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塗り薬は処方しただけでは治りません(塗り方のポイント)

まもりさん

先生、かゆい患者さんに、お薬を塗っていますが 治りません…

S先生

どんなふうに塗っていますか?

まもりさん

薄く、すり込むように塗っていますが…

S先生

もしかしたら、治らない原因は塗り方の問題かもしれません。
今回は、正しい塗り方についてお話ししましょう!

「ぬり薬を塗っても治らない」…皮膚科の診察では、患者さんによく質問されます。
その場合、もちろん診断が誤っていたということもありますが、”塗り方が適切でなかったため、治らなかった”ということが、少なからずあります。
飲み薬と違い、ぬり薬は、塗り方にかなり個人差が出てしまいます。その個人差を、少しでも減らせるように、正しい塗り方についてお話ししたいと思います。
ただ、塗り方は、疾患ごとに異なります。
今回は、ぬり薬を必要とする代表的な疾患である“湿疹に対するステロイド外用剤”と”水虫に対する抗真菌外用剤”の、ぬり薬を適切に塗る方法について、お話ししたいと思います。

目次

ぬり薬の適切な塗り方

ぬり薬を正しく塗るには、以下の4つのポイントを抑えることが大切です。

1塗る量
2塗る範囲
3塗る回数
4塗る期間

これら全てを適切に行うことが大切になりますどれか一つでも適切でないとそれが原因で治らないということも少なくないのです

では、一つずつ深堀りしていきましょう!

1、適切な塗る量の目安

始めに塗る量からお話しします。
患者さんはしっかり指導しないと、薄くしか塗ってくれません

よく湿疹のような炎症は“火事”に例えられます。湿疹がひどいということは家が激しく燃えているイメージです。
みなさん、家が火事の時 どうしますか?
・・・消火しますよね。
激しく家全体が焼けているとき、コップに水を入れて 消火しようとするでしょうか?

湿疹も同じです。このような赤みやかさつき、痒みがある湿疹病変に、ぬり薬を薄く塗るというのは、家が火事なのに、コップの水で火を消そうとしているのです。

では、どのくらいの量を塗れば、十分な量なのでしょうか?その一つの基準となるのが “FTU” という考え方です。

1-1 FTUとは

FTUとは、finger tip unitの略です。チューブの口径の太さで、人差し指の第1関節から 先端まで出したぬり薬の量で、両手の平くらいの面積 に塗るのが適切な量、ということです。

これを実際に塗ってみると、相当べたべたになります。それくらい塗らないと十分な量ではない、ということです。

ただ、ぬり薬には、チューブ以外にもローションや容器で処方されることがあります。この場合は、どのようにしてFTUに換算すればよいのでしょうか?
実は、剤型が異なっても 基準があります。

「ローションタイプであれば、1円玉の大きさ「容器タイプであれば、人差し指の先端から第1関節の1/2ほどすくった量」が、1FTUに相当します

このように、ぬり薬を塗る際には、適切な量を使用することを心がけましょう!
ちなみに、始めに提示しました背中の湿疹の患者さんは、背中全体に湿疹があります。背中は両手の平およそ5枚分の面積がありますので、上記で説明した量の5倍の量が必要になるということです。

ただ、例えば背中も腕も足もあちこちに湿疹がある場合、背中は2FTU、腕は1FTUなどと説明しても患者さん、とても、覚えきれません…
そのため、実際には塗る量について、以下のようにして説明しています。

1-2 FTUより実践的な塗る量の目安

塗る量の目安
塗ったところにティッシュペーパーを貼ってみて、落ちないくらいたっぷり塗る
湿疹があちこちにある場合などは、下のイラストのように塗り薬を塗った後に、ティッシュペーパーを貼ってみて落ちないくらいたっぷり塗りましょう、と指導します。
さらに補足として「塗り方」ですが、よく、刷り込むように擦って塗る方がいます。これは、皮膚のバリアを壊してしまう可能性があります。基本的に、塗り薬はのせるだけで患部に浸透しますので、刷り込まずに、優しくなでるように塗ることをおすすめします。

2、塗る範囲

患者さんに塗る範囲を指導しないと、かゆいところしか塗ってくれません。すると、かゆい範囲よりも広範囲に火事が波及していることが多いため、消火できず、再発しやすいです。
塗る範囲もしっかり指導することが大切です。

2-1、湿疹・足水虫以外の水虫の塗る範囲

塗る範囲を決めるうえで大切なポイントがあります。
塗る範囲のポイント
(実際に患者さんに皮疹部を指の腹で触ってもらい、ざらざら・ぼこぼこした皮膚の変化を感じてもらった上で)

赤みやざらざら・ぼこぼこした
皮膚の変化があるところにやや広めに塗る
塗る範囲を指導するうえで、実際に皮疹部を触ってもらうというのがとても大切です。
なぜなら、湿疹というのは赤みやかゆみがあるところだけではなく、その周囲にも広がっていることが多いのです。
火事で言えばボヤのような状態ですね。そのボヤまでしっかり消さないと湿疹は繰り返します
そのボヤがあるかどうかを評価する目安が触った感じの皮膚の変化なのです。
どうしてもざらつきなどは乾燥性と考えて保湿剤を選びがちですが、乾燥肌ではかさつきはあっても、立体的に隆起したようなざらつきはありません。
そのため、痒みがある部位は実際に触ってみて、赤みは少なくても、ざらざらしていれば、まずは炎症を抑えるステロイド外用剤を塗ってみることをおすすめします

ここで「ステロイドを正常な皮膚に塗っても大丈夫?」と心配される方がいるかもしれませんが、正常な皮膚に1~2週間塗った程度で“皮膚が薄くなる”などのステロイド外用剤の副作用はまず生じません。

2-2、足水虫の塗る範囲

一方で、足の水虫は、若干 塗り方が異なります。それは、”(足の一部にしかかさつきがなくても)足全体に塗る” ということです。
といいますのも、足の水虫は見た目以上に広く感染していることが多いのです。特に、水虫は真菌(カビ)ですので、蒸れる範囲で増殖します。足で蒸れるところといえば、”靴で覆われる範囲” です。そのため、下のイラストのように全ての指の間、足の側面など靴で覆われるところ全体に塗ることが大切です。

足水虫の塗る範囲=両足全体とすべての趾間部に塗る

3、塗る回数

3-1 湿疹の塗る回数

塗る回数もしっかり指導しないと患者さんかゆい時しか塗ってくれません
塗る回数のポイントをお示しします。
塗る回数の基本は1日2回、朝と入浴後
ただ、これはあくまでも目安です。
大切なのは、”皮疹部に塗り薬がたっぷりついた状態を維持する”、ということです。火事に対して、水をかけ続けるイメージです。
そのため、服を着ている部位で塗り薬が落ちにくいのであれば、1日1回でそれが満たされるのであれば、1日1回でもよいです。
逆に、手湿疹などで、手洗いをすることで塗り薬が落ちてしまう場所であれば、手洗いの都度塗ることをおすすめします。
さらに、それでも追いつかない場合は、たっぷり塗り薬を塗ったうえで、綿の手袋やニトリル手袋などを使用して、塗り薬が落ちにくくする工夫も有効です。

3-2 水虫の塗る回数

水虫のぬり薬は 1日1回入浴後が基本です。入浴しない場合は、足に塗り薬を塗ると歩けば床についてしまいますので、寝る直前がおすすめです。
なぜ1日1回でよいかといいますと、それ以上塗っても、ほとんど効果に差が出ないからです。そのため、例えば、陰部の水虫(カンジダ症)などで、おむつ交換の都度 ぬり薬を塗る必要がある場合は、1日1回は水虫の薬を塗って、それ以外はワセリンなどを塗るとよいと思います。

4,塗る期間

塗る期間もしっかり指導しないと、患者さんかゆみが治まったら塗るのをやめてしまいます
すると、多くの場合炎症は完全には治まっていないので、再燃してしまいます。

4-1 湿疹の塗る期間

塗る範囲のところでも説明しましたが、湿疹では、赤み・かゆみだけでなく、触ってみるとざらざら・ぼこぼこした表面の変化を伴うことが多いです。
これは、皮膚で生じた炎症(火事)により、皮膚がダメージを受けて生じる変化をみているのですが、この炎症が十分に治まるまで、完全に鎮火するまで塗り続けることが大切です。湿疹において鎮火した状態というのは、触ってみてざらざら・ぼこぼこした皮膚の変化がなくなり、つるつるになった状態です
ただ、皮膚の火事(炎症)は一度生じると、少なくとも1週間は続くといわれていますので、最低1週間は塗りましょう
以下に、塗る回数のポイントをお示しします。
塗る期間のポイント
・最低1週間は塗る。
・1週間たっても赤みや皮膚の変化(ざらざら・ぼこぼこ)が改善していなければ、つるつるになるまで塗り続ける。

4-2 水虫の塗る期間

水虫の部位によって異なりますので、ポイントを以下にお示しします。

・手足水虫:約2カ月間
・爪水虫:濁りや厚みがなくなるまで塗り続ける
・上記(手足、爪)以外の水虫:約1カ月間

これだけの期間十分に塗布しても改善しない場合は、診断が誤っていたり、別の疾患が合併している可能性がありますので、皮膚科医にご相談してください。

塗り方を動画で説明

以上、適切な塗り方についてお話ししてきました。最後に、実際にどのように塗っているのか、
①背中全体に保湿剤を塗る
②背中の一部の湿疹にステロイドを塗り、全体に保湿剤を塗る
という 2つのパターンの動画を見てみましょう。
※別の講義で使用した動画を使用したため、ポインターが動いていて煩わしいですが、ご容赦ください。
背中全体に塗り薬を塗る方法
②一部の湿疹にステロイド、全体に保湿剤を塗る方法
ちなみに"ステロイド外用剤と保湿剤どちらを先に塗るか"、ですが、基本的にどちらでも効果は大きな差がないと考えられていて、実際皮膚科医でも様々です。
私は、何度もお話ししましたように、ざらつきやぼこぼこした皮膚の変化にステロイド外用剤を塗ることが大切だと考えていますので、保湿剤を先に塗ってしまうと、ざらざら・ぼこぼこした皮膚の変化がが分かりにくくなってしまいます。
そのため、まずは実際触ってざらざら・ぼこぼこした皮膚の変化のあるところにステロイド外用剤を塗るよう指導しています。その後に、湿疹やかゆみを繰り返すところに保湿剤を塗ってもらっています。

まとめ

では、最後にまとめです。
湿疹に対する塗り薬の塗り方
1塗る量塗ったところにティッシュペーパーを貼ってみて、落ちないくらいたっぷり塗る
2塗る範囲
赤みやざらざら・ぼこぼこした皮膚の変化があるところにやや広めに塗る
3塗る回数
塗る回数の基本は1日2回、朝と入浴後(べたべたを維持するだけ何度でも塗布可)
4塗る期間
最低1週間は塗る。1週間たっても赤みや皮膚の変化(かさつきやぼこぼこ)が改善していなければ、つるつるになるまで塗り続ける
覚えること多いですよね。ただ、一言でまとめるとステロイド外用剤はたっぷり広めに塗って、湿疹を短期集中で治しましょう!、ということです。
そして、広範囲に湿疹を認めた場合は、改善後も再発しやすいため、最低1か月は保湿剤を塗ることをおすすめします

まとめ ステロイド外用剤を使用するうえで最も大切なこと

なぜ、ステロイド外用剤による治療は短期決戦が大切なのでしょうか?それはステロイド外用剤による副作用の多くは、長期塗布(1か月以上)により生じるものだからです。
ステロイド外用剤長期塗布により生じるトラブル
①ステロイド外用剤の副作用:皮膚の萎縮・毛細血管拡張
②感染症の悪化:毛包炎、水虫、疥癬など
要は、ステロイド外用剤は長くだらだら塗る薬ではない、ということです。
特に、後者の水虫や疥癬はしばしば湿疹と誤診されます。見分けがつきにくい皮疹が少なくないためです。ただ、これらの疾患のリスクを過度に恐れて、湿疹に対しランクの低いステロイド外用剤を薄く塗るなどの腰抜け治療をすると、湿疹すらも治せないという残念な結果になってしまいます(ちなみに1~2週間のステロイド外用剤を塗布したくらいで、疥癬や白癬が急激に悪化することはありませんのでご安心ください)。
そのため、まずは十分強いレベルのステロイド外用剤を適切に塗布してみて、改善があるかを評価することが大切です。通常の湿疹であれば1~2週間で治癒するか、治癒に至らずとも改善していると思います適切に塗っても改善しない場合は、湿疹以外の可能性を考えるという姿勢が大切だと思います。
以上をまとめ、最も大切なポイントをお伝えします。
ステロイド外用剤使用時の最も大切なポイント
ステロイド外用剤は1~2週間適切に塗り薬を塗っても皮疹が改善しなければ、皮膚科専門医に相談してください!
ステロイド外用剤は長期にだらだら続けるのがよくない、逆に言えば短期集中に適切に使用すれば、ほとんどのケースにおいて、恐れる塗り薬ではありません。
ただ、時に適切に使用しても改善しないことがあります。その際には、漫然とステロイド外用剤を使用するのではなく、速やかに皮膚科専門医を受診する、これが最も大切なポイントだと思います。
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