テープを剥がすときに、皮膚がめくれてしまいました…
やっちゃいましたか…実はテープの種類によって、剥がし方が違うのを知っていますか?
えっ、初耳です!
私今まで、様々な医療従事者の褥瘡処置を見てきましたが、テープの剥がし方や洗浄法など、一連の褥瘡処置が適切に行えているのはほんの一握りです。それは一重に、適切な処置方法を学ぶ機会がほとんど無いということだと思います。
そこで、適切な処置方法についてお話ししたいと思います(※ただ、高いエビデンスのある処置方法は確立していませんので、個人的な考えが一部あることをご了承ください)。
では、始めに、簡単な褥瘡処置での流れについて説明します。
褥瘡処置の流れ
1、テープを剥がす
2、洗浄剤を使用した創部の洗浄
3、(ポケットがある場合)伸縮テープを使用したポケットへの対処
4、軟膏塗布、または創傷被覆材貼付
5、テープ固定
今回は、褥瘡処置方法の第1回目、「テープの剥がし方」についてのお話です。
さらに、テープを貼ったり剝がしたりを日々繰り返すと、皮膚トラブルを生じることは少なくありません。実際テープにより皮膚が荒れてしまった場合の対処法についても併せてお話しします。
適切なテープの剥がし方
『テープを剥がす』・・・そんなの当たり前過ぎて、適切な剥がし方について考えたこともない方が大半と思います。でも、実際に剥がすときに皮膚がめくれてしまった(スキンテア)という経験は、ほとんどの方があるのではないでしょうか? 実はテープの剥がし方は、テープの種類により異なるのです。 適切なテープの剥がし方は、フィルムドレッシングかそれ以外かで分けられます。
では始めに、フィルムドレッシングから、剥がし方を動画で見てみましょう。(※省略のため、剥がす途中までの映像です)
①フィルムドレッシングの剥がし方
このようにフィルムドレッシングは、片方の手指で皮膚に貼付されているフィルムを押さえながら、もう一方の手指で剥がれたテープの根本をつまみ、水平方向に引っ張ってテープを剥がしていくのがポイントです。
②フィルムドレッシング以外の剥がし方
では、次にフィルムドレッシング以外のテープの剥がし方を動画で説明します。(※省略のため、剥がす途中までの映像です)
このようにフィルムドレッシング以外のテープは、片手ですでに剥がれたテープの根元の皮膚を押さえながら、もう片方の手で180度テープを折り返し、引っ張り剥がしていくことがポイントです。
テープの剥がし方 まとめ
最後にテープの剥がし方のまとめです。
今回の内容で分かったと思いますが、フィルムドレッシングか、それ以外のテープかで、「剥がす方向」と「押さえる場所」は大きく異なるのです。
ただ、これらのポイントを知ることと同じくらい大切なことがあります。
それは、“優しくゆっくり剥がす”ということです。いくらテープの種類に応じた正しい剥がし方をしても、勢いよく剥がせば皮膚がめくれてしまうリスクがあります。
・・・時間に追われることも多いかと思いますが、そういう時こそスキンテア(皮膚裂傷)を起こしやすいですので、是非とも、優しくゆっくり剥がすことを心掛けてください!
テープによる皮膚トラブルの対処法+予防法
ここからは、テープによる皮膚トラブルの対処法や予防法についてお話しします。
この写真は仙骨部褥瘡ですが、褥瘡の上部(白丸)にびらんを生じているのが分かると思います。この症例では、白丸の部分のテープを剥がした際に皮膚がめくれてしまいました。
白色~ピンク色の部分は、もともと褥瘡だったところが上皮化した場所ですが(これを瘢痕(はんこん)といいます)、このような皮膚は通常の皮膚と異なり皮膚のバリアが弱いため、皮膚のトラブルを生じやすいです。
加えて、このような瘢痕部でなくても、加齢により皮膚のバリアを作る能力は低下している上に、毎日同じような場所にテープを貼ったり剥がしたりを繰り返すことや、毎日の洗浄による皮膚へのダメージなどによりテープ貼付部の皮膚は荒れやすいです。
では、患者さんの皮膚トラブルを予防するには、先ほど説明しましたテープを適切に剥がす方法以外にどのようなものがあるのか、また、実際に皮膚トラブルを生じた際にはどのような対応をすればよいのか、以下にお示しします。
1テープ刺激による皮膚トラブル予防法
代表的なテープ刺激による皮膚トラブル予防法を以下にあげてみます。
テープ刺激による皮膚トラブルの予防法(上図①~④と照合して)
①白色瘢痕部を覆えるだけの大きさのガーゼを使用して(上図①の黄色破線)、瘢痕部にはテープを貼らない
②皮膚が弱い患者さんにはビニールテープなど粘着の優しいテープを選ぶ
③皮膚が弱いところにテープを貼る場合は、リモイスコート®などの保護膜形成剤をテープ貼付部使用して保護膜を作る
④テープ剥離時にキャビロン®皮膚用リムーバーなどを使用して剥離刺激を減らす
もちろんこれらすべてを行う必要はありません(保険適応でないものが多く、長期続ければ出費が馬鹿になりません)。
患者さんの皮膚の状態に合わせて上記のいくつかを組み合わせて対策します。
例えば、仙骨部などずれが生じやすい部位は、粘着力が弱いビニールテープは剥がれやすく使いにくいことがあります。その際には、テープはある程度粘着力の高いものを使用する代わりに、保護膜形成剤やリムーバーを併用して剥離刺激を減らす(または、まずはどちらかのみ試す)、というように患者さんに応じて対策法をアレンジします。
ただ、それでも皮膚トラブルを生じることがありますので、以下に対処法をお示しします。
2 テープ刺激で皮膚が荒れた際の対処法
次に実際にテープで荒れてしまった場合の対処法ですが、皮膚の状態に応じて、治療法を変える必要があります。
それは、①皮膚がめくれた場合、②めくれてはいないが湿疹(かゆみをともなう赤みやざらつき)を生じた場合、③皮膚めくれ+湿疹がある場合、の3パターンです。ではそれぞれに対する対処法を以下にまとめます。
テープ刺激でで皮膚トラブルを生じた際の対処法
1 皮膚がめくれている場合(さらに以下の2つのパターンに分ける)
1-①めくれたところにガーゼを当てられる場合:めくれた部位にワセリンを塗り、褥瘡と共にそのめくれた皮膚も含まれるようなガーゼをあてる(ガーゼの浸出液汚染が無くなるまで継続)
1-②めくれたところにガーゼを当てられない場合(例 皮膚めくれが肛門周囲でガーゼを大きくすると固定のテープが肛門にかぶってしまう):皮膚めくれが小範囲であればキャビロン®非アルコール性皮膜、めくれが広範囲であればキャビロン®接着性耐久被膜剤を塗り、乾いたらテープを貼る(じくじくが改善するまで継続)
2 皮膚にめくれはないが湿疹(かゆみを伴う赤み・ざらつき)を生じた場合:トプシムローション®を湿疹部に塗り乾いたらテープを貼る(赤み・ざらつきが無くなるまで継続)
3 皮膚めくれ+湿疹を生じた場合:亜鉛華軟膏とvery strongクラスのステロイド外用剤を1:1で混合した塗り薬を湿疹部に塗って、そこを含めてガーゼで覆う(じくじくや赤みかさつきがなくなるまで継続)
4これらの治療で治らないかさつきなどは真菌症の可能性も考える:抗真菌外用剤(ルリコン®など。じくじくしていれば軟膏基材を選ぶ)を検討
このようにテープかぶれの対応法は、皮膚がめくれているか、湿疹があるか、の組み合わせで考えると対策しやすいです。
少しだけ捕捉します。
①キャビロン®による保護膜形成について:キャビロン®非アルコール性皮膜、キャビロン®接着性耐久被膜剤はともに皮膚の表面に保護膜を作り、テープの刺激から守ります。医療機器ですので、湿疹やびらん部にも使用し、皮膚を守ることができます(リモイスコートなどの保護剤は化粧品に分類されるため、原則、健常皮膚以外への使用ができません)。
このキャビロン®非アルコール性皮膜、キャビロン®接着性耐久被膜剤の違いや使い分けの詳細は以下のページに載っていますので参考にしてください。
陰部~臀部の肌荒れの対策を考えよう!
この2剤の使い分けについて、簡単に説明しますと、キャビロン®非アルコール性皮膜の方がバリア機能が弱いので毎日塗る必要があり、びらん部に保護膜は作られにくいです。そのため、使用は軽微なびらんまでに留めないといけません。一方で、キャビロン®接着性耐久被膜剤はびらん部の上にも保護膜を作ることができます。さらに週1~3回ほどの塗布で効果は持続します。ただ、1本1,000円以上して安くはありません…
②トプシムローションについて:湿疹(かゆみをともなう赤みやざらつき)を生じたらステロイド外用剤の使用をおすすめします。ただ、軟膏やクリームタイプの塗り薬は塗るとテープが貼れなくなります。しかし、トプシムローションは速乾性があり、湿疹部に塗布して1分ほど置けば乾くため、塗ったところにテープを貼ることができます。
そのため、皮膚めくれの無い湿疹部にテープを貼りたい場合はトプシムローションの使用をお勧めします。
③亜鉛華軟膏とステロイド外用剤の混合について:私基本的には外用剤の混合はお勧めしていません(一番の理由は配合変化をきたして効果が不定となるため)。ただ、じくじくした湿疹はステロイド外用剤のみで治療するとじくじくしたところに細菌が繁殖してかえって悪化することがあります。そのため、湿疹を治すステロイド外用剤に水分を吸収し乾燥させる作用のある亜鉛華軟膏を混ぜることで、じくじくした湿疹は治りやすくなります。
④抗真菌外用剤について:臀部の真菌症は白癬菌(いわゆる水虫)とカンジダ両方の可能性があります。以前からよく使われるテルビナフィン(ラミシール®)はカンジダに対する効果が弱いです。そのため、お尻の真菌症を疑った場合は、白癬菌にもカンジダにも有効であるルリコン®やアスタット®などのイミダゾール系外用剤の使用をお勧めします。また、特にじくじくしたところにクリーム系の外用剤を塗ると刺激性皮膚炎でかえって悪化することがありますので、テープを貼る部位でなければ軟膏基材の抗真菌外用剤を選ぶことをお勧めします。
まとめ
1 テープの剥がし方は種類によって異なる + テープを剥がす際は優しくゆっくり剥がす
2 テープ荒れを予防する:肌に優しいテープや被膜剤、リムーバーなどを使用する
3 テープで荒れてしまった場合は、皮膚めくれや湿疹の有無で対処法を変える
高齢患者さんの皮膚はテープを剥がすなどの些細な刺激で簡単にバリア破壊を生じます。
さらには、前日の塗り薬は翌日には抗菌力はほぼなくなり、逆に感染源となる可能性があります。そのため、基本的に連日の処置が必要で、毎日テープや洗浄剤の刺激が加わります。
それらの影響により、褥瘡処置において皮膚トラブルを完全に避けることは難しいです。
ぜひ、今回の内容を参考に、皮膚トラブルを最小限にする対策を心掛け、トラブルを生じたとしても速やかに対策できるようにして、患者さんが心地よく生活できるよう努めていきましょう!