まもりさん
仙骨の褥瘡では便が入らないようにガーゼをフィルムで覆ったほうがよいですよね
そうしたくなりますよね…
ただ、ガーゼをフィルムで覆うと浸出液の多い創では、菌も密封してしまい感染のリスクが高まってしまうのです
確かに…
では、どうやってガーゼ保護すればよいのでしょう??
今回はガーゼ保護、塗り薬の塗り方、テープでの固定法のお話しです。
そんなの簡単だよ!って思われる方もいると思いますが、創の処置というのは、個人差が大きく適切に行われていることの方が少ない印象です。
特に訪問診療、訪問看護では、手技が適切か確認することが難しいため、どうしてもオリジナルの処置になってしまいがちです。
ただ、塗り方やテープ固定を適切に行われないと、傷が治らなかったり、ともすると感染のリスクを生じてしまいます。
今回のお話しをとおして、改めて日々行っている処置が適切なのか…見つめ直す良い機会になれば幸いです。
目次
処置で使用するガーゼの大きさを決めるポイントとは?
実際軟膏処置で、特に個人差が激しいのが、ガーゼの大きさです。 「そんな細かいこと気にしなくても…」と思われる方もいると思いますが、実はガーゼの大きさを誤ると、創が治らなくなる可能性があるのです。 これはどういうことか、下の写真をご覧ください。
浸出液が多く、ガーゼが浸出液を吸い切れなくなっています。
このような状態では、浸出液が創部に溜まりすぎて“過湿潤”になったり、菌がガーゼに吸収しきれず繁殖しやすい環境になるため、クリティカルコロナイゼーションを生じ治りにくい創になる可能性が高まります。さらに感染を生じるリスクにも繋がります。
ただ現実的に、このくらい浸出液が多いと、飽和状態にならない程のかなりの大きさのガーゼが手元には無いことが多々あります。そのような場合は、少なくともテープを貼る際に、密封するような貼り方はしないことが大切です。壊死組織がある創を密封すると、あっという間に感染を生じることがあり、非常にリスクが高いです。
さらに、浸出液が多いからとガーゼを重ね過ぎると、例えば仙骨部であれば、重ねたガーゼ部分が特に圧迫されるため、褥瘡悪化のリスクになってしまいます。 ガーゼは厚すぎないようにし(以下で使用する多孔性ポリエステルフィルムガーゼであれば1枚)、浸出液は通常使用している「おむつ」のみで受けるようにしましょう。 では、創に対してガーゼをどのくらいの大きさに切ればよいのでしょうか? 実は、適切なガーゼの大きさは、創の大きさに合わせて切ってはいけないのです。
では、何を基準にすればよいのか…それは“ガーゼに付着する浸出液の範囲”です。つまり、ガーゼが飽和状態にならない程度、もっと言えば上の写真のように、ぎりぎりガーゼの端に浸出液がつくかどうかくらいが丁度いいと考えています。ですので、前日のガーゼに付着した浸出液の範囲を見て、ガーゼの大きさを決めるのがおすすめです。
「そんなの面倒くさいから、とりあえず大きく切っとけば…」という考えもあるかもしれません。ただ。現在、褥瘡処置に関しては、ほぼメロリンガーゼを代表とする「多孔性ポリエステルフィルムガーゼ」を使用していますが、このガーゼ、非滅菌でも10X10cmで 50円近くします。
しかも、コストは取れませんので、医療機関やご家族の負担となります。そのため、いかに費用対効果の高いガーゼの大きさにするのかも大事です。
「ガーゼの切り方」というところで、もう一つ注意点があります。
例えば10X10cmのガーゼを使用する場合、前日の創の浸出液の長径が6㎝だったとします。すると例えば、その浸出液が十分吸収できるようにと、8㎝大にガーゼを切ります。そうすると、残り2㎝ほどのL字型のガーゼが残りますが、この幅のガーゼが役に立つことは、ほぼありません。そのため、5㎝四方でカバーしきれない浸出液がある場合は、10X10cmの大きさのガーゼをそのまま使用すればよいと思います(もちろん残りのガーゼで、別の患者さんや別の創に使用するのに程よいケースがあるようでしたら大きめに切ってもOKです)。
まとめますと、ガーゼを切る際には ①浸出液をカバーできるか、②残りのガーゼを有効活用できるか、この2つのポイントを押さえることが大切です。
創の状態によって異なる塗り薬の塗り方
ぬり薬の塗り方は、「①浅い創(肉芽がほぼ皮膚の高さ)」と、「②深い創(見た目に凹みがある創)」で異なりますので、それぞれ説明します。
1、浅い創(明らかな凹みがない創)に対するぬり薬の塗り方
上の写真のような「浅い創」に対しての塗り方のポイントは3つ。
浅い創に対するぬり薬の塗り方ポイント
① なるべく軟膏はガーゼに塗る
② 創の大きさすべてを覆えるように塗る
③ 2~3㎜以上厚みがでるように塗る
では、これらのポイントを踏まえて、浅い創に対して、どのように塗り薬を創部につけているのか、動画で見てみましょう。ちなみに、この塗り薬は [ユーパスタ軟膏:オルセノン軟膏=10:3] で混合したものです。ペースト状の柔らかい塗り薬になっています。
このように、容器を傾けて塗れるぬり薬はかなり少数派ですが、基本的にチューブの塗り薬などでも、ガーゼに創と同じ大きさで2~3mm以上の厚みになるように塗っておいて、創部に貼付する方が塗りやすいことが多いです(動画では1mm以上の厚みと記載しましたが、最近では2~3mmで厚く塗ることをお勧めしています)。
2、深い創(見た目に凹みがある創)
では次に、凹みのある創へのぬり薬の塗り方について説明します。ポイントは次の2つです。
凹みのある創のぬり薬の塗り方のポイント
① へこみ全てが埋まるように、たっぷり塗る
② ポケットの中にも、可能な限り入れる
上記写真のようにポケットがない場合は、凹みを埋められるくらい、ぬり薬をガーゼに塗りましょう。
ポケットがある場合は、可能な限りポケットの奥まで塗り薬が行き届くように塗ることが大切です。特にポケット内部に壊死組織などがあり感染のリスクがある場合は、しっかりポケット内も塗りたいところです。ただ、その場合はガーゼに塗っても奥まで入れ込むことは難しいため、主に以下の2つの方法を行います。
このように創部全体にぬり薬が行きわたるように意識してぬり薬を塗ることが大切です。
ただ注意点としまして、ポケット内部に入れた塗り薬は、翌日の洗浄で十分に洗い流してください。特に「ヨウ素含有軟膏」の一部は、数時間で抗菌作用はほぼ無くなってしまうため、1日経つと塗り薬は感染源になる可能性があります。ポケット内は時に洗浄がおろそかになりがちですので気を付けましょう。
ガーゼをテープで固定する際の注意点
最後に、ガーゼをテープで固定する際の注意点です。 主に以下の2つのポイントがあります
① ガーゼを固定する際に、テープ(特にフィルムドレッシング)でガーゼを密封しない。
② テープで皮膚トラブルを生じた際に、粘着の強いテープを使用しない。
では、それぞれについてなぜ問題で、どのように対策すればよいか説明します。
①ガーゼをフィルムドレッシングなどで密封することの問題点と対策
上の写真のようにガーゼをフィルムドレッシングや固定テープで完全に密封すると菌が逃げられなくなり、感染リスクが非常に高まります。時に生命に関わる重大な感染症に至るリスクもありますので必ず避けてください。
特に10㎝幅のフィルムドレッシングは密封するリスクが高まりますので、出来るだけ5㎝のフィルムドレッシングを使用するのがおすすめです。
では、ガーゼをどのようにして固定すればよいのか、そのポイントを以下の写真でお示しします。。
ガーゼはあくまでも、四隅のみを固定し、中央は浸出液の逃げ道を作ってあげることが大切です。
さらにはテープを固定する際、テープは特に仙骨部ではずれ力等で剝がれやすいため、5㎝幅の粘着性不織布テープ(シルキーポア®など)を使用して、テープ幅の半分が皮膚、残り半分がガーゼにつくくらいで固定するのがおすすめです。
また、肛門側には排泄物の侵入を防ぐためフィルムドレッシングを使用することが多いですが、先ほどもお話ししましたように5㎝幅のフィルムドレッシングを使用して中央に十分な浸出液の逃げ道を維持することを心がけます。
②テープで皮膚トラブルを生じた際には
上の写真のように褥瘡周囲の皮膚が荒れてしまった場合は、さらなる悪化を防ぐため、粘着の強いテープは控えたほうが無難です。
そのような場合、固定するテープは『カブレステープ』など粘着の優しいテープを使用することをお勧めします。もちろん粘着が優しいということは剥がれ易いということでもありますが、先ほど説明しましたように、テープ幅の半分を皮膚、半分をガーゼにつくように固定すれば、意外に剥がれにくいです。仙骨部などずれやすい部位では上の写真の左側のようなおよそ5㎝幅のカブレステープを使用することをおすすめします。
その他、皮膚トラブルにつきましては、「褥瘡処置① テープの剥がし方」のところで詳しく説明していますので、参考にしてください。
褥瘡の処置方法① 実はほとんど知られていない、適切なテープの剥がし方+処置に伴う皮膚トラブルの対処法
まとめ
では、最後に今回のまとめです。
1 創部に貼るガーゼの大きさはガーゼに付着した浸出液の面積より大きめに切る
2 塗り薬を塗る量は、凹みのない創であれば2~3㎜以上の厚さ、凹みがあれば凹みが埋まるくらいたっぷり塗る
3 ガーゼは密封しない。四隅のみを固定し、中央は菌や浸出液の逃げ道を作る
以上、「ガーゼの切り方、軟膏の塗り方、テープの固定法」について説明してきました。 普段何気なく行っている処置も、創の状態によっては様々なリスクをはらんでいることがお分かりいただけたと思います。 創部を感染やクリティカルコロナイゼーションなどのリスクから守りつつ治していくには、処置を行う全員がこれらの注意点を十分に理解し、処置していくことが大切です。 では、次回は「褥瘡処置①~④」で説明しましたことをまとめたいと思います。全員が適切に実施出来ているのかどうか、勉強会などで改めて顧みていただけたら幸いです。