多孔性ポリエステルフィルムガーゼ(または通常のガーゼ)で保護しながら、週に1回は追加のデブリードマンを検討しています。
2、デブリードマンを安全に行うには
ではここからは壊死組織をデブリードマンする実践的な方法についてお話したいと思います。
主にデブリードマン の方法としましては以下の二つの方法がおすすめです。
実際にどのような壊死に対して使い分けていくのかも含め以下に二つの方法をお示しします。
デブリードマンのおすすめの方法
①化学的デブリードマン:壊死に厚みの少ない場合に選択
②外科的デブリードマン:壊死に厚みがあったり感染兆候がある場合に選択(化学的デブリードマンと併用)
特に厚みのある褥瘡は深部で感染を生じるリスクがありますので、外科的デブリードマンと化学的デブリードマンを併用することをおすすめします。
では、それぞれの方法についてもう少し具体的に説明します。
2-1化学的デブリードマン
では、始めに化学的デブリードマンについてです。 化学的デブリードマンとは、酵素が含まれた塗り薬などを使用し、壊死物質を溶かしてしまう方法です。 外科的デブリードマンと比較して、時間はかかりますが、出血などのリスクが少なく、また痛みも少ないというメリットがあります。 その代表的な塗り薬にブロメライン軟膏があります。 ただ、ブロメライン軟膏は正常皮膚につくと肌荒れを生じることがあり、その対策として創部周囲の皮膚をワセリンなどで保護する必要があり、また、抗菌作用はないため感染の抑制が難しく、使用に熟練が必要な外用剤です。様々な医療従事者が処置する必要がある訪問診療などではやや使用しにくい印象です。 そこでおすすめなのがゲーベンクリームです。
ゲーベンクリームは厳密にいうと化学的デブリードマンを行う外用剤ではありません。
ただゲーベンクリームの組織に水分を与える作用により壊死組織が融解し、正常組織と壊死組織の境界部が剥離しやすくなります。この作用により外科的デブリードマンがより容易にできるようになるのです。
ただ、壊死組織の中でも、表層(真皮レベル)の壊死や腱・靭帯の壊死はゲーベンで溶解することは困難なことがあります。そのため、表層の壊死や腱・靭帯の壊死には以下のような追加治療を行います。
ゲーベンクリームで融解が困難な表層や腱・靭帯の壊死への対応
①真皮レベルの褥瘡(ほとんど凹みのない褥瘡)に壊死組織を伴う場合はヨードホルムガーゼをあてる(壊死組織の2倍の大きさにヨードホルムガーゼを切り、二つ折りにして壊死組織にのせる)。その上にゲーベンクリーム塗布
⓶深い褥瘡で腱や靭帯の壊死を伴う場合:壊死部に二つ折りにしたヨードホルムガーゼを壊死組織に貼付するとともに、塗る直前に同量のゲーベンクリームとブロメライン軟膏を混合して創部に埋める
ヨードホルムガーゼやブロメライン軟膏はコラーゲンを分解する作用があります。真皮や腱・靭帯の主成分はコラーゲンですので、これらを使用することで除去しやすくなります。それぞれの外用剤の使用方法と注意点を説明します。
ヨードホルムガーゼの使用法は上記のとおりです。ちなみに、ヨードホルムガーゼは洗浄すれば簡単に剥離しますので、連日新しいものと交換します。
ブロメライン軟膏は使用に際していくつかの注意点がありますので以下にお示しします。
ブロメライン軟膏使用上の注意点
1、皮膚に付くと肌荒れする可能性があるため、使用前に周囲の皮膚にワセリンを塗って保護する
2、抗菌作用はないため、菌の増殖が疑われる場合は抗菌作用のある外用剤などとの併用が必要
3、ブロメラインの壊死組織分解作用は、ポピドンヨードや銀イオンで失活するため、あらかじめ混合はせず、塗る直前に混合することが大切
2-2 外科的デブリードマン
外科的デブリードマンというのは、文字通り、外科用剪刃などを使用して壊死組織を除去する方法です。
迅速かつ確実に壊死組織を除去することができますが、時に出血が問題になることもあり、特に訪問診療では注意深く行う必要があります。ただ、十分に壊死組織を除去しないと感染を生じたり、創部が治らないため、可能な限り十分なデブリードマンを早期に行うことが大切ですが、それにはある程度の経験が必要です。
外科的デブリードマンのコツ その1 十分なデブリードマンを行う
では、なぜ出血のリスクもありながら十分なデブリードマンを行う必要があるのでしょうか?
壊死組織の周囲には時に膿瘍を形成します。この膿瘍の拡大を食い止めるためにデブリードマンが必要です。
しかし、中途半端なデブリードマンでは解決できない2つの問題があります。
不十分なデブリードマンによる問題
1 膿瘍形成している場合排膿ができない
2 肉芽が増殖ができない
捕捉します。
下のイラストのように、膿瘍を形成している場合、不十分なデブリードマンでは壊死組織周囲にある膿を十分に排膿することができず、感染の拡大をきたすリスクがあります。
さらには、深い創は肉芽組織が増殖して凹んだ創を埋めて治っていきますが、壊死組織があると、それが蓋になって肉芽が増殖できなくなり、創が治らなくなってしまうのです。
そのため、以下のイラストのように十分なデブリードマンを行うことで排膿しやすくなり、菌の増殖も最小限に抑えられ、さらには、肉芽の増殖もスムーズになります。
十分なデブリードマンを行うメリット
1 膿瘍形成している場合、排膿しやすくなる
2 肉芽形成が容易になる
ただ、十分なデブリードマンを行う上で問題となるのは出血リスクです。
外科的デブリードマンの最も大切なポイント いかに出血を最小限に十分な壊死組織除去を行うか
では、次に出血を最小限にデブリードマンを行うか、その具体的方法についてお話ししたいと思います。
2-3おすすめの外科的デブリードマンの方法
では、これはあくまでも個人的なやり方ではありますが、実際の外科的デブリードマンの手順を説明します。
STEP
デブリードマンを施行する前にゲーベンクリーム®を使用する
ゲーベンクリーム®を塗ることで、壊死組織が融解し、正常組織と壊死組織の境界部が剥離しやすくなり出血のリスクを最小限に十分なデブリードマンがより容易になります。
この褥瘡のように凹みがある場合、凹みが埋まるぐらいたっぷりゲーベンクリームを塗ることが大切です。
STEP
壊死組織の辺縁の数ミリ内側から深部にアプローチし、 深部組織が薄ピンクの組織に変わる or じわっと出血が生じるところまで外科用剪刃を進める(壊死の深さを把握する)
十分に組織を除去しようと壊死辺縁ギリギリでデブリードマンしますと、辺縁から出血するリスクがあります。まずは最深部の出血を確認したいので、やや壊死組織辺縁のやや内側からアプローチして 深部以外の出血は極力控えたほうが無難です。
さらにコツとして壊死組織の内側に向けて剪刃を進めていくと(下の図赤矢印)、より深部の出血が見つけやすくなります。
また、深部に剪刃を進める際も、少しずつアプローチし、その都度出血がないか確認していきます
ちなみに、使用しているのはメッツェンバーム剪刀(反型)とアドソン有鈎鑷子です
STEP
深部組織が薄ピンクの組織に変わる or じわっと出血するポイントが見つかったら、そこが壊死の深部と思われ、その深さで水平方向に切開を進める
水平方向にに剪刃を進める際も、少しずつ壊死組織を切開し、その都度出血がないか確認していきます。
STEP
壊死組織の深部を水平方向に切開して剥離した組織の辺縁を垂直方向に切開し、壊死組織を弁状に切開していく
壊死組織の剥離を水平方向に進めたら壊死組織を除去するために、壊死辺縁で垂直方向に切開します(下の写真参照)。
この際も壊死組織を正常組織との境界ギリギリのところで切開すると出血のリスクがあるため、数ミリ内側で切開するのがおすすめです。
STEP
再び水平方向に切開…以後STEP3~4を繰り返し、壊死組織を全て除去
STEP4で壊死組織が弁状に剥離されるため、さらに深部に水平方向に壊死組織を切開します。さらに剥離された壊死組織を壊死辺縁で切除…
STEP3~4を繰り返して壊死組織を除去します。
最終的に潰瘍底が軽度出血~淡いピンク色になっていることを確認します(上写真)。
STEP
厚みのある壊死組織(特に皮下脂肪の深層まで)では一気に深部までデブリードマンしないで、複数回に分ける
厚みのある壊死組織を一気に最深部までデブリードマンしようとすると、時に視野が狭くなり出血のコントロールが難しいことがありますので、まずは浅い層、その後さらに深い層、と複数回に分けてデブリードマンしていくと手技も容易になり、出血などのリスクも少ないです。
具体的に、皮下脂肪層のデブリードマンでは、壊死組織も脂肪組織になると柔らかい組織になり、剪刃での切開や剥離が容易になりますので、まずは脂肪層浅層、次にさらに深い層、などと段階をふむと施術しやすいです。
STEP
ポケット内に壊死組織があれば同様にデブリードマンを行う
壊死が皮下脂肪に至る場合はしばしばポケットを形成しています。さらにはポケット内の壊死組織の深部に膿瘍を形成していることもあります。そのためポケット内のデブリードマンも適切に行うことが大切です。さらには創部周囲を圧迫して、膿の貯留がないか、ポケット内から排膿がないかを確認することも大切です。
STEP
十分な止血を行う
止血の詳細はは次章にゆずります
このような流れでデブリードマンを行うと、出血のリスクも最小限に十分なデブリードマンが行えると思います。
ただ、前述のとおり、壊死組織は次第にはっきりすることもありますので、1~2週間ごとに新たな壊死の拡大や感染兆候がないかを確認することが大切です。
では、今までの内容をふまえ実際のデブリードマンをみてみましょう。
2-4深いポケットで深部の壊死を十分には除去できない場合
褥瘡に深いポケットが生じ、ポケットの深部に壊死組織がある場合、次回説明します”壊死性軟部組織感染症”などの命に関わる重症感染症を合併することがあり要注意です。しかし、ポケットの深部に壊死組織があると、十分なデブリードマンが行えないことがあります。
そのような場合は、局所麻酔下に電気メス(モノポーラの凝固モード)でポケットを切開し、深部の壊死組織を除去する必要があります。
デブリードマンは特に筋層レベルなど深い壊死組織の除去を行う場合、時に思わぬ大出血を生じることもありますので、 無理に狭い視野で行おうとせず、ポケット切開して十分広い視野でデブリードマンすることも時には必要となります。
ポケット切開方法の詳細はTIMEのEに記載していますので、詳細を知りたい場合はそちらをご参照ください。
⑤褥瘡治療の道標 TIMEのE 難関攻略!褥瘡ポケット対策
3 止血法
では最後に止血についてお話します。
“上手にデブリードマンできることは、上手に止血できること”といってもいいくらい、止血を適切に行えることはデブリードマンにおいて重要です。
特に訪問診療においては、出血が続いていることに気づかれず放置されることで生命を脅かす可能性もあります。
そのためより十分な止血対策を行う大切ですので、以下に実際の止血方法をお示しします。
3-1出血が動脈性か静脈性かを見極める
なぜこの二つを分けないといけないかと言いますと動脈性の出血は 圧迫止血では止血が困難なことがあり、静脈性の出血とは止血方法が異なるためです。
以下に、動脈性、静脈性出血のおおまかな見極め方をお示しします。
出血が動脈性か静脈性かを見極め方
動脈性:拍動性の勢いのある出血を繰り返す
静脈性:拍動のないじわじわとした出血をみとめる
では、次にそれぞれの出血にどのように止血すればよいか、お話しします。
3-2動脈性出血の場合の止血方法
拍動性の出血を認めた場合は、大量出血のリスクがあり可能な限り早期に止血することが大切です。
動脈性出血の対応方法
1,出血している動脈をモスキートペアンで挟む
2,出血ポイントをバイポーラで止血する
(3,それでも止まらない場合は縫合する(十字縫合))
動脈性出血に対しては、まず動脈の出血ポイントを見つけることが大切です。かなり激しく出血している場合は出血ポイントが見つかりにくいので、 出血がある周囲を圧迫して動脈からの出血を抑制した上で、ゆっくり圧迫を解除し拍動性出血の部位を見つけます。
出血している血管が見つかったら、まずは鑷子などでつまみ止血させた上でモスキートペアを挟みます。その後同部位をバイポーラなどで止血します(細い動脈であればモノポーラの凝固モードでの止血も可能です)。
ただ、モノポーラやバイポーラがない場合もあると思います。そのような場合でも十分な時間(5~10分ほど)圧迫し続ければ、褥瘡において太い動脈からの出血はまれと思われますので、多くの場合止血が可能です。
ただ これらの止血法で十分に止血できない場合は、PDS―Ⅱなどの吸収性縫合糸を利用して十字縫合します(上記イラストのように針付きの縫合糸を血管の周りの組織内に縦方向と横方向に順に針を進め、それらを結紮します)。
3-3静脈性出血の場合の止血方法
デブリードマンによる出血のほとんどは静脈性の出血です。そのため以下の手技を十分に身に付けることが大切です。
静脈性出血の対応方法
1,カルトスタット®などのアルギン酸を使用
2,出血部位の圧迫(3~5分(抗凝固・抗血小板薬内服していれば10分)ほどの持続圧迫)
→圧迫中止の前に十分に止血されていることを確認する
3,出血部を下(仙骨部のデブリードマンであれば仰臥位)にして1時間体重圧迫
→居宅であればご家族に1時間後、止血を確認してもらい、止血できていたら例えば仙骨部褥瘡のデブリードマンであれば、30度側臥位など創部の除圧を行い、再度1時間後に出血確認してもらう(ガーゼが多少にじむくらいなら経過観察でよいが、ガーゼ全体が真っ赤になるようなら連絡してもらうようにご家族にお話しする)
上記内容を捕捉します。
静脈性出血の 基本は圧迫止血です。
単に圧迫するよりは カルトスタットなどのアルギン酸を使用出血部位に貼付した上で 圧迫止血した方がより早く止血されることが多いです。
まずは 出血部位を見定めて、出血部位にちぎったアルギン酸を貼付します。
その上で、出血部位にガーゼなどを当て指や手のひら全体で圧迫します。圧迫の強さはギリギリ痛みがない程度の圧迫で止血できることが多いです。
短時間の圧迫と圧迫解除を繰り返すと、なかなか出血は止まりませんので、数分間圧迫を解除せずに圧迫し続けることが大切です。
そして、 圧迫中止後創部全体を確認し、確実に止血されていることを確認した上で、創部の石鹸洗浄を行ない、再度止血を確認して軟膏塗布+ガーゼ保護を行います。
ただ その後に出血することもありますので、まずは1時間創部を体重で圧迫するように、創部が下になるような姿勢(仙骨部褥瘡であれば仰臥位)を維持してもらい、一時間後に ガーゼの出血汚染がないか、ご家族に確認してもらいます。
確認の際、ガーゼの一部に出血が滲む程度であれば経過観察で良いと思いますが、ガーゼ全体が真っ赤になっているようであれば連絡してもらうようにお話しします。
さらに、ずっと創部が下になる姿勢でいると褥瘡の悪化が懸念されますので、仙骨部の褥瘡であれば30度側臥位に変更してもらいます。ただ、圧迫解除により再出血することもありますので、体位変換したさらに一時間後、再度ガーゼの出血汚染がないか確認してもらいます。
4 デブリードマンしてはいけない傷がある
ここまでデブリードマンの有効性や止血法の有効性についてお話ししてきましたが、じつはすべての壊死組織がデブリードマンの適応になるわけではないのです。
デブリードマンしてはいけない傷は以下のようです。
特に下肢の皮膚潰瘍では、末梢動脈疾患などで虚血を合併している壊死組織は基本的にデブリードマンの適応ではない
特に以下のような徴候があれば虚血が疑われデブリードマンは行わない
・壊死した部位を触れると異常に痛がる
・正常組織がみえる程度にデブリードマンしても速やかに壊死組織に変わる
このような壊死組織がみられた際はデブリードマンの適応とはなりません。
創部を改善させるためには血行再建が必要ですので、総合病院の血管外科、循環器科などにコンサルトする必要があります。ただ、かなり進行した虚血を有する患者さんは全身状態も良くないことも多く、通院が困難なことも少なくありません。完全にミイラすると感染を合併しにくいと考えられており、あえて創部を乾燥傾向にして経過をみることもあります。
ただ、症例によっては、多少でも血流があれば、デブリードマンした後改善することもあり判断が難しいことも多いです。総合病院などであればSPP(表在の血管圧を評価できる医療機器)などを用いて35mmHg以上あれば改善の見込みがあると客観的に予後を予想できますが、訪問診療などでは難しいです。
そのため、私は下肢(踵など)の皮膚潰瘍においては、少なくともドップラー血流計などで血流の評価をした上で、デブリードマンを行うか判断しています。
後は、デブリードマンを行った後の創部の改善状況を判断し今後の方針を立てていくことも一つの方法と思います。
下肢の皮膚潰瘍についての詳細は、褥瘡治療④ TIMEのMでさらに詳細に記載しています。
まとめ
以上、今回はTIMEのT(壊死組織・活性の無い組織)をいかに適切に対策するかについてお話ししてきました。
かなりのボリューム になってしまいましたので、最後にまとめます。
TIMEのT:壊死組織 まとめ
1 壊死組織は感染や創傷治癒遷延の原因となるため、可能かぎり早期に十分にデブリードマンをおこなう
2 デブリードマンの個人的なおすすめの方法は、ゲーベンクリーム(+ブロメライン+ヨードホルムガーゼ)で壊死組織を浸軟~溶解+外科的デブリードマン
3 デブリードマンでは出血のリスクを伴うため、出血対策を十分に行う
いかに早期に十分なデブリードマンできるかが、患者さんの予後や褥瘡の改善に大きく影響する、と思いますので、是非安全で適切なデブリードマンを習得していきましょう!