まもりさん
厚い爪を切るのに、出血が怖くてためらってしまいます…
確かに、厚い爪を切るのは勇気がいるよね。
厚い爪を切るコツは、なぜ爪が厚くなっているかを知ることです!
今回は、そんな手ごわい厚い爪を切るためのコツをご紹介しましょう!
厚い爪を切って、出血させてしまった…医療従事者なら誰しも一度は通る道ですよね。
ただ、かといって厚い爪を放置すると、時に靴が履けなくなったり、圧迫により患者さんが不快になったり、爪が引っ掛かって剥がれるなどして皮膚潰瘍を生じ、感染源となることもあります。血流が悪い患者さんでしたらそのまま治らない傷になることもありますし、糖尿病など免疫力の弱い患者さんでは骨に達するような重度の感染症に至ることもあります。そのため、厚い爪は積極的に切削しなければなりません。
今回は、なぜ厚い爪は出血しやすいのか、そしてどのように対策すれば、出血のリスクを最小限に爪を切ることができるのか、そんなお話をしたいと思います。
ぜひ、少しでも安全に爪を切るための知識・技術を身につけて、患者さんのQOL(生活の質)向上を目指しましょう!
目次
爪が厚くなる原因とその対策法
爪が厚くなる原因(私見)
なぜ爪が厚くなるのか、これは成書でも詳しく記載した本を見たことはありません(単に勉強不足かもしれませんが…)。
ただ、多くの爪を切っていると、共通した変化があることに気づきます。それを知ることで爪を切る際のリスクを減らし、より安全に爪を切ることができるようになると思います。
(ここからは、あくまで個人的な考えではありますことをご了承ください)
上図は左側が「正常な爪」、右側が「爪が厚くなっている患者さんの足の指」を横から眺めたイラストです。
実は、爪が厚くなる原因に、”爪の先端(または爪の下)の皮膚が盛り上がっている and/or 爪が一部でしか皮膚と接着していない”ということがあるのです。
では、なぜ爪の先端の皮膚が盛り上がったり、爪と皮膚の接着が失われるのでしょうか?
正常な爪では、歩行などで下から圧力がかかっても、爪によって抑えつけられて、爪の下の皮膚が盛り上がることはありません。
しかし、爪を短く切りすぎると、爪より先端の皮膚は歩行時の下からの圧力などにより簡単に盛り上がってしまうのです。
爪の外傷や爪水虫で爪が厚くなるのも、爪と皮膚の接着が失われて、その影響で皮膚が盛り上がって爪が変形することも一因と推測します
では、爪の先端の皮膚が盛り上がると、どのような問題が生じるのでしょうか?
爪の下や前方の皮膚が盛り上がると、爪は真っすぐ伸びることができなくなります。
すると、爪は始めに盛りがった皮膚に沿って上方向に伸びていきます。その際に爪は地層のように積み重なって伸びていくため、爪が厚くなってしまうのです。
さらには、その厚くなった爪は、爪の根元でしか下の皮膚とは接着していないため、それより先端の皮膚と接着していない爪は外力などの影響により、様々な方向に延びてしまうのです。厚い爪が様々な方向に伸びているのは、そのような理由からだと考えています。
なぜ始めに、このようなお話しをしたかといいますと、ここまでの内容を知ることで、より安全に爪を切るための手がかりとなる、以下の2つのポイントを抑えることができるのです。
肥厚爪の原因からわかる出血しない爪切りのポイント
・爪の下の皮膚が盛り上がっているため、通常通りの切り方では出血しやすい
・厚い爪は、爪とその下の皮膚が、一部(特に先端部)くっついていないことが多い
これだけではわかりにくいと思いますので、もう少し補足します。
上図は、厚い爪が伸びた時の爪を、横から見たイラストです。
青い矢印のように、真っすぐ爪の根元に向かって切ってしまうと、盛り上がった皮膚を切ってしまい出血することが分かります。
では、どうすれば出血を最小限に、爪を切ることができるのでしょうか。
そのためには、上記のポイント2つ目の”厚い爪は爪とその下の皮膚が一部(特に先端部)くっついていないことが多い”ということを利用するのです。
つまり、爪と皮膚の間の隙間にニッパーを入れて、どこまで爪と皮膚が接着していないかを確認したうえで、その皮膚から浮いている爪のみを切るようにすれば、理論的には出血を生じません。
爪が厚くなる原因に基づいた出血しない爪の切り方
それでは実際に、どのように厚みのある爪を切っているのか、動画で確認してみましょう。 爪の下にニッパーを入れたときに、爪と下の皮膚が、どこまで離れているのか確認しながら切っていることを、意識してご覧いただければと思います。
このようにして、爪と下の皮膚が接着していないエリアを確認し、その接着していない上の爪のみを切っていけば、出血することはまずありません。
そして、これは補足になりますが、厚い爪では、爪と皮膚が一部でしか接着していないために、自由に爪が伸びてしまうことで、周囲の皮膚が爪の刺激による損傷を受けてしまうのです。
例えば、この患者さんは爪が厚いだけでなく、爪の根元の皮膚が腫れています。これは、そこに菌の繁殖がある、ということも勿論あるかと思いますが、そのもっと根本に、爪と下の皮膚がほとんど接着してないため、爪が不安定なところに、靴の刺激などで前方から圧迫を受けることで、爪の根元の部分が皮膚を圧迫して、皮膚が傷ついてしまったと考えられます。このような場合に、抗生剤の内服や塗り薬を使用しても改善しません。爪の圧迫という根本を解決していないからです。
では、このような爪に対し、どのようにアプローチしたのか、以下の動画を見てみましょう。
このように、爪の根元の皮膚が腫れている場合は、爪の一部が逆走して、根元の皮膚に刺さり、時に感染を生じさせるため、皮膚に刺さっている爪を切削することが大切です。
切削後は、抗生剤含有軟膏を塗ってガーゼを当てる処置を行えば、多くの場合、数日で治癒します。特に糖尿病の患者さんなどでは、この爪の損傷から壊疽に陥ったり、透析などで循環の悪い患者さんは、そのまま治らない傷になり強い痛みを生じることもありますので、早期の対策が望まれます。
ただ、この爪の浮いているところを確認しながら切っていく方法、実は、厄介な問題があります。
それは、爪が非常に厚くて硬い爪では、爪と皮膚の間にニッパーが入りにくいのです。また、切る時もかなり力を入れて切らなくてはいけないため、痛みを伴いますし、出血のリスクも高まります。
でも、安心してください。対策法があるのです!
その対策法とは、”爪が硬くて隙間ができないなら、爪を柔らかくすればいい”ということです。
次に、その方法について説明したいと思います。
非常に厚くて硬い爪を柔らかくして安全に切る方法
では、どのようにして、厚くて硬い爪を柔らかくするのでしょうか?
それが、このリンゴ酢を使用する方法です。
リンゴ酸には、角質を溶かす作用があります。爪は角質でできているので、リンゴ酸によって柔らかくなるのです。”普通のお酢じゃだめなの?”って思うかもしれませんが、実はこのような角質を溶かす作用は、フルーツを発酵させてできるフルーツ酸に特有の作用ですので、普通のお酢はおすすめしません。
それでは早速、リンゴ酢を利用した爪を柔らかくする方法を説明します。
用意するものは以下の5点です。
・りんご酢
・ワセリン
・ガーゼ
・ラップ
・皮膚に貼るテープ
では、これらを使用して、どのように爪を柔らかくするのか、その手順を見てみましょう!
STEP
爪の周囲の皮膚にワセリンをたっぷり塗る
リンゴ酸が爪の周りの皮膚に付くと皮膚がただれてしまうリスクがありますので、爪の周りの皮膚を保護するためワセリンを塗ります
STEP
ガーゼを数mmの厚さで爪の大きさに切り、リンゴ酢を染み込ませ、厚い爪にのせる
STEP
ラップで包んで、テープで固定する
このような手順で、リンゴ酢を染み込ませたガーゼを厚い爪に置いてラップしたら、半日~1日置いておきます。爪がかなり厚い(1㎝程度の厚み)場合は、1日くらい漬けておくと、ある程度深部まで浸透することが多いです。
半日~1日ガーゼを染み込ませたら、ラップとガーゼを剥がし、爪の切削を行います。
この切り方も始めにお伝えしましたように、爪と皮膚の間にニッパーを入れて、その上を切れば出血のリスクはかなり減ると思います。さらには以下の動画のように、ニッパーをひねるだけで爪が剥がれていく場合には、剥がすようにして切削をすれば、皮膚を損傷するリスクをかなり減らすことができると思います。
爪の先端の皮膚の盛り上がりを最小限にする方法
最後に、厚い爪を生じる原因の一つである、爪先端の皮膚の盛り上がりへの対策法についてお話ししたいと思います。
それは”伸縮テープ(テーピングテープなど)で盛り上がった皮膚を押し下げる”という方法です。
特に、伸びすぎた爪が引っ掛かって剥がれた場合などは、放置すれば肥厚爪になるリスクがありますので、この方法を行うことをお勧めします。
ただ、長期にわたって皮膚が盛り上がっている場合は、盛り上がった皮膚の下の骨も一緒に盛り上がっている可能性があります。その場合にはテーピングでは改善は難しく、根本解決には皮膚の下の骨を削る必要があり、現実的にはなかなか難しいです。
そのため、何らかの原因で爪が短くなったら早期からテーピングによる対策を行うのが得策です。
では、実際の施術を動画でお示しします。
(この患者さんは浮いてしまった爪が爪の根元に刺さり創を生じており、浮いた爪を全て切削したあとの処置となります)
動画のように、伸縮テープを貼る前に土台となるテープを貼っておくと伸縮テープがはがれにくくなりおすすめです。
この方法は比較的安全な施術ですが、注意点もありますので以下にお示しします。
伸縮テープによる肥厚爪対策の注意点とその対処法
・必要以上に長く切った伸縮テープで引っ張ると関節が曲がってしまい、それを維持し続けると関節が曲がったまま固まってしまう(屈曲拘縮)を生じるリスクがある
→対策として、伸縮テープの長さは5㎝程度とし、テープを伸ばして貼るのはあくまで第1関節レベルまでに留める
※施術後に指が曲がっていないか確認する
このような注意点を対策しつつ、爪が短くなった患者さんには、積極的に試してみてください。
まとめ
では、最後に肥厚爪の対策と予防についてまとめます。
まとめ
1、厚い爪の多くは、爪と皮膚が根元でしか接着していない
2、厚い爪を切る場合は、爪と皮膚の接着を確認し、浮いている爪のみを切る
3、爪が厚くて切りにくい場合は、リンゴ酢を利用する
4、皮膚の盛り上がりを最小限にする方法として、伸縮テープを利用する
このように、厚い爪をより安全に切る方法を身につけて積極的に対策していきましょう。それにより、爪のトラブルによる壊疽などのリスクを軽減でき、患者さんのQOLを高めることができると思います。