非皮膚科医
前回のお話で、痒みにステロイド外用剤を使うハードルがかなり下がりました
でも、ステロイドって種類も多いしとっつきにくいですよね…
いいところに気づいたね!
実は塗り薬で治らないのは、診断が誤っているのと同じくらい
適切に塗り薬が使用されていないことが原因なんです
塗り薬は患者さんに使い方を指導しないと
適切には塗れないですものね
そのとおり!
今回は塗り薬についてどう選び、どう指導すればよいのか、解説したいと思います
前回、3徴(痒み、赤み、ざらざら・ぼこぼこした皮膚の変化)があれば、ステロイド外用剤が有効な可能性が高いこと、しかし、時に改善しなかったり逆に悪化するケースもあることをお話ししました。
その場合、以下の2つの可能性を考える必要があり、前回は一つ目についてお話ししました。
湿疹の3徴(痒み、赤み、触った皮膚の変化)に対してステロイド外用剤を使用しても皮疹が改善しない原因
1診断が適切か?
2ステロイド外用剤が適切に使用されているか?
では、今回は2つ目のステロイド外用剤が適切に使用されているかということについてお話したいと思います。
目次
ステロイド外用剤で皮疹が改善しない原因 その② ステロイド外用剤が適切に使用されているか?
ぬり薬を正しく塗るには、以下の5つのポイントを抑えることが大切です。
適切に塗り薬を使用するためのポイント
①適切なランクのステロイド外用剤の選択
②塗る範囲
③塗る量
④塗る回数
⑤塗る期間
これらが十分に守られないと、診断が正しくても改善しないことが多々ありますので、それぞれについて解説します。
1 適切なランクのステロイド外用剤の選択
ステロイド外用剤の強さは、1群strongestから5群weskまで5つのランクに分けられます。 ちなみにweakは結膜などの粘膜用ですので、皮膚科ではほとんど使用しませんので、4群mediumより強い外用剤についてのお話です。
いきなりですが皆さんに質問です。mediumのロコイド®とstrongestのデルモベート®では、どの位強さに差があると思いますか?
4群medium(ロコイド®)より1群strongest(デルモベート®)の方が50倍強い
ランクはたった4つしか違わないのに、強さは数十倍も違うのです。 そしてもう一つのポイント
上のイラストは部位ごとのステロイドの吸収率を示しており、前腕の内側を1とした時に、ほかの部位がどのぐらいステロイドが吸収されるか、というのをみています。
皮膚の薄い頬や陰嚢部は非常にステロイド外用剤の吸収率が良く、逆に手足など角質が厚いところは吸収率が悪いことがわかります。陰嚢と足底で約400倍吸収率が違うのです。
これらの知識がないと、日常の診察でどのような問題がおこりえるのか次にお話しします。
1-1 塗る部位とステロイドのランクのミスマッチによって生じる問題
例えば、上の写真左側のような皮膚の肥厚の強い皮疹(苔癬化)や手掌・掌蹠の湿疹はvery strongクラス以上のステロイドを2~3週間以上塗ってようやく改善します.
もしこのような皮疹にmediumクラスのロコイド®を使用しても。効果が弱すぎ改善しない可能性が高いのです。
逆に顔や首のような皮膚が薄くステロイド外用剤の吸収率の良い部位ににvery strongクラス以上の外用剤を長期に使用すれば、毛細血管拡張やステロイド酒さなどのステロイドによる副作用を生じやすいのです。
このように皮疹の状態や部位に応じて適切なステロイドのランクを選択することが非常に大切となります。
ただ皮疹の状態は評価が難しいと思いますので、部位ごとにおすすめのステロイドランクをお示ししたいと思います。
部位ごとにおすすめのステロイドランク
①目の周りや陰部:medium以下のランク(ロコイド®など)
※目の周りは眼軟膏ではない
②目の周り以外の顔や首:mediumやstrong(キンダベート®やリドメックス®など)
③体幹・四肢:very strong(マイザー®、アンテベート®など)
ステロイド外用剤は強すぎれば 皮膚の萎縮などの副作用がありますし、弱過ぎれば湿疹を治すことができません。部位ごとに適切なステロイドランクを選択することが大切です。
2塗る範囲
塗り薬の塗る範囲を説明しないと、患者さんの多くはかゆいところしか塗ってくれません。
炎症はよく火事に例えられます。一部の火を消してもほかの場所にまだ火が残っていれば、再び燃え広がってしまうリスクがあるのです。 全ての火を完全に鎮火させることが大切です。
ステロイド外用剤を塗る範囲のポイントは、赤みやざらつきがあるところにやや広めに塗るということが大切です。なぜ広めに塗るかといいますと、炎症は見た目以上に広範囲に拡大していることが多いためです。
実際に患者さんに皮疹部を触ってもらい、ざらざら・ぼこぼこした範囲をやや広めに塗るように指導しています。
例えば今回の症例であれば、あちこちに赤みやかさつきがありますので、背中全体にステロイド外用剤を塗るというのが適切な塗り方となります。
3 塗る量
では次に塗る量についてお話します。塗る量をしっかり指導しないと、ごく薄くしか塗らない方も少なくないです。先ほどもお話ししましたが炎症というのは火事に例えられます。激しい火事は少量の水では消せないですよね。大量の水をかけなければ火は消えません。塗り薬も同じです。
塗り薬を塗る量の目安としてFTUが推奨されています。
塗り薬のチューブの口径の太さで人差し指の第一関節から先端まで出した量で、手のひら2枚分の範囲を塗るという考え方です
ただ、このFTUという考え方はあちこちに皮疹がある場合、背中全体塗るのに何FTUか、足を塗るのに…と説明していると患者さんは理解できなくなり逆にコンプライアンスが低下してしまうことがあります。
そのため、私は塗る量を指導するときには塗り薬を塗った皮膚にティッシュペーパーを貼り付けて落ちないくらい塗る、ということを指導しています。これ実際やってみるとわかりますかかなりたっぷり塗らないといけません。でも、これが適量なのです。そのため、処方も十分量処方する必要があります。
処方量の目安
両手のひらの面積に塗る場合→1週間塗るのに5gチューブ1本
4 塗る回数
塗る回数はステロイド外用剤では1日2回、朝と入浴後を基本とします。
ただ、これはあくまでも基本であって、例えば手などの手洗いなどでとれやすい部位は常にべたべたした状態が続くようにこまめに塗ってよいことを説明します。皮疹部がべたべたした状態を維持することが大切です。
そして、皮疹が改善したら、ヒルドイド®などの保湿剤に変更しますが、保湿剤は1日1回入浴後に塗ることをおすすめします。本来なら保湿剤も1日2回ですが、よくなった後も1日2回塗ってくれることは少ないので、1日1回でよいことにしています。
特に保湿剤などは入浴直後、まだ水分が皮膚内に留まっているタイミングで塗ることがおすすめです。
5 塗る期間
最後に塗る期間ですが、一度生じた炎症は最低1週間は続くと考えれられていますので、ステロイド外用剤は最低1週間は塗ってもらいます。
ただ、重度の湿疹では、1週間たっても、赤みやざらざら・ぼこぼこした皮膚の変化が続くことが多いですので、その場合は触ってつるつるになるまで継続してもらいます。
そして、保湿剤は最低1か月は継続してもらいます(湿疹によりバリア破壊が生じて再燃しやすくなっています。バリアが回復する期間はターンオーバーを目安に1か月ほどと考えられます)
ステロイド外用剤の適正使用 まとめ
では、今回のまとめです。
適切に塗り薬を使用するためのポイント
①適切なランクのステロイド外用剤の選択:部位や皮疹の状態に応じてステロイド外用剤のランクを変える
②塗る範囲:赤み and/or 触ってざらつきやぼこぼこした範囲にやや広めに塗る
③塗る量:塗り薬を塗った皮膚にティッシュペーパーを貼り付けて落ちないくらい塗る
④塗る回数:ステロイド外用剤:1日2回(べたべたを維持できる回数)
保湿剤:1日1~2回
⑤塗る期間;ステロイド外用剤:つるつるになるまで
保湿剤:最低1か月
湿疹の3徴(痒み・赤み・触った皮膚の変化)にステロイド外用剤を適切に使用しても改善しない場合
最後に、湿疹の3徴に対して、適切にステロイド外用剤を使用しても改善しない場合、どのように対処すればよいかについてお話しします。
湿疹の3徴に適切にステロイド外用剤を使用しても改善しない場合の対処法
1 塗り始める前より改善傾向があれば、ステロイド外用剤継続を検討
2 ただ、改善傾向であっても2~4週間外用を継続して皮疹が十分に改善しない、逆に悪化する場合は、湿疹以外の可能性を考え、他の疾患の治療への移行(前回のコラム参照)や皮膚科受診を検討する
ステロイド外用剤を使用するうえで大切なことは、ステロイド外用剤はだらだら使用し続けないということです。
私はアトピー性皮膚炎などの慢性湿疹を生じる疾患以外に対しては、ステロイド外用剤は短期決戦の薬だと考えています。
少なくとも2週間継続して治らなければ、湿疹以外の可能性を考え、前回のコラムでお話ししましたような、湿疹以外の疾患の治療を検討したり、皮膚科受診を検討していただければと思います。