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⑤塗り薬による褥瘡処置 ①~④をふまえて褥瘡処置の流れを総チェック!+在宅褥瘡診療で大切にしていること

まもりさん

褥瘡処置ってこんなに注意することがあるって思いませんでした

S先生

覚えることが多いわりに学ぶ機会も少ないので、特に訪問看護などでは処置に個人差がでやすいですよね…

まもりさん

褥瘡ってみんなで足並みそろえて取り組まなければいけないんですね

S先生

そのためにも、今まで学んできたことのポイントを復習してみましょう!

今回は褥瘡処置のまとめです。
耳にタコかもしれませんが、お互いの処置を確認することが難しい在宅患者さんの処置は、どうしてもばらつきが大きくなってしまいます。
テープの剥がし方から洗浄法、軟膏の塗り方やテープの貼り方まで、すべてが適切に行うことで、創が治る可能性は飛躍的に高まると思います
ぜひ、日々の処置を改めて見つめ直すよい機会にしましょう!
また、今回はかなりポイントだけを抽出して作っています。本来は、なぜこの処置が必要なのか?適切に行わなければどんな問題が生じるのか?などより深い理解のもと処置を行った方が身につきやすいし良い結果も出やすいと個人的には考えています。さらに詳細を知りたいときは、それぞれのページで確認してみてください。
そして、最後に在宅患者さんに対する褥瘡対策を行う上で、大切なことをお話しします。これを知らないと患者さんやご家族に不幸を招くこともありますので、是非ともご確認ください。
目次

塗り薬による褥瘡処置のまとめ

では、今回は今まで①~④で説明してきました、塗り薬による褥瘡処置をまとめます。

STEP1 テープを剥がす(詳細はこちらを参照)

テープを勢いよく剥がすと皮膚がめくれるリスクがあります。テープの適切な剥がし方のポイントを以下に示します
1 テープの適切な剥がし方は、①フィルムドレッシングと②フィルム以外 で異なる(下画像参照)
2  最も大切なことはゆっくり優しく剥がす

STEP2 創部を洗浄する(詳細はこちらを参照)

菌の増殖を抑え、創部を清浄化するための適切な洗浄法のポイントです。
1 ぬめりがみられたり肉芽色が不良の場合には口腔ケア用ブラシで擦るなどして、ぬめりをとっていく
2 弱酸性の泡洗浄剤を使用して、創部だけでなく、創部から10cm以上広範囲の皮膚や、ポケット形成があればポケット内部も含め、ある程度の時間をかけて
(20秒以上)護的に洗浄する。
3 水道水など十分なぬるま湯で残留した汚れを洗い流す

※塗り薬による処置は1日1回が原則です

STEP3 ポケットがあればその対策をする(詳細はこちらを参照)

ポケットや肉芽の折れ曲がりなどを改善するための、伸縮テープによる対策法をお示しします。文章のみでは分かりにくいため、今回は3時方向に牽引する例を下の写真に示していますので、照らし合わせながら確認してみてください。
1 伸縮テープがつきやすいように、ガーゼなどで貼る場所をしっかり乾かす
2 伸縮テープはある程度長めに
(目安は15㎝以上。3時や9時方向に牽引する場合はテープの端が腹側側まで至る長さ)に切り、剥離紙は全て剥がす
3 伸縮テープ
は可能な限り創部のぎりぎり際の皮膚に貼る(下写真①)

4 左手で際に貼ったテープを押さえながらポケットが開く方向に引っ張る(下写真②の赤矢印)
5 左手はポケットを開く方向に引っ張ったまま
(下写真③の赤矢印)、右手で伸縮テープを皮膚に垂直方向に引っ張る(下写真③の青矢印)
6 右手で引っ張ったテープのテンションを維持しながら皮膚に貼る下写真③の黄矢印)
※引っ張る方向などによって、使用する左手、右手は逆になることもあります

STEP4 創部に塗り薬を塗りガーゼで被覆する

ガーゼの大きさや塗り薬の量も大切です。ガーゼはメロリンガーゼなどの多孔性ポリエステルフィルムガーゼの使用をおすすめします。
ただ、このガーゼは決して安価ではないため最小限の大きさで使用したいですが、かといって小さすぎると浸出液を吸いきれず感染のリスクになります。
ほどよいガーゼの大きさや塗り薬の量のポイントを示します。
1 ガーゼはメロリンなどの多孔性ポリエステルフィルムガーゼがおすすめ
2 ガーゼを適切な大きさに切る。ガーゼの適切な大きさは創の大きさではなく、前日処置したガーゼに付着した浸出液が十分に覆われる大きさ
(下写真①)
3 塗り薬を塗る量の目安
3ー1 凹みのない創:塗り薬の厚み
が少なくとも2~3mm以上あるように塗布
3-2 凹みがある創:凹みが完全に埋まる量の塗り薬を塗る
(下写真②)

※塗り薬はガーゼに適量をつけておいて創部に塗ると塗りやすいです

STEP5 テープで固定する

テープ固定は塗り薬を固定し、適度な湿潤環境を保つために、実は結構重要です。そのポイントをまとめます。
フィルムなどで創部を密封しない(密封は感染リスクを増す)
2テープは主に5㎝幅のテープを四隅に貼って固定し、中央は浸出液の逃げ道を作る(下写真①の青枠)テープを貼る位置は、テープ幅の半分をガーゼ、半分を皮膚になるように貼る(下写真②の赤矢印)

一連の流れを動画で確認

今までお話ししてきましたように、実は褥瘡処置において抑えるべきポイントは決して少なくありません
最後に、処置の一連の流れを動画にしてみましたので、処置方法をさくっとおさらいしたい際に参考にしてみてください。

在宅褥瘡診療で大切にしていること

最後に、在宅患者さんに携わる上で、決して忘れてはならないことがあります。それは
”訪問診療の本質は、人生を終の棲家でその人らしく全うできるようサポートすることであり、必ずしも治すことが目的とはならない(私見)
ということです。
訪問診療に携わる医療従事者の中で、前職が総合病院での勤務、という方は少なくないと想像します。すると、”医療従事者の使命は治すこと”という刷り込みが多少なりとも根付いています。
しかし、すべての褥瘡を治すことは難しい上に、時に積極的な治療は患者さんの苦痛を伴い、生きる気力を削いでしまう可能性もある、という現状において、訪問診療は必ずしも”治すこと”が目的とはならないのです。
そのため、私は以下の2つのゴールを設定しています。
褥瘡の治療には2つのゴールがある(私見)
1 創を治すこと
2 ゴールを治すことではなく、感染を生じにくく、痛みもない患者さんが安楽に生活できる創にすること
特に、予後も短く、経口摂取も十分に行えなず、創部も改善しにくいような患者さんやご家族には後者を提案しています
といいますのも、前述のとおり、デブリードマン、ポケット切開、創部洗浄…褥瘡の処置や治療は痛みを伴うものが少なくなく、そのような治療を希望されない患者さんも少なからずいらっしゃいます。
さらに、褥瘡治療や予防に重きを置きすぎて、体位変換を頻回に行うことで楽しみにしているテレビが見れない、とか、自由に車いすも乗れない、となってしまっては本末転倒です。患者さんやご家族が何を最も大切にしたいのか、十分に把握したうえで、治療方針を決めることが訪問診療では大切だと考えています。その上でも、積極的なアドバンスケアプランニング(人生会議)を定期的に行うことは非常に有意義だと感じます。
そして、もし、痛みを伴う治療は希望されず、褥瘡を治せない場合でも、例えばデブリードマンしなければ感染により命に関わったり痛みが改善しないことがありますので、局所麻酔などを併用し痛みを最小限に壊死組織を除去し赤色肉芽で創部を覆うことができれば、感染リスクは抑えることができ、痛みを生じることも少ないです。
また、ギャッチアップしてテレビを見たいのであれば、可能な限り30度までにしてもらい、ビッグセルアイズなどの褥瘡予防効果の高いエアマットを使用して褥瘡が悪化しにくい対策を行います。
このように創を治せずとも、様々な対策法を身に着け、患者さんの希望に沿う提案ができるようにすることが訪問診療ならではの醍醐味だと感じます

そして、最後にあと2つ私が大切にしていることをお伝えします。
訪問診療の褥瘡対策で最も大切なことは深い褥瘡を作らないこと(私見)
そのために、ケアマネジャーなどエアマット導入のキーパーソンに、寝返りを打てなくなったら素早く適切なエアマットを導入する必要性があることを周知していく
もし、壊死組織を伴うような深い褥瘡が発生すれば、QOL低下は免れません。さらに、在宅では褥瘡に精通した医療従事者がいないことも少なくなく、創を治すことは非常に難しいです。その結果、対策が遅れ命を脅かすことすらあります。
そのため、訪問診療ならではのメリットを最大限活かした対策が非常に大切であり、それが寝返りを打てなくなったら早期のエアマット導入だと考えています。
このエアマット早期導入を適切に行えれば多くの褥瘡は未然に防げる、そして、たとえ発生したとしても改善しやすい浅い褥瘡で済むことがほとんどであることを経験上実感しております(あくまでも個人的な考えですし、踵褥瘡などの例外はあります)。
この対策において、訪問診療が非常に有利なのは、介護保険で褥瘡予防効果が高いエアマットでも月に1,000円ほどでレンタルできるということです。このメリットを十分に活かせるよう、あとはケアマネジャーの方々に知識の啓蒙ができればと考えています。

そして、もう一つ私が大切にしていること、それは、患者さんやそのご家族、携わる医療従事者すべての方々に感謝するということです。特に、ご本人やご家族への労りを必ず診察の最後に伝えることを大切にしています
患者さんのご家族は24時間365日介護を続けています。お給料をもらえるでもなく、誰かに称賛されることもほぼありません。
褥瘡を有する患者さんもベッドの上で色々な感情と向き合いながら懸命に生活されています。
全ての褥瘡を治すことができる訳でもない、私でもできることは、患者さんやご家族の労をねぎらうことです。創がよくなっていれば、ご家族に”皆さんがよくしていただいたお陰で創がよくなっていますよ”、ご本人には”床ずれはなかなか治りにくいんですけど、○○さんの創はよくなっていて、まだまだ治る力がありますよ!”とお話ししたり、もし改善しなくても、ご家族やご本人に”今の状態であれば悪化してしまうことも多いのですが、現状を維持できているのはすごいことです”、そして、加えてご家族には”現状を維持できているのは、ご家族が適切な介護をしていただいているお陰です。ありがとうございます!”、など、患者さんやご家族が少しでも前向きになる言葉を診察の最後に声掛けすることを私は心掛けています。
全ての創や病気は治せなくても、せめて心のもやを少しでも消してあげることはできるのだと思います。そんな、ほんの些細な一言だけでも患者さんやご家族は救われていることを、私は多くの患者さんやご家族から教えていただきました。
さらに、ご本人・ご家族だけではなく、様々な職種の方々がお互いに尊重し、感謝しあえる、在宅医療がそんな場になっていけることを願います。
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