スキンテアのおすすめの対策法はないですか?
多くの患者さんに汎用性のある処置方法がありますよ。
今回はスキンテアについてお話ししましょう!
皮膚粗鬆症(ひふそしょうしょう)っていう言葉、聞いたことあるでしょうか? 骨粗鬆症にちなんで名づけられた、皮膚が脆弱な患者さんを示す疾患です。
上画像のように皮膚が薄くなり、簡単に内出血を生じてしまいます。
すると、例えば腕をつかむなど、ちょっとした刺激で簡単に皮膚がめくれてしまうのです。
この状態をスキンテア(皮膚裂傷)といいます。
このように、「内出血→皮膚裂傷を繰り返すこと」が皮膚粗鬆症の特徴です。
実は、高齢患者さんの3割ほどが皮膚粗鬆症だと言わています。
そのため、まれならず遭遇するスキンテアに対して、適切な処置を行えるように学んでいきましょう!
スキンテアの分類と対処方法
スキンテアの処置は、大きく2つに分かれます。 それは①創傷被覆材による処置、②軟膏処置、です。 どちらを選ぶかは、処置を行う環境、全身状態、スキンテアの程度によりますので、以下にまとめます。。
1創傷被覆材がよい適応となる患者
・剥離した皮膚の欠損がほとんどない
・連日の処置が難しい(創傷被覆材の処置頻度は週1回ほどでよい)
・免疫力の低下や浮腫などがない(創傷被覆材は貼りっぱなしの処置のため感染リスクが高まるため)
2塗り薬による処置がよい適応になる場合
・連日処置できる
・連日入浴を希望される(創傷被覆材の処置は創部で濡れた場合基本交換となるため)
・免疫力低下や浮腫など感染リスクが高い
・皮膚欠損範囲が広い(創傷被覆材ではくっついて剥がすのが大変+貼りっぱなしだと感染リスクが上昇)
さらに、スキンテアの程度や欠損の範囲などで処置方法が異なりますので、以下のように分類して、具体的な処置の方法をみてみましょう!
1創傷被覆材による処置 1-1皮膚が破れていない血疱 1-2皮膚の欠損がないスキンテア 1-3皮膚の欠損があるスキンテア 2塗り薬による処置
では、各々どのように対処すればよいのかお話しします。
1創傷被覆材による処置
1ー1 皮膚が破れていない血疱
皮膚が破れていない血疱の対策法です。 血疱はそのまま血液が吸収され生着することもありますが、剥がれた皮膚に栄養がいかないため壊死してしまったり、血疱内に2次感染を生じることもありますので、可能な限り内部の血液を排出して皮膚接合用テープで固定しています。 以下にその手順をお示しします。
内部の血液を排出し、血疱の蓋と下床を接着させます。
この際、小範囲の切開に留めますと、2次感染を生じた際に、細菌の逃げ道がなく感染が悪化する恐れがありますので、血疱のある程度広めに切開を入れたほうが無難です。
巨大な血疱の場合は数㎝の切開を複数入れるとよいと思います。
切開の場所ですが、安静にしている時に下になるところに入れると重力で血液が逃げやすくおすすめです。
皮膚接合用テープで固定する際は、密に貼ると血液や菌の逃げ道がなくなって、血液貯留や感染を生じることがありますので、隙間をあけて貼っていくのがポイントです。
皮膚接合用テープの上に直接ガーゼなどで固定すると、くっついて剥がすとき大変になることがあります。
粘着力の優しいシリコーンドレッシング(メピレックスAg®やエスアイエイド®など)を創部に貼っておくと剥がしやすいです。
皮膚が弱いの患者さんには、基本的に粘着の強いテープは貼らない方が無難です(剥がすときに2次損傷を生ることがあります)。そのため、不織布などを1周巻いて、不織布同士でテープ固定し、さらには包帯を巻いて固定するなどしておきますとしっかり創部を保護できます。
基本的にこの処置を行ったら、1週間そのままにしておきます。
感染など心配される方もいるかと思いますが、スキンテアで生じた傷はかなり浅い層の傷で、壊死組織もないため、まず感染を生じることはありません。心配でしたら、2~3日後に一度、シリコンドレッシングを剥がして創部を観察し、問題なければ元に戻してもよいかと思います。入浴はラップを巻くなど防水にしてシャワー程度にするか、皮膚接合用テープ以外は剥がしてシャワー浴し、同じ処置を繰り返してもよいかと思います。
1-2 皮膚の欠損がないスキンテア
皮膚欠損がない場合のスキンテアに対しては、以下の手順で処置を行います。
時にスキンテアで剥離した皮膚はしわになったり、内側に巻き込んでいます。無鉤(むこう)の攝子(せっし)や綿棒などで優しく元の位置に戻します。もし、乾燥している場合は生食ガーゼなどを数分間剥がれた皮膚にのせて柔らかくした上で、もとに戻るか確認します。それでも元に戻らない場合は、次に説明します皮膚欠損のある場合の処置に切り替えます。
皮膚接合用テープで固定する際は、剥がれた方向と逆方向(皮膚を元の位置に戻す方向)に引っ張りながら貼ることで、隙間なく固定しやすくなります。また、テープ同士の間隔をあえて空けて、皮膚の下で続く出血などの逃げ道を作ってあげた方が戻した皮膚が生着しやすいです。
皮膚接合用テープの上に直接ガーゼなどで固定すると、くっついて剥がすときとても苦労することがあります。
粘着力の優しいシリコーンドレッシング(メピレックスAg®やエスアイエイド®など)を創部に貼っておくと剥がしやすいです。ただ、それでも1週間後にはある程度くっついていますので、どちらから剥がすと皮膚がはがれにくいか矢印を書いておくとよいです(下の動画参照)。
皮膚粗鬆症の患者さんには、基本的に粘着の強いテープは貼らない方が無難です(剥がすときに2次損傷を生ることがあるため)。そのため、不織布などを1周巻いて、不織布同士でテープ固定し、さらには包帯(or チュビファースト®などの筒状包帯)で固定するなどしておきますとしっかり創部を保護できます。
では、この一連の流れを動画で見てみましょう。
基本的にこの処置を行ったら、1週間そのままにしておきます。
感染など心配される方もいるかと思いますが、スキンテアで生じた傷は浅い傷で、壊死組織もないため、感染を生じることは多くはありません。入浴はラップを巻くなど防水にしてシャワー程度にするか、皮膚接合用テープ以外は剥がしてシャワー浴し、同じ処置を繰り返してもよいかと思います。
なお、1週間シリコーンゲルドレッシングを貼っておくと創部にくっついていることがありますので、その場合はたっぷりの水道水などで濡らしながらゆっくり剥がしていくようにしてください。
ただ、免疫力が低い、浮腫などで浸出液が多い、悪臭のある浸出液が出る、周囲が赤く腫れる場合などは、以下に説明します軟膏塗布による連日の処置に変えることも検討してください。
1-3 皮膚の欠損があるスキンテア
では次に、皮膚が欠損している場合、または、スキンテアを生じてから時間がたち剥がれた皮膚が縮んでもとに戻らない場合の対処方法についてお話ししたいと思います。 皮膚の欠損がある場合、欠損範囲の程度や浸出液の量などによって処置方法を切り替えることをおすすめします。
1-3-1小範囲(およそ1cm幅以下)の欠損の場合
1㎝程度までの欠損であれば、欠損がない場合とほぼ同様の処置でよいと思います。
戻せる皮膚は元の位置に戻したうえで、皮膚接合用テープで固定し、粘着の弱いシリコーンドレッシングなどで保護します。
ただ、欠損があると感染のリスクは高まりますので、創傷被覆材は抗菌作用のある銀が含まれたメピレックスAg®やアクアセルAgアドバンテージ®などを選ぶことで、より感染リスクを減らせると思います。
そして、不織布を巻き、包帯で固定します。基本1週間おきに同様の処置を繰り返せば1~3週間ほどで多くの場合上皮化します。
ただ、小範囲の欠損であっても、免疫力が低い、浮腫などで浸出液が多い、悪臭のある浸出液が出る、周囲が赤く腫れる場合などは、石鹸洗浄を行い、次に説明する軟膏処置への変更を検討してください。
以下に処置の手順を説明します。
先ほどお話ししましたが、欠損しているように見えて、巻き込んでいるだけのことがありますので、剥がれた皮膚を裏返したり確認して、戻せそうなら無鉤の攝子や綿棒で残存している皮膚を元の位置に戻します。
基本的に皮膚の欠損がない場合とほぼ同様です。ただ、浸出液が多いため、皮膚接合用テープが剝がれやすくなりますので、長めのテープで固定するとよいと思います。
スキンテアは比較的表層の外傷ですので、やや創部を乾燥気味にするアクアセルAg®のような貼付剤が有効だと考えています。連日、外用剤を塗布して上皮化をはかる選択肢もありますが、ガーゼを剥がすときに再度めくれてしまったり、創部の適切な湿潤環境が難しく、上皮化しにくかったりするため、アクアセルAgを貼ってそのままにしておくようにしています。
アクアセルAg®を貼った後に、次回どちらから剥がすと安全なのか矢印を書いておくことをおすすめします。
皮膚に欠損がない場合と同様です。
ただ、注意点としまして、下肢などで浮腫が強い場合は浸出液が出続けて、創部の治りを悪くします。その場合は、平おむつを巻き、その外側をチューブ包帯(チュービコット®など)を使用して軽い圧迫をかけて浮腫を軽減させるとよいと思います。
もし、チューブ包帯がない、または浮腫が改善せず浸出液が多い場合は、弾性包帯を巻いて圧迫するとよいと思います。ただ、弾性包帯は締めすぎると圧迫による損傷を生じますので、可能な限り1日~2回交換するとよいと思います。そのため、チューブ包帯で浮腫や浸出液がコントロールできない場合は、軟膏処置で連日創部処置を行った方がベターと思われます。
チューブ包帯や弾性ストッキングについての詳細は以下に詳細を記載
”④深い褥瘡攻略の道標 ”TIME+α”のM(不適切な湿潤環境)”の目次から ”4-1 下腿浮腫への対策”へ
基本的に浸出液がほとんどなければ、連日の処置は必要なく1週間そのままでよいと思います。浸出液でガーゼ汚染が著明な場合は、STEP4以降を連日おこなうようにしましょう。入浴はラップなどでくるんで濡らさないようにしましょう。
そして、アクアセルAgによる処置の最も注意するところは、剥がすときです。
基本的に創傷被覆材は1週間ごとに交換するのですが、アクアセルAgはかなりがっちりと創部にくっついていることが多いです。これを無理に剥がすと、創部を痛めたり出血してしまいます。ポイントとしては十分な水(水道水でよいです)でアクアセルAgを浸軟させ、数分おいた上で、ゆっくり剥がしましょう(創部にくっつくのを最小限にしたい場合はメピレックスAgなどのシリコンフォームドレッシングも選択肢になります。ただ、メピレックスAgは皮膚への粘着は優しいですが、それでも創部には結構しっかりくっつきますので同様の対策が必要なことがあります)。
もし、どうしても剥がれない場合はもう1週間そのままにしても多くの場合問題ありません。スキンテアでは基本的に2~3週間ほどで上皮化しますので、上皮化すればゆで卵の殻が剥がれるように、自然と剥がれるようになります。
では、実際の剥がし方をみてみましょう。
多くの場合、このような処置を2~3週間継続すれば上皮化します。
もし、それでも改善しない場合は外科系Drに相談してください。
1-3-2欠損が広範囲(幅1㎝以上)の場合のスキンテア
次に欠損が広範囲に及ぶ場合のスキンテアについての対応方法です。
この場合は、浸出液も多く、感染のリスクも高まり、さらには創傷被覆材を貼りっぱなしの処置ではかなりがっちり創部にくっついて剥がすのが大変になりますので、以下に説明します塗り薬による処置が無難と思います。
塗り薬による処置
最後に塗り薬による処置方法についてお話ししたいと思います。
ちなみに塗り薬はワセリンなどでよいですが、2023年の褥瘡学会にて吸水クリーム:マクロゴール軟膏=3:7の混合外用剤がスキンテアの上皮化にはより優れているという講演がありました。実際使用してみると、そのような印象がありますので、これらの混合外用剤が可能な施設では試してみてもよいかもしれません。
では、処置のポイントを以下にお示しします。
塗り薬による処置のポイント
①塗り薬をたっぷり塗る(創部につきにくくするため)
②ガーゼは、多孔性ポリエステルフィルムガーゼ(下図参照)などの創部につきにくいものを選ぶ
③ガーゼを固定するテープは基本的に貼らない(どうしても固定が必要な場合はカブレステープ®など粘着の弱いものを選ぶ)
では、実際の処置方法をお示しします。
創部には菌が繁殖しやすいため、弱酸性の泡石鹸を使用し、創部周囲の皮膚も含めて洗浄します。この際にごしごし洗うと新たな創を生じやすいため優しく洗浄することをこころがけてください。
メロリンガーゼ®などに塗り薬をたっぷり塗りましょう(創部の大きさに厚さ2~3mmほどが目安)。塗り薬はワセリンでよいですが、吸水クリーム:マクロゴール軟膏=3:7の混合外用剤はさらに上皮化がスムーズなことが多い印象です。
ガーゼにテープを貼ると剥がす際に新たなスキンテアを生じるリスクがありますので、可能であれば不織布を1周巻くなどして固定したほうが無難です。
最後に包帯を巻き固定します。この際も固定するテープは包帯同士で固定するように心がけましょう。
まとめ + スキンテアの予防法
以上、スキンテアの処置方法についてお話ししてきました。
スキンテアの患者さんは処置により新たな2次損傷を生じることも少なくありません。
そのため、いかに創部に粘着の強いテープを直接皮膚に貼らず、少ない処置回数で治していくか、ということが大切です。
さらに、もう一つ大切なこと それは、”スキンテアの予防”です。
皮膚に内出血があり皮膚が薄いような患者さんには、日頃から予防することがとても大切です。以下に予防法についてまとめます。
スキンテアの予防法
・ベッド柵など硬いものが直接触れないようにカバーをつける
・定期的に保湿する(保湿剤はヒルドイドローション®など優しく塗れるものを1日1~2回)
・スキンテアのリスクのあるところはアームカバーやチュビファースト®などの筒状包帯で保護する
・浮腫があれば弾力チューブ包帯(チュービコット®)などを使用し浮腫の軽減を図る
・可能な限りスキンテアのリスクのある皮膚にはテープを貼らない(不織布を巻くなどしてテープを貼らない固定法で代替)