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褥瘡の処置方法② 実は間違いだらけの創部洗浄法

まもりさん

褥瘡がなかなか治らないのですが、処置方法に問題があるのでしょうか?

S先生

褥瘡が治らない原因はいくつもありますが、実はその一つに正しい洗浄方法が行われていない、ということがあるんです

まもりさん

洗浄って大切なんですね…

創部を洗浄する、褥瘡処置では当たり前のように行われています。
しかし、この洗浄、特に深い創では日々適切に行わないと知らぬ間に治らない創に変わってしまうことがあります
実際、様々な医療従事者の創部洗浄を拝見しますが、創部のみに短時間洗浄剤をつけ、すぐに洗い流している方が少なくありません。この洗浄では十分に創をきれいにすることはできず、治る創も治らなくなってしまう可能性があります。
今回は創を治すために大切なポイントである洗浄剤の選び方や洗浄法、さらにはそれらが適切に行われない場合などに生じる非常にやっかいな状態であるクリティカルコロナイゼーションについてのお話です。

目次

創部洗浄のポイント

褥瘡処置においては、洗浄は非常に大切だと考えています。
その理由はいくつかあります。

創部~周囲の皮膚を洗浄する必要性
・ 創部周囲の皮膚から創部に、菌が付着するのを防ぐ

・ 創部で繁殖した菌を洗い流す
・ 創部に付着した外用剤を洗い流す(前日の塗り薬は感染源となるリスク)

そのため、外用剤による処置を行っている場合は、必ず連日洗浄する必要があります。しかも、創の周りの皮膚に付着する細菌が創部への感染源となることもあり、周囲の皮膚も含め広範囲に洗浄することが大切だと考えられています
しかし、ここで問題があります。「洗浄を毎日行うと肌が荒れる心配があるのでは?」・・・この考えは間違ってはいません。特に高齢者では皮膚のバリアを作る力が低下しているため連日の洗浄により皮膚トラブルを生じやすいです。
では、皮膚トラブルを最小限に、適切な洗浄を行うには、どのようにすればよいでしょうか?ポイントは2つあると考えています。

創洗浄のポイント
①適切な洗浄剤を選ぶ
②創の状態に応じ適切に洗浄する
では、それぞれについてお話しします。

1 洗浄剤選びのポイント

洗浄剤選びのポイントは2つあります。一つずつお話ししていきます。

1-1 プッシュ式の泡になる洗浄剤

みなさんご承知のことと思いますが、洗浄剤が汚れをとるのは“泡の力”です。
特に、きめの細かい泡で洗うことが、皮膚トラブルの予防も含めて大切だと考えられています。
ただ、例えば固形石鹸や液体石鹸を、きめの細かい泡にするのはなかなか手間がかかります。1日何人も処置をする場合、決して効率は良くないです。
そこで、プッシュ式の泡洗浄剤を使用することをお勧めします。

2-2 肌の弱い方には弱酸性の洗浄剤を使用

洗浄剤選びの2つ目のポイントについてお話しします。
少し前までは、洗浄といえば弱アルカリ性の洗浄剤(いわゆる石鹸)が主流でした。
しかし、近年低刺激をうたった弱酸性の洗浄剤など、多種多様のものが市販されています。WEBを見れば、天然がいいとか合成界面活性剤はよくないとか色々書かれていて、何が正しいのか判断が難しいと思います。
ただ、おおざっぱではありますが、アルカリ性、弱酸性の洗浄剤にはそれぞれに特徴があり、用途に応じて適切に使い分けることが大切です。
〇弱アルカリ性洗浄剤の一般的な特徴
・メリット
 洗浄力は高い
・デメリット
 皮膚への刺激が強い


〇弱酸性洗浄剤の特徴
・メリット
 ①皮膚のPHに近いため皮膚へのダメージが少ない
 ②弱酸性環境はブドウ球菌など皮膚に付着した菌の増殖を抑えられる
・デメリット
 アルカリ性洗浄剤に比べて洗浄力に劣る
このようにアルカリ性と弱酸性の洗浄剤には長短ありますが、基本的には以下のように考えています。
褥瘡の洗浄には弱酸性の洗浄剤を使用
なぜ弱酸性の洗浄剤をお勧めするかといいますと、その最大の理由は肌への負担です。
高齢者は角質(皮膚のバリア)を作る機能が低下しているところに、バリアへの負担が大きい石鹸を使用すれば、皮膚は荒れやすくなります。荒れた皮膚は湿疹を生じやすく、かゆみなどの不快感に繋がりますし、ブドウ球菌などの菌が繁殖しやすく創部感染の原因にもなりうるのです。
褥瘡の処置は基本的に毎日行う必要がありますし、皮膚を傷めない洗浄剤を選ぶことは非常に大切です。

このようにして、適切な洗浄剤を選んだら、いよいよ実際の洗浄法に入ります。

2 おすすめの創部洗浄法

では、ここからは今までお話ししてきました適切な洗浄剤を使用して、実際にどのように洗浄していけばよいのかお話ししたいと思います。
冒頭でお話ししましたが、洗浄を行う意義は、①創部周囲の皮膚に付着する菌が創部に入らないようにする、②創部の菌の増殖を抑える。ということです。これらのポイントを抑えるために、創部洗浄においては創部周囲の皮膚も含めて十分菌を減らせるように洗浄することが大切です。
そのためにはどのように洗浄すればよいのでしょうか?
実はここが難しい問題で、私の調べた限り、十分に有効性が実証された洗浄方法はほとんどないのが現状だと思われます。
そこで、これはあくまでも私個人の考えではありますが、洗浄方法のポイントをお示します。
洗浄方法のポイント(私見)
①十分に泡立てた洗浄剤を使用する
②創部だけでなく、創部辺縁から10cm以上広範囲の皮膚まで洗浄する(ポケットがあればポケット内も)
③少なくとも20秒は愛護的に泡洗浄する
④十分な水道水で汚れや洗浄剤を洗い流す
ちなみに創部辺縁から10㎝広く洗浄することや洗浄時間の20秒は確立した方法ではありません…
創辺縁から10㎝広めに洗うことで、ガーゼで覆うことなどを考えてもある程度皮膚から創部への菌の侵入を防げると思います。
また、洗浄時間の20秒は洗浄剤による手洗いの推奨時間がおよそ20~30秒であることを参考にしています。ただ、実際に創部で菌が増殖している場合(感染兆候や後述するクリティカルコロナイゼーションが疑われる場合)や、壊死組織がある深い創、ポケットのある創では創部に関しては20秒では短い可能性があり、数分間の洗浄が必要なのかもしれません。
また、ある程度の水圧をかけて洗浄することが推奨されていますが、なかなか圧をかけて創部全体を洗浄することは難しいです。そこで、ケープ社から水圧をかけられる洗浄機が市場されており、2万円台でべらぼうに高額ではないので、検討してもよいかもしれません。
洗浄法についてはまだまだ高いエビデンスにのっとった方法が確立しておらず、新たな有益な情報がありましたらアップします。

では、これらの内容をふまえ、実際の洗浄方法をお見せします。
この方法は、あくまでも参考程度にしていただきたいですが、少なくともこのように広範囲の褥瘡に対しては、時間も範囲も十分な洗浄が大切だと思います。
そして、もし連日の洗浄で創部周囲の皮膚が荒れるようであれば洗浄後にヒルドイドソフト®やワセリンなどで保湿して皮膚トラブルを悪化させない対策も大切です。ただ、これらを塗るとテープが貼れなくなりますので、テープを貼る部位が肌荒れした場合は以下のページに対策法がのっていますので参考にしてください。
実はほとんど知られていない、適切なテープの剥がし方&テープによる皮膚トラブルの対処法

ただ、実際に創部に菌が侵入し増殖してしまった場合には、通常の洗浄だけでは菌の増殖を抑えられず、創が治りにくくなってしまうことがあります
以下で、菌が増殖し治りにくくなった創の特徴と対策法についてお話ししたいと思います。

洗浄+αの対策が必要な褥瘡(クリティカルコロナイゼーションが疑われる場合)

1 クリティカルコロナイゼーションとは?

突然ですが、みなさんクリティカルコロナイゼーションって聞いたことあるでしょうか?
クリティカルコロナイゼーションを一言で言えば、”創部で菌が増殖することで傷が治りにくくなった状態”、です。なぜ、菌が増殖すると創が治りにくくなるのかといいますと、菌がある程度増殖すると感染までいたらずとも、菌の増殖を抑えるべく体内の免疫細胞が活性化して炎症を起こし、菌の増殖に抗います。しかし、これはもろ刃の剣で、炎症により菌の増殖を抑えるとともに、正常肉芽組織にもダメージを与えて創が治りにくくなってしまうのです。
そして、このクリティカルコロナイゼーションは不適切な処置などにより、創部の菌が増殖することで生じることがあります

※クリティカルコロナイゼーションについては下のページに詳細を記載していますのでご参照ください。ここでは、簡単に説明します。

③褥瘡治療の道標 TIMEのI(感染/炎症) 壊死性軟部組織感染症、クリティカルコロナイゼーションって知ってますか?
クリティカルコロナイゼーション
上の写真は実際にクリティカルコロナイゼーションと考えられる褥瘡です。
創部の色を見ると創部がややぬめっていることが分かります。肉芽の色調が悪くなり傷が治りにくくなったらクリティカルコロナイゼーションを疑います(ただ、肉芽色がきれいでもクリティカルコロナイゼーションに至っていることもあり、周囲に発赤腫脹などの感染のサインがあるわけでもないのでしばしば判断が難しいことがあります)

一体、どのくらいの褥瘡がこのクリティカルコロナイゼーションに至っているのでしょうか?
実は発生から1か月以上経過した褥瘡の6~9割はクリティカルコロナイゼーションの状態に至っている、と考えられています。

そしてクリティカルコロナイゼーションのさらにやっかいなポイントは、クリティカルコロナイゼーションに至った創に付着する菌の多くがバイオフィルムを形成している、ということです。
バイオフィルム??という方もいると思いますので、次にバイオフィルムのお話しも簡単にしたいと思います。

2 バイオフィルムとは?

バイオフィルムという言葉を聞きなれない方もいると思いますが、身近なところで言えば歯に付着するプラーク(歯垢)です。
下にバイオフィルムを作った菌のイラストを示します。バイオフィルムに至ると菌が自身の周りにバリアを作ることが特徴です。
このバイオフィルム、何が問題かといいますと、このバリアの中に抗生剤も免疫細胞も届きにくいため、菌の増殖を抑えることが非常に難しくなってしまうのです。逆に言えば、免疫から逃れられるバイオフィルム内の細菌は簡単に増殖できるのです。そのため、バイオフィルムを形成した菌はクリティカルコロナイゼーションに至りやすいのです。

褥瘡を長期に観察したことのある方なら感じたことがあると思います。"この褥瘡全然治らないぞ…"
その原因の一つに創部の菌がバイオフィルムを形成することで、容易に増殖してしまい、クリティカルコロナイゼーションに至っている可能性があるのです。


そのため、褥瘡発生の早期から菌が増殖しにくい対策を十分に行い、クリティカルコロナイゼーションに至らせないようにすることが大切ですので、次にお話しします。

3 クリティカルコロナイゼーションに至らせないための対策法

以下に対策法についてのポイントをお示しします。
クリティカルコロナイゼーションに至らせないための対策法
①菌の巣となる壊死組織は早期に除去する
②十分な時間と範囲を意識した洗浄を毎日行う
③抗菌作用のある外用剤を使用する(ゲンタシン®などの抗生剤含有軟膏は×。耐性菌が生じにくいゲーベンやヨード外用剤を選ぶ)
④ガーゼを覆う際はフィルムで密封しない
(詳細は別ページ創が治らないのは、塗り方やテープの固定法に難あり?参照)
このように日頃から創部に菌が増殖しにくい環境を維持することが創を治しやすくするためには非常に大切です。

ただ、それでも残念ながらクリティカルコロナイゼーションに至ってしまった場合、どのように対策すればよいのでしょうか?

4 洗浄だけでは治らない、クリティカルコロナイゼーションの対策法

では、クリティカルコロナイゼーションが疑われる褥瘡(肉芽色が悪く、ぬめりがあったり、創が治りにくい)に対して、どのように対策を行えばよいのかここからお話しします。
ポイントは以下の通りです。

クリティカルコロナイゼーション(+バイオフィルム)の対策法
①創部に白苔(はくたい)があったり、ぬめりがある部位は、口腔ケアスポンジなどを使用して物理的に表面の白苔やぬめりを剥がしていく。
②クリティカルコロナイゼーションに有効と考えられる、外用剤や創傷被覆材などを使用する

では、それぞれについて補足します。
なぜ、ぬめりや白苔に対し、スポンジなどで擦らないといけないのでしょう?
それは歯の歯垢を考えるとイメージしやすいです。
歯の歯垢をうがいだけで除去ができるでしょうか?難しいですよね。みなさん歯磨きをすると思います。
創のバイオフィルムもそれと同様で、洗浄だけで取り除くことは難しく、物理的に擦って取り除くのが有効な方法の一つです。
ただ、現在ではそれ以外にも様々な対策法がありますので、詳細につきましては、前述の③褥瘡治療の道標 TIMEのI(感染/炎症) 壊死性軟部組織感染症、クリティカルコロナイゼーションって知ってますか?を参照ください。
では、実際どのようにしてクリティカルコロナイゼーション+バイオフィルムの対策を行っているのか動画を見てみましょう。
このように痛々しいですが、創部を擦ることで、ぬめりを除去します(ただ、実際は肉芽には痛みの神経がないため痛みはほとんどないことが多いです。ただ、あまりに痛がるようでしたら、患者さんのQIL低下につながりますので、スポンジで擦るのを中止します)。
また、上記の動画では20秒弱しか泡洗浄していませんが、実際にはもっと長く(特に創部は1分以上)洗浄したほうがより改善しやすいのかもしれません(ただ、創部周囲の皮膚を長時間洗浄すると荒れるため、創部のみ長めに洗浄する)。

下の写真は、洗浄前後で創部がどのように変化したかを示したものです。
このように、口腔ケアスポンジで物理的にこすって洗浄することで、創部の白苔が剥がれてきていることが分かると思います。
この処置を日々繰り返すことで、創部全体が赤色肉芽に変わっていくと、肉芽は増殖しやすくなり、創が改善しやすくなると考えられます。

ただ、この口腔ケアスポンジで擦る処置にはいくつかの注意点があり、以下にまとめます。
創部を擦ることによる問題点
①創部の正常肉芽を痛める
②出血のリスクがある
一つ目の問題は擦ることで正常組織を痛めてしまう、ということです。ただ、長期的な視点ではクリティカルコロナイゼーションの方が創部の改善には悪影響を及ぼすのではないかと考えられますので、全体が良好な赤色肉芽になるまでは口腔ケアブラシを使用してぬめりを除去することを優先しています。もし、正常組織を痛めるのが心配であれば、ぬめりや肉芽色が悪い場所に限局して物理的に除去してもよいかもしれません。

そして、もう一つの問題、それが出血です。以下で対策法をお示しします。

3-1 処置時の出血への対応法

特に肉芽が脆弱な場合、口腔ケアスポンジで擦ると出血します。ただ、この出血のほとんどは毛細血管~静脈性ですので、適切に対応すれば止血可能です。
では、出血した場合の対処法を説明します。

出血時の対処法
① アルギン酸被覆材(カルトスタット®など)を出血部位に貼付し、 指や手のひらでの圧迫止血

②出血が止まったら創部を下にした体重圧迫

まず一つ目ですが、単に圧迫止血のみではだめなのか?、と思われる方もいると思います。
もちろんじわじわ程度の出血であれば、圧迫のみで泊まることが多いですが、アルギン酸被覆材を使用したほうが止血しやすいので使用をおすすめします。アルギン酸は海藻からできていて、血を固める作用のある凝固因子の働きを促進させます。
使用方法としましては、アルギン酸はとろろ昆布のようにちぎれますので、出血の範囲分ほどちぎって、創部に貼付します。その上で、圧迫止血しますと、単に圧迫するより早く止血できます。
アルギン酸は粘着力が無いため、翌日 水洗いすれば、簡単に流れ落ちます。

次に圧迫止血のポイントをお話しします。
時折コメディカルの方の圧迫止血を見ていると、圧迫を10秒くらいでやめてしまい、止血を確認して、止まっていなかったら再び圧迫…のような短時間の圧迫を繰り返している場面を目にしますが、これでは出血はなかなか止まりません。
圧迫止血は少なくとも3分、出血がある程度の勢いがあればば5分、抗凝固剤など血液サラサラの薬を服用している場合は10分くらいを目安に持続して圧迫しましょうまた、押さえる強さも、例えば抑えて痛みのない程度の圧迫で十分なことが多いです。

そして、十分に止血されたのを確認したら、軟膏を塗りガーゼ保護し通常の処置を行います。
ただ、処置後に再度出血することも少なくありません

そのため、処置時ある程度出血していた場合には、圧迫で止血されても、処置後に自分の体重で圧迫止血を行います。例えば、仙骨部の褥瘡であれば仰向けに寝てもらい、30分~1時間ほどその姿勢を維持していもらいます。その後、ガーゼの出血汚染を確認して、出血が無い、又はガーゼの一部に淡い出血を認める程度であれば、そのまま圧迫を続けますと褥瘡悪化のリスクになりますので、左右30度側臥位など創部が圧迫されないポジショニングに変更します。
もし、出血確認時にガーゼ全体が真っ赤になるようなら、再度創部を観察して出血の有無を確認します。出血しているようなら、十分止血されるまで再度圧迫止血を行います。

ただ、これらを行っても止血が難しい場合や拍動性の出血がみられた場合などは医師にご相談ください(電気メスや結紮などでの止血が必要な可能性があります)

まとめ

では、今回はかなり内容が盛りだくさんでしたので、まとめます。
  • 創部を清潔に保つため、軟膏処置を行っている場合は1日1回洗浄する
  • 弱酸性の泡洗浄剤を使用し、創部周囲より10㎝以上広めに20秒ほどかけて愛護的に洗浄する
  • クリティカルコロナイゼーションが疑われる褥瘡では、口腔ケア用スポンジなどで創部を擦ってぬめりを除去する

今回は、創部の洗浄法について説明させていただきました。
中盤でお話ししましたが、洗浄法についてはまだ未確立の部分が多いです。
そのため、創部の状態を確認しながら、肉芽の色が悪くなったり、浸出液が増えたり・悪臭がしたら、洗浄が足りなくて菌が増えたのかも、と考え洗浄の見直しを行う、など臨機応変の対応が大切だと思います。

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