「創傷被覆材」って種類が多いし、使い方が難しいです…。
確かに…
創傷被覆材ってどんなメリットがあるんですか??
創傷被覆材は使い方をマスターすれば、スタッフの労力を減らしつつ、創を治すことができる、非常に有用な選択肢となりますよ!
今回は「創傷被覆材」についてお話ししたいと思います。
創傷被覆材は種類も多く、使い方がそれぞれの創傷被覆材で異なるためとっつきにくいですし、塗り薬とどのように使い分ければよいのか分からない、そんな声をよく聞きます。
かく言う私も、あらゆる創傷被覆材を試しているわけではありませんし、何十種類もの創傷被覆材を提示されたとしても、使いこなせないと思いますので、「これは知っておくと便利」と思われる創傷被覆材を4つに絞ってお話ししたいと思います。(多少なりとも私見が入っていますのでご了承ください)
創傷被覆材って何?
創傷被覆材が果たす役割を、ものすごくざっくり一言であらわせば、“創を潤わせて治す貼り薬”ということだと思います。
では、創はなぜ潤いが必要かといいますと、細胞が増えるためには水分が必要だからです。例えば、下のイラストのように、水がある環境と、水がない環境で、どちらがよく植物が育つのかを考えてみれば分かりやすいです。
転んだ時のすり傷などもそうですが、創をそのままにしておくと、創口の水分は逃げてしまい、乾燥してしまいます。つまり、”創が砂漠化”してしまうのです。そうすると、創に凹みのないような浅い創(びらん)なら治ることがありますが、凹みがあるような創は細胞が増えることができず、治らない創になってしまうのです。
実は、創を潤わせる治療には大きく2つの方法があります。
創を潤わせる治療法
1 塗り薬による治療
2 創傷被覆材による治療
では、この2つの方法どのように使い分ければよいでしょうか?
これは塗り薬や創傷被覆材の種類により異なるところももちろんありますが、おおざっぱに以下のように使い分けることをおすすめします。
塗り薬と創傷被覆材のおおまかな使い分け(私見)
1 浸出液の多い比較的大きく深い創 or 壊死組織を伴う創:塗り薬が主体
2 浸出液が少ない浅い創:創傷被覆材が主体
ということで、創傷被覆材は上の写真のような、浅くて浸出液の少ない上皮化しつつあるような創に適応のあるものが多いです。
では、このような皮膚潰瘍に創傷被覆材をどのように使いこなせばよいのでしょう?
それを理解するためにも、創傷被覆材の特徴について、始めにお話しします。
創傷被覆材のメリット
では、創傷被覆材のメリットを挙げてみます。
1、創部に貼るだけで、湿潤環境を維持できる。
2、適切に使用すれば、処置の回数を減らすことができる。
3、創傷被覆材の種類よっては、+αの効果がある。
では、これらのメリットについて、もう少し詳しくお話しします。
1、創部に貼るだけで、湿潤環境を維持できる
創傷被覆材で、もっとも馴染みのあるものの一つに『キズパワーパッド®』(ハイドロコロイドという成分でできています)があります。キズパワーパッド®がなぜ創に有効なのか、それは上の図のように、キズパワーパッドを皮膚に貼ると、創から出る浸出液が創に留まることで、創部が潤った状態(湿潤環境)を維持することができるのです。
2、適切に使用すれば、処置の回数を減らすことができる
ほとんどの創傷被覆材は、基本的に毎日変える必要はありません。そのため、医療従事者やご家族の負担を減らすことができます。
ただ、使用法が適切でないと、頻回の交換が必要になってしまいますし、思わぬ感染を生じることもあります。
要は使い方が大切なのですが、創傷被覆材ごとに使用法の特徴がありますので、この後の「創傷被覆材おすすめ4選」でそれぞれについて説明したいと思います。
3、創傷被覆材にの種類よっては、+αの効果がある
先程から、「創傷被覆材といえば、湿潤環境を維持するために使うもの!」と繰り返し説明しました。しかし、なぜこれだけ数多くの創傷被覆材があるのかといいますと、それぞれの創傷被覆材に、固有のメリットがあるためです。
では、どのようなメリットがあるのか、そのあたりも後程、「創傷被覆材おすすめ4選」で詳しくお話ししたいと思います。
創傷被覆材のデメリット
創傷被覆材には、もちろんデメリットもあります。
1、浸出液が多い創には向かないものが多い
2、感染のリスクがある
3、頻回の交換が必要になる場合、(軟膏処置に比べて)コストが高いことがある
では、デメリットそれぞれについて以下で補足します。
1、浸出液が多い創には向かないものが多い
この写真は、膝の2か所の擦り創にハイドロコロイド(デュオアクティブ®)を貼付したものです。右側のハイドロコロイドは端まで白く変色している(白破線)のが分かると思います。詳細は後程説明しますが、このように、ハイドロコロイドが端まで白く変色していると、創を潤わせているコロイド成分は逃げてしまう(黄矢印)ため、創部が乾燥してしまうのです。
このように創傷被覆材は、浸出液が多い創では使用しにくい、というデメリットがあります。そのため、壊死組織があったり、へこみがあるような深い創で、浸出液が多いことが予想される場合は、次のような対策が必要です。
浸出液が多い創に対する創傷被覆材の対処法
① 貼付する創傷被覆材をさらに大きくする
② 浸出液が多くても対応できる創傷被覆材に変える
③ 軟膏処置に変える
後でお話ししますが、創傷被覆材のは決して安くはありませんので、連日交換が必要な場合などは③の軟膏処置への変更を検討してください。
2、感染のリスクがある
感染のリスクは、特に訪問診療においては、十分すぎるくらい意識して使用する必要があります。
なぜ創傷被覆材が感染を生じやすいかといいますと、密封された湿潤環境ということが、主な原因と考えています。
先程から耳にタコで繰り返している、「細胞が増えるのに適した湿潤環境」…この環境は“菌”が増殖するのにも良い環境になってしまうのです。
特に、長時間 経過した創部には、菌が付着していますので、それを密封すれば、当然感染のリスクとなります。
そこで、特に感染の生じやすい(創傷被覆材は適応になりにくい)リスクを挙げてみます。
創傷被覆材の使用に注意が必要なケース(私見)
1、免疫力が低い患者さん(糖尿病、悪性腫瘍、免疫抑制剤内服中など)
2、血流が悪い創(慢性腎不全(透析)・糖尿病などを合併している患者さんの足の指や踵など)
3、壊死組織など異物が付着している創(創部の色が赤色ではなく、白~黄~黒色)
4、創が深く、腱(けん)や骨などが露出している創(足の指の関節部の創など)
上記の創に対しては、外用剤に変更し、連日処置する方が無難と思われます。
3、頻回の交換が必要になる場合、(軟膏処置に比べて)コストが高いことがある
創傷被覆材は、決して安くはありません。もちろん創傷被覆材の種類にもよりますが、標準的な大きさである10X10㎝で500~1,000円ほどします。そのため、頻回の交換が必要となる場合、患者さんの負担額が増してしまうことがあります。
この後 説明しますが、適切な使用方法を行っても、連日処置が必要になる場合は、軟膏処置に変更するなどの検討が必要になります。
おすすめの創傷被覆材4選と使用方法
では、これらのメリット・デメリットを踏まえて、個人的におすすめします4種類の創傷被覆材を、どのような創部に、いかに適切に使用するのか説明します。
1、ハイドロコロイド(デュオアクティブ®など)
始めにおすすめするのは、デュオアクティブ®や先ほども登場した市販でも入手可能なキズパワーパッド®を代表とした「ハイドロコロイドドレッシング」です。
個人的には、最も使用頻度の高い創傷被覆材です。では、なぜ好んで使用しているのか、ハイドロコロイドのメリット・デメリットを挙げてみます。
メリット
・特に浅い褥瘡では、適度な湿潤環境になりやすい(創の治りが良いことが多い)
・ごく薄い白色調の壊死組織であれば、融解が期待できる
・横漏れや、感染兆候がなければ、貼りっぱなしで良い(最大1週間)
・デュオアクティブET®は、他の創傷被覆材と比べて安い
デメリット
・浸出液が多い創には向かない
・密封するため感染のリスクがある
よい適応
・浅くて浸出液の少ない、もう少しで上皮化しそうな褥瘡
ハイドロコロイドの実際の使用方法
「ハイドロコロイド」といっても、様々な種類があるのですが、個人的に最も使用しているのは『デュオアクティブET®』です。では、この創傷被覆材をどのようにして使用しているのか、動画で見てみましょう。
ハイドロコロイド使用上の注意点
・浸出液がすぐに横漏れしないよう、創の大きさより最低1㎝はのりしろをつけた大きさに切る。(浸出液が多ければ、さらにのりしろを設ける。残りのハイドロコロイドを再利用しやすいように、1/4、1/9の大きさで使用することがおすすめ)
・剥がれそうな部位であれば、上からフィルムドレッシングを貼付する
では、これら使用時の注意点について、もう少し補足します。
ハイドロコロイドは、浸出液が多いと、すぐに横漏れしてしまいます。すると、創部は乾いてしまうため、創が改善しにくくなります。そのため、創の大きさより1㎝以上の のりしろをつけた大きさに切り使用することが大切です。
個人的に、傷の大きさや浸出液の量に応じて、以下のように切って使用すると、効率的に使用できると考えています。
ハイドロコロイドを交換するタイミング
・ハイドロコロイドに浸出液がたまると白色調に変化します。この白色調の部分が被覆材の端まで至りそうなタイミングで、新しいハイドロコロイドと交換します。
・浸出液の横漏れがなければ、最大1週間 貼りっぱなしとします。いつ貼ったか忘れないように、日付を書きましょう。
・1~2日で横漏れしてしまう場合は、より大きめの被覆材に変更します。それでも、すぐに横漏れしてしまうようなら、次に説明するハイドロファイバーや軟膏による処置に変更します。
2、ハイドロファイバー(アクアセルAgアドバンテージなど)
「ハイドロファイバー」にも、様々な種類がありますが、皮膚潰瘍でおすすめなのは、シート型の『アクアセルAgアドバンテージ®』です。ある程度の浸出液にも対応でき、さらには銀が含まれ、抗菌作用がある優れものの創傷被覆材です。さらにアクアセルAgアドバンテージには、界面活性剤であるBTCと金属キレート作用のあるEDTAが含まれ、バイオフィルム除去作用があるという、他の被覆材にはほぼみられない特徴があります(BTCがバイオフィルムをはがれやすくし、EDTAがバイオフィルムを分解しやすくする作用があります)。
※バイオフィルムやクリティカルコロナイゼーションに有効とされる創傷被覆材には、その他にソーバクト®などもありますが、使用経験が乏しいためここでは割愛します。
では、ハイドロファイバーの特徴をお示しします。
メリット
・ある程度浸出液が多くても対応できる(自重の25倍の水分を保持できる)。
・銀が含まれているため抗菌作用があり、長期の貼付に向いている(ただし、過度の期待は禁物)。
・横漏れや感染兆候がなければ貼りっぱなしで良い(最大1週間)。
デメリット
・浸出液が少ない創(スキンテアなど)では、創部にくっついて剥がしにくくなることがある
・粘着性はないため、フィルムドレッシングなどで覆う必要があり、フィルムテープによるスキンテアのリスクがある。さらにはフィルムで密封することで感染のリスクもある
・壊死組織を融解する作用はない(深い創、壊死組織があるような創には使用しにくい)
よい適応
・凹みがほとんどない浅い褥瘡・擦過創・スキンテアなど(ただし、アクアセルAgなどのハイドロファイバーは基本的に皮下組織に至る創傷が保険適応)
※アクアセルAgアドバンテージはぬめりがありバイオフィルム形成が疑われるような皮膚潰瘍にも有効
ハイドロファイバーの使用方法
では、この創傷被覆材をどのようにして使用しているのか、動画で見てみましょう。
ハイドロファイバー使用上の注意点
・切る大きさは、傷の大きさと、浸出液の量で決める(詳細は後述)
・粘着性がないため、上からフィルム材を貼付する
・乾いた状態では抗菌作用は発揮されないため、浸出液が少ない創には、創の大きさ分ハイドロファイバーに水分を含ませてから貼付する
ハイドロファイバーは水分を吸収すると、右写真のように変色します。そうして水分を含むことで始めて銀がイオン化し、抗菌作用を発揮できます。
そのため、あらかじめ創部の面積分ハイドロファイバーに水分を加えて変色させた上で貼付しましょう。ただ、後述のように全体が変色すると替え時ですので、始めから被覆材全体に水分を含ませてしまうと、交換時期の判断が難しくなってしまいます。そのため、ハイドロファイバーは創部よりある程度大きめのものを使用し、中央のみ水分を含ませるようにします。
ハイドロファイバーを交換するタイミング
・基本的には、被覆材に浸出液がたまって飽和状態(貼付したハイドロファイバーすべてが変色した状態)になりそうなタイミングで、新しいハイドロファイバーと交換します。
上の写真のように、固定したフィルムまで浸出液が漏れ出ている状態は、変えるのが遅すぎたと考えられます。
・ハイドロファイバーが飽和状態にならなければ、最大1週間 貼りっぱなしとします。いつ貼ったか忘れないように日付を書きましょう。
・もし1~2日ほどでハイドロファイバー全体が変色してしまう場合は、もう少し大きく切ったり、ハイドロファイバーを2枚重ねにしたりして、吸収できる体積を増やします。それでも1~2日で飽和状態になるようでしたら、軟膏処置などへの変更を検討してください。
3、アルギン酸塩(カルトスタット®など)
アルギン酸塩の最も優れた特徴は“止血効果”です。アルギン酸塩に含まれるカルシウムイオンが血小板凝集や凝固系を促進して止血を促すこと考えられています。
個人的には、創を治すために使用するというよりは、止血目的で使用することがほとんどです。
メリット
・創部の止血効果がある
・ある程度 浸出液が多くても、対応できる(自重の25倍の水分を保持できる)
デメリット
・抗菌作用はない(長期間の貼付は感染リスク)
・壊死組織を融解する作用はない
よい適応
・デブリードマンやポケット切開などによる出血部に使用
アルギン酸塩の使用方法
アルギン酸は、海藻から出来ています(とろろ昆布のイメージ)。そのため 簡単にちぎれますので、出血したところに、その出血範囲の大きさにちぎって貼付します。上から軟膏を塗ることも可能です。
アルギン酸塩 使用上の注意点
・基本的に止血でもっとも効果的なのは圧迫止血です。そのため、出血部位にアルギン酸塩を貼付した上で圧迫を併用することが大切です。
・拍動性の出血では、アルギン酸塩+圧迫でも止血は難しいです。電気メスや結紮などの対応が必要になる可能性があり医師にコンサルトしてください
・粘着性はないため、翌日に洗浄すれば、洗い流すことができます。特に、ポケット内などに入れた場合、忘れられて、とどまっていることがあります。アルギン酸塩は抗菌作用はなく、長時間留まることで、感染源となる可能性がありますので、翌日にはしっかり流してください。
アルギン酸を使用した止血方法の詳細は、褥瘡処置② 実は間違いだらけの創部洗浄法 に記載していますので、ご確認ください。
アルギン酸塩を交換するタイミング
アルギン酸塩は基本的に、貼付し続けることはありません。翌日、洗浄すれば流れ落ちます。
4、シリコーンゲル(エスアイエイド®など)
最後にご紹介するのは、『エスアイエイド®』を代表とした「シリコーンゲル」です。このシリコーンゲルの優れている点は、粘着が優しく、肌への負担が少ない、ということです。また、ある程度厚みがあるため皮膚の保護になります。
メリット
・粘着力が優しい
・厚みがありクッション性がある
・ある程度 浸出液を吸収できる
・ほかの創傷被覆材に比べて安い(非滅菌なら10X10cmで数百円)
デメリット
・抗菌作用はない(長期間の貼付には感染リスク)
・創部が見えないため、創が悪化しているのに気づきにくい
・はがれやすい
・保険適応ではなく、基本的に自費で購入
よい適応
・上皮化した褥瘡の再発予防、突出部の褥瘡予防、スキンテアの保護、殿裂(でんれつ)部など皮膚が折れ曲がる部位でこすれて治りにくい浅い褥瘡
このようにシリコーンゲルは創を治す目的というよりは、骨突出部に貼付し褥瘡発生を予防する、など保護の目的で使用することが多いです。
シリコーンゲルの使用方法
上皮化した褥瘡や突出部の褥瘡予防としての使用法としましては、排泄物による汚染リスクがあったり、擦れてめくれやすい部位ではシリコーンゲルのみでは汚染したり剥がれやすいため、上からフィルムドレッシングで固定します。 以下には、スキンテアに対する使用の一例を挙げています。スキンテアを生じるような弱い皮膚の患者さんは、処置時に新たな創ができてしまうことがありますので、シリコーンゲルのような粘着が優しい被覆材は重宝します。
シリコーンゲル使用上の注意点
・シリコーンゲルは創部が見えず、抗菌作用もないため、感染リスクがある。そのため、基本的に治癒した創の保護などに使用するのがおすすめ。ただ、その際にも創が再発することもあるため、定期的に周囲の発赤がないか、被覆材の上層まで浸出液がたまっていないかなどの観察が必要
・さらには、創に貼付する場合も、あくまで、赤色肉芽の浅い皮膚潰瘍に使用するにとどめた方が無難
シリコーンゲルを交換するタイミング
基本的に1週間そのまま、または、入浴時に交換します。
ただ、シリコーンゲルは剥がしても、粘着力がほとんど落ちない特性がありますので、入浴などで剥がした際、汚染がほとんどなければ、同じものを貼付できますので、費用対効果も高いと思います。
まとめ
以上、創傷被覆材について説明してきました。
思いの外ボリューム感が出てしまいましたが、そのくらい、創傷被覆材を適切に使いこなすには知識が必要なのです。
よく「褥瘡処置は、ぬり薬と創傷被覆材のどちらがおすすめですか?」と聞かれますが、これはどちらも大切で、創部の改善・労力・コスト面など、それぞれの治療法の特徴を熟知して適切に使い分けることが大切です。
そのためにも、ぜひ前回の外用剤と今回の内容を参考に、実際に様々な褥瘡で試行錯誤する中で勘所をおさえていただけますと幸いです。
そして、褥瘡は適切な処置だけでなく、十分な除圧も大切です。褥瘡予防シリーズも併せてご活用してください。