MENU

④深い褥瘡攻略の道標 ”TIME+α”のM(不適切な湿潤環境):適切な湿潤環境は臀部と足では大きく異なる(&下腿浮腫や虚血肢をいかにアプローチするか!?)

まもりさん

ユーパスタとガーゼの処置を行っていますが、全然治りません…

S先生

それは、創を砂漠化させてますね

まもりさん

砂漠化??

S先生

ユーパスタは肉芽の水分を吸い取って砂漠化させてしまうのです。
ただ、ユーパスタが適切な潰瘍もあったりします。

まもりさん

適切な湿潤環境って複雑ですね

今回は創が治らない原因”TIME+α”のうちの"M"不適切な湿潤環境についてのお話です。
ちなみに”TIME+α”??という方は、以下のページの冒頭をご参照ください。
②深い褥瘡攻略の道標 ”TIME+α”のT(壊死組織/活性のない組織)

では、改めて今回のテーマは創にとって適切な湿潤環境にしましょう、というお話です。
一見簡単そうですが、実は創部の深さや壊死組織の有無、創がどこにあるか、さらには患者さんの全身状態などにより適切な湿潤環境が異なることがあります。例えばお尻では程よい湿潤環境となり改善する塗り薬も、下肢ではうまくいかない、ということは少なくありません。
今回は創部の状態や潰瘍部位に適した湿潤環境を整えるために、どのように外用剤を使い分けていけばよいのかお話ししたいと思います。
目次

M Moisture imbalance(湿潤の不均等)

1、湿潤環境の必要性

半世紀ほど前までは、創部は乾かした方が良い、という考え方が一般的でした。しかし、この半世紀でパラダイムシフトが起こりました。創部は湿潤環境の方が治りが改善しやすい、ということがわかってきたのです。
それは、植物が育ちやすい環境を考えるとわかりやすいです。
熱帯雨林と砂漠ではどちらが植物が育ちやすいでしょうか?
答えるまでもないですよね。褥瘡にとっても肉芽が育つために適切な湿潤環境が創傷治癒に必須なのです。

2,なぜ凹みのある創はユーパスタ+ガーゼでは治りにくいことがあるか

それをふまえると、特に凹みのある傷ではユーパスタ®などのヨウ素含有外用剤+ガーゼではなぜ傷が治りにくいのか分かってくるのではないでしょうか。
みなさん、ヨウ素含有外用剤+ガーゼで処置しているとこんな潰瘍になった経験はないでしょうか?
一見創部は赤色肉芽でそれほど悪い色はしていないにもかかわらず、肉芽が増殖せず傷が一向に治らない…
その原因の一つが創の砂漠化です。
ヨウ素含有外用剤もガーゼも創部から水分を奪ってしまう→傷が砂漠化する
そして、実は凹みのある傷にヨウ素含有外用剤を使用しても、肉芽が形成されないもう一つの理由があります。
それは、ヨウ素含有外用剤では細胞外マトリックスが形成されにくい、ということです。
この内容は、湿潤環境というテーマとやや話がずれますが、大切ですのでお話しします。

2-1 肉芽形成の大黒柱 細胞外マトリックスとは?

細胞外マトリックスを説明する上で皮膚潰瘍がどのようにして治るのか分からないと理解し難いため、始めに簡単に深い潰瘍が治る過程についてお話しします。
凹みのある皮膚潰瘍が治る過程(上の写真参照)
①壊死組織や活性のない組織が除去される
②肉芽が皮膚の高さまで増殖する
③辺縁から上皮化して閉鎖する
凹みのある皮膚潰瘍はこのような段階を経て改善していきます。
そして、細胞外マトリックスが深く関係してくるのはこの過程の中の②肉芽の増殖、です。
皮膚潰瘍における細胞外マトリックスというのは、わかりやすく言えば、”家の頑丈な骨組み”です。潰瘍表面に細胞外マトリックスが作られると、そこを足場に肉芽組織は増殖していくのです。さらに、細胞外マトリックスは足場になるとともに、肉芽組織を立体的に支えて、簡単には壊れない強固な組織にしているのです。
そのため、細胞外マトリックスを形成する作用のない外用剤では、肉芽が入り込むための足場がないため肉芽増殖できず創が治りにくいのです。

では、細胞外マトリックスを形成する外用剤にはどのようなものがあるのでしょうか。

2-2 細胞外マトリックスを作るためにはどうすればよいか

肉芽形成として最も有名なのは、トラフェルミン(フィブラストスプレー®)です。フィブラストは線維芽細胞を活性化させることで、線維芽細胞からの細胞外マトリックス形成を促します。
ただ、フィブラストには注意点があります。それは創部全体が肉芽形成できる環境にないと肉芽の段差ができる、ということです。例えば潰瘍表面に腱や骨など肉芽形成が難しい組織が露出していると、そこからは肉芽増殖しませんが、周囲の肉芽からは肉芽増殖するため肉芽の段差を生じてしまうのです。この肉芽の段差は意外に曲者で改善が難しくなることがあります。
そのため、全体で肉芽形成しやすい環境に整えつつ、細胞外マトリックスを形成することが大切となります。
そこでおすすめなのが、ゲーベンクリーム®です。
実はゲーベンクリームのような肉芽に水分を与える補水系外用剤は、潰瘍面に細胞外マトリックスを形成することがわかってきたのです実際ゲーベンクリームを数多くの創部に使用していますが、肉芽形成が良好であることを実感しております(もちろん、全身状態や除圧できているかなどの条件により個人差はありますが)。
しかも、ゲーベンは壊死組織を融解させたり、感染対策でも有効であり、TIMEの問題の多くを解決してくれる外用剤なのです。
それらを総合すると以下のようなことが言えると思います。
凹みのある皮膚潰瘍は、ゲーベンクリームがおすすめ(もちろん、部位や深さ全身状態によって効果に個人差があります)
では、最後にゲーベンクリームの簡単な使用方法についてお示しします。
ゲーベンクリームの使用方法
1 基本的に1日1回の処置
2 塗り薬はガーゼに塗った上で創部にあてると処置が楽
3 塗る量は創の状態で変える
 2-1 凹みのある創:凹みを埋める量をガーゼにのせる
 2-2 平坦な創:創の大きさで3㎜ほどの厚みがあるようにガーゼにのせる
塗り薬は創部に密着していることが大切ですので、十分な量塗布しましょう!

では、次に肉芽が皮膚の高さまで増殖し、上皮化させたい状況ではどのような外用剤を選んだらよいのか、お話ししていきます。

3、平坦で上皮化するだけの皮膚潰瘍に対する最適な外用剤とは?

凹みのある創に対しては 補水系外用剤 つまり創部に水分を与える塗り薬が有効でした。
しかし 平坦化し上皮化するだけの皮膚潰瘍に関して同じ条件で治療するとうまくいかないことがあります
それは、上皮化させるために最適な湿潤環境は肉芽形成よりドライな環境が適切と考えられているためです。肉芽増殖と上皮化では適した湿潤環境が異なるのです。

では、具体的にどのような外用剤がおすすめでしょうか?
教科書的にはアクトシン軟膏が選ばれることが多いです。アクトシンはマクロゴールという水分を吸収する成分が基材に含まれているため、より乾燥傾向にすることが可能です。ただ、これはあくまで個人的な考えですが、アクトシン軟膏には抗菌作用がありません。そのため、TIMEを考えたときに、I:感染/炎症のところで問題となります。つまり菌が増殖して創が治りにくくなる可能性があるのです。治療を選択する上で、TIMEの阻害因子を幅広く対策できる治療薬を選ぶことが大切だと考えています。
ただ、困ったことに、上皮化に程よい湿潤環境にしつつ、幅広くTIMEを解決できる単剤での外用剤が私の知る限り。見当たらないのです。
非常に困っていたところ、2023年褥瘡学会で、東京医科大学の関根裕介先生が以下の組み合わせの外用剤をご提案されていました。
上皮化におすすめの外用剤
吸水クリーム+マクロゴール軟膏=3:7 の混合外用剤

→使用法は、1日1回、創の大きさで3㎜ほどの厚さになるようにガーゼに塗布し創部に被覆
二種類ともあまりなじみのない外用剤かもしれません。
マクロゴールは先ほども登場した、アクトシンのほかにユーパスタやカデックスなどの基剤に使用されている、創部の水分を吸収し、創をドライにする塗り薬です。
勘の鋭い方は、この外用剤も抗菌作用はないのでは?、と感じると思います。ただ、実は吸水クリームにはパラオキシ安息香酸メチル(いわゆるパラベン)などの防腐剤が含まれており、これが抗菌作用として働いてくれるのです。
この発表後早速導入し、この混合外用剤と後述します多孔性ポリエステルフィルムガーゼと組み合わせて使用した結果、かなり良好な結果を得ています
ただ、やはりヨードや銀よりは抗菌作用が劣る印象もあり、あとは上皮化するだけの創であってもかなり大きい場合は、クリティカルコロナイゼーションが疑われる変化を生じることもあります。その際には辺縁の上皮化させたいところのみ吸水クリーム+マクロゴールの混合外用剤を使用し、中央はゲーベンクリームを使用するなど菌の増殖も十分抑えられるような対策を行うことも検討する必要があります。

4,下肢の皮膚潰瘍に対する外用剤の選び方

※ここからは褥瘡以外の創傷もふくまれることをご容赦ください。
今までの話は臀部など心臓に近く比較的血流の良い部位の皮膚潰瘍に対しての外用剤の選び方でした。
実は下肢の皮膚潰瘍は体幹部と異なる対策が必要なことがあります
以下に下肢潰瘍の特徴を示します。
下肢皮膚潰瘍の特徴
・浮腫を伴うことが少なくない
・末梢動脈疾患(下肢動脈の狭窄・閉塞)が合併していることがある
・感染リスクが臀部に比べて高い
(特に糖尿病合併)
これら、体幹部と異なる下腿潰瘍ならではの対策すべき注意点がありますので、それぞれについてお話しします。

4-1 下腿浮腫への対策

実は高齢者の3人に1人ほどの割合で下腿浮腫を有していると言われています(これだけ高頻度に下腿浮腫を認める原因は、心不全など内科的疾患だけでは説明が難しいです。サルコペニアなど下肢筋力低下による静脈うっ滞なども浮腫の原因につながると考えられています)。浮腫を生じると毛細血管から水分が漏出して、肉芽に水分が与えられるため、浮腫のない状況より湿潤環境になっています
そこに水分を与えるゲーベンクリームなどを使用すると過湿潤になってしまう可能性があるのです。洪水で食物が枯れるように水が多すぎる環境は創には不適切になることがあります。
そのため、下肢の皮膚潰瘍に対して、特に浮腫を認める場合はやや創部をドライにする外用剤が適することもあります。個人的には浮腫があり浸出液の多い創にはカデックス軟膏をよく使用します。
ただ、難しいのは、どのくらい座位を保持しているか、弾性ストッキングなどで浮腫の対策をしているか、など様々な要因により創部の適切な湿潤環境はかなり異なります。そのため、定期的に写真を撮り創部の改善があるかを確認しながら、2週間ほど継続しても改善が悪ければ他剤へ変更する、などして、最適な外用剤を見つけていくことが多いです。
さらには、浮腫対策も重要です。とくに内科的疾患のない下腿浮腫では利尿剤でコントロールできないことが少なくなく、局所での対策が必要になります。
具体的な方法を以下にお示しします。
下腿浮腫への対策
1 連日の処置が必要:弾性包帯
2 処置がない場合:弾性ストッキングまたはチューブ包帯

※弾性包帯と弾性ストッキングはMDRPU(医療関連機器圧迫創傷)に注意
連日の処置が必要な場合、弾性ストッキングやチューブ包帯を使用すると装着の際ガーゼがずれてしまうため、弾性包帯の使用をおすすめします。ただ、弾性包帯は巻く強さやどのくらい重ねて巻くとどのくらいの圧になるかを意識しないと、ゆるくて浮腫が改善しなかったり、逆にきつすぎてMDRPU(=医療関連機器圧迫創傷)を生じるリスクがあります
そこで左写真のような、テンションガイド付きの弾性包帯を使用することをおすすめします。この弾性包帯には右写真のような三角形のマークがついていて、テープを引っ張ることでbが伸びて、aとbの長さが同じくらいになるように引っ張るとちょうどよい圧になるのです。おおよそこれを目安に一巻きすると皮膚に15㎜Hgの圧がかかると考えられています。基本的に浮腫であれば、弾性包帯同士がぎりぎり重ならない様にらせん状に巻くと浮腫を対策できることが多いです(下肢静脈瘤では包帯幅の1/2ほどが重なるように巻くとちょうどいい圧になります)。
次に弾性ストッキングですが、これは様々な圧がありますので、浮腫であれば20㎜Hgほどの圧がかかるものを選ぶことをおすすめします。ただ、それでも数日間つけっぱなしにするとMDRPUを生じるリスクはありますので、できれば日中のみ装着し、寝ているときは外して代わりに下肢の下にクッションなどを入れて下肢を挙上させるとよいと思います。
ちなみに、弾性包帯は装着が難しい…という方にはストッキングドナーという補助具(上の写真右)も販売されていますので、それらを活用してみるのもよいかと思います。
また、”弾性ストッキングはきついし高い”、という方にはチューブ包帯をおすすめします。
チューブ包帯はロール状になっているため患者さん毎に必要な長さに切ります。長さの目安としては指先が出るようにし、膝下くらいまで装着できる長さがおすすめです(上の写真右)。
弾性ストッキングほどきつくないため、基本的に数日間つけっぱなしで問題ないことが多いです。ただ、圧迫は弱いので、浮腫が十分に改善しなければ、弾性ストッキングに変更したり、チューブ包帯を二重に重ねる、などの対策を行います。

4-2 末梢動脈疾患の合併の可能性

高齢者では末梢動脈疾患(下肢動脈の狭窄・閉塞)を合併してることが少なくありません。
虚血性の皮膚潰瘍には以下のような特徴があります。
虚血性の下肢潰瘍の特徴
・足趾先端部に潰瘍が生じることが多い

・創部が乾燥(ミイラ化)している
・創部の痛みが非常に強い
・デブリードマンしても速やかに黒色壊死に戻る
これらの特徴を有する場合は、虚血性病変の可能性を考え精査することが大切です。
ただ、総合病院であればSPPやABIなどで虚血のスクリーニングができますが、訪問診療では難しいです。
そのため、下肢の皮膚潰瘍に対しては、末梢動脈疾患の合併を除外するため、必ずドップラー血流計を使用して血流評価を行っています
プローブ先端を足背動脈や膝窩動脈などにあてると、その拍動音で血管狭窄や閉塞がある程度推測できます(正常であればシュッ、シュッという単発の幅の狭い拍動音ですが、血管が詰まってくるとシュー、シューという幅の広い音に変わったり、拍動音が聞こえなくなります)。
では、実際に末梢動脈疾患が疑われる皮膚潰瘍に対し、どのように対応していけばよいでしょうか?
以下に、その方法をまとめます。
末梢動脈疾患が疑われる皮膚潰瘍への対応(私案)
1 血行再建が行うか本人・ご家族と相談する
2ー1 血行再建が行える場合:再建まではゲーベンやカデックスなど長期抗菌作用が続く外用剤で対策を行う。血行再建後、十分な血流が回復した場合、ミイラ化している部位は自然脱落を待ち、デブリードマンが可能であれば壊死組織を除去する。どの外用剤が有効かは不定で、ゲーベンやカデックスなどを試し、経時的な写真でより改善する方を選ぶ
2-2 血行再建が行えない場合:ミイラ化しそうならそれを促すためカデックス軟膏塗布しガーゼ保護の処置などを行う。時に血流が悪くても壊死組織をデブリードマンすることで創部が改善することがある。使用する外用剤は2-1と同様、どの外用剤が有効かは不定で、ゲーベンやカデックスなどを試し、経時的な写真でより改善する方を選ぶ
3 創部周囲に発赤腫脹など感染兆候を認めた場合は速やかに、総合病院への紹介を検討する

基本的にまず検討すべきは血行再建です。
ご本人やご家族に血行再建の希望があれば、総合病院の循環器科や血管外科に紹介します(ただ、特に全身状態が悪くベッド上で過ごされる高齢者は血行再建の適応になりにくいです)。
局所の処置については血行再建の有無にかかわらず、外用剤を特定することは難しいです。先ほどもお話ししたように、浮腫や全身状態により適した湿潤環境は大きく異なるのだと考えられます。そのため、前述のようにゲーベンやカデックスなど、なるべく抗菌作用が長期間持続し耐性菌発生リスクの少ない外用剤を試し、経時的な写真でより改善する方を選ぶ、という方法が現実的なのかと考えます。
さらに、上の写真のようにミイラ化した場合は、ミイラ化した組織は元の組織には戻りませんので、創部を治すというよりは感染を生じにくい創にするため完全にミイラ化させることを目指すことがありますこのメリットは、組織がミイラ化すれば菌も増殖しにくく、感染のリスクを減らせることです。具体的なミイラ化させるための処置方法を以下にお示しします。
ミイラ化させるための処置
1 カデックス軟膏を正常皮膚とミイラ化した組織の境界部など浸出液が出ているところのみに塗布してガーゼ保護(1日1回洗浄後に処置)
2 1でほぼ浸出液がなくなったら、ヨードホルムガーゼを創部にあてる(浸出液が出ている創の面積の2倍の大きさにヨードホルムガーゼを切り、それを二つ折りにして創部にあてる)。ヨードホルムガーゼをビニールテープなどで固定し、さらに不織布やガーゼなどで覆いテープで固定(週1~2回洗浄後に処置)
虚血肢は処置時の痛みが強いことが多いため、ほぼミイラ化したらヨードホルムガーゼで保護(週1~2回ほど交換)に移行していくと、処置回数を減らせてQOL低下を最小限にできると考えます。
ただ、軟部組織の感染を生じるリスクもありますので、定期的な感染兆候の確認は大切です。

4-3 感染合併のリスク

特に糖尿病の合併や慢性腎不全で透析している患者さんなどは感染のリスクが高いです。
神経障害性の糖尿病性皮膚潰瘍などでは骨髄炎などを合併して皮膚潰瘍が難治化し、時に感染拡大にともなう足の切断にまで発展してしまうこともあります
そのため外用剤は基本的にゲーベンクリームやカデックスなど24時間抗菌作用が続くものを選んだ方が無難です(ユーパスタ®やイソジンシュガー®は数時間しか抗菌作用が持続しないと考えられています)
では、ゲーベンクリームとカデックス軟膏のどちらがよりよいかといいますと、4-2同様に使用しないと分からないことが多いです(4-2でもお話ししましたが、経過を写真に撮り比較することをおすすめします)。
ただ、神経障害性の糖尿病性皮膚潰瘍においては、動脈と毛細血管の境界部にある前毛細血管括約筋(動脈から毛細血管への流量をコントロールする平滑筋)が神経障害により弛緩してしまうことで、動脈から毛細血管内への流入が増加しています(上イラスト参照)(アムロジピンなどのカルシウム拮抗薬も同様の機序で浮腫を生じると考えられています)。
そのため蛇口が壊れた水道管のように、動脈の血流が一気に毛細血管に流れ込むため、毛細血管内圧が高まり、血漿成分が毛細血管から漏出し肉芽に与えられるため、過湿潤になりやすいと考えられます。このような状況から神経障害や浮腫がある場合は肉芽から創部をよりドライにするカデックスの方がより有効なことがあります(あくまでも個人的意見です)
ただ、それらの対策を行っても感染を合併してしまうことはあります。創部周囲に発赤腫脹があったり、創部から排膿があるなど感染が疑われる場合は、速やかな対応が必要なことがありますので、医師にご相談ください

4-4 下肢の皮膚潰瘍まとめ

では、下肢の皮膚潰瘍の治療法は複雑だったと思いますので、最後にまとめます。
下肢の皮膚潰瘍に対する外用剤の選び方~注意点
・適切な湿潤環境は個人差が大きいため、まずは連日処置を行い定期的に写真を撮り改善があるかを確認し、最適な外用剤を見つけていく
・浮腫対策も重要で、処置があれば弾性包帯、処置がなければ弾性ストッキング(20mmHgほどの圧)を使用
・末梢動脈疾患の合併を除外するため、ドップラー血流計などを使用して血流評価を行う
・下肢潰瘍は感染を合併しやすいため、外用剤は基本的にゲーベンクリームやカデックスなど24時間抗菌作用が続くものを選ぶ

5,影の立役者 ガーゼの選び方

皮膚潰瘍の治療というと、”塗り薬をどうすするか”、が注目されがちですが、湿潤環境を意識すると、実はガーゼの選択も非常に重要です。
上の写真はよく見る一般的なガーゼです。ただ、一般的に使用されるガーゼは浸出液をかなり吸い取ってしまうため、創部が乾燥しやすいというデメリットがあります。
ただ、浸出液を留めようとと、かつてラップ療法(サランラップで創部を覆い四隅をテープ固定)が注目された時期がありました。ただ、これでは過湿潤になってしまいますし、細菌も密封してしまうため、重症感染の合併が報告されています。
そこで、おすすめなのが多孔性ポリエステルフィルムガーゼです。

5-1 多孔性ポリエステルフィルムガーゼのすすめ

この多孔性ポリエステルフィルムガーゼ、市販ではメロリンガーゼやラップキュアなどがあります。
滅菌は高額ですし、非滅菌で問題ありません。
この多孔性ポリエステルフィルムガーゼの何がおすすめなのか、以下にその構造を示しています。
この多孔性ポリエステルフィルムガーゼの特徴は中間層のコットンの下、皮膚潰瘍が接するところにフィルムがついているのです。ただ、このフィルムにはただのフィルムではなく小さな穴が細かく空いているのがポイントです。
多孔性ポリエステルフィルムガーゼは、フィルムに空いた小さな穴からほどよく浸出液や細菌が吸収されるため、適度な湿潤環境を維持しやすく、また、感染のリスクも減らすことができる
これらのメリットから、私はほとんどの皮膚潰瘍に対し多孔性ポリエステルフィルムガーゼを使用しています(例外として、①血管障害性皮膚潰瘍などでミイラ化させたいとき、②創部が過湿潤や過剰肉芽で乾燥させたい場合、にはガーゼを使用することもありますが限定的です)。

まとめ

以上、今回はTIMEのE 湿潤環境についてお話ししました。
今回も内容盛りだくさんでしたので、最後にまとめます。
TIMEのM:不適切な湿潤環境 まとめ
1 凹みがあり肉芽増殖が必要な臀部の褥瘡には適切な湿潤環境のほかに細胞外マトリックスを形成する外用剤であるゲーベンクリームがおすすめ
2 臀部褥瘡を上皮化させるには、吸水クリーム+マクロゴール=3:7がおすすめ
3 下肢の創では、浮腫や末梢動脈疾患の合併を確認し、それらの対策も併せて行う。外用剤は経過をみながら改善のよいものを見つけていく
4 ガーゼは多孔性ポリエステルフィルムガーゼがおすすめ

創部の状態や部位によって適切な湿潤環境は異なるため、使用する外用剤やガーゼを適切に選ぶ必要があることをわかっていただけたかと思います。
創部が改善しないとき、前回お話ししました細菌によるクリティカルコロナイゼーションの影響や、次回お話しするポケット形成などの影響とともに、適切な湿潤環境なのか?もっと湿潤にした方がよいのか?逆にドライすべきか?という検討事項も併せて考えられると、さらに皮膚潰瘍の改善率が高まるのではないかと思います。
目次