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その皮疹にステロイド外用剤が効かない理由 その1 診断が適切か

非皮膚科医

痒み、赤み、ざらざら・ぼこぼこした皮膚の触った感じを目安にステロイド外用剤を選んだら、よくなる方がすごく増えました

S先生

お役に立てて何よりです!

非皮膚科医

でも先生、時々治らなかったり悪化する患者さんがいるんです。どうすればよいでしょう?

S先生

では今回は痒み・赤み・触った感じの皮膚の変化の3つの指標をもとに、ステロイド外用剤を使用しても、治らない患者さんへの対応法を考えてみましょう!

高齢者のかゆみの原因として圧倒的に頻度が高いのが湿疹です。
ただ 湿疹かどうかを判断することは実はかなり難しいです。そこで前回ステロイド外用剤が適応となるかを判断する上で、かゆみ、赤み、ざらざら・ぼこぼこした皮膚の変化、この三つを指標とすることを学びました。
ただ実際この指標を用いても すべての患者さんの皮疹が改善するわけではなく、時に悪化してしまうケースもあります。今回は、そのような場合のどう対応すればよいかについてお話したいと思います。
目次

3徴(かゆみ・赤み・触った皮膚の変化)をみとめてもステロイド外用剤で改善しない原因

ではさっそく結論です。
3徴を認めてもステロイド外用剤で改善しない原因として以下の二つが考えられます。
湿疹の3徴(かゆみ・赤み・触った皮膚の変化)に対してステロイド外用剤を使用しても皮疹が改善しない原因
1診断が適切か?
2ステロイド外用剤が適切に使用されているか?
2つともかなりのボリュームになってしまいますので、今回は1つ目のお話をさせていただき、次のコラムで2について解説します。

1,ステロイド外用剤で皮疹が改善しない原因 その① 診断は適切か?

3徴を認めても ステロイド外用剤が効かない、または、悪化してしまう代表的な疾患には以下のようなものが挙げられます。
これはほんの一例ですが、このようにステロイド外用剤で治らなかったり、逆に悪化してしまう疾患は少なくないために、ステロイド外用剤を使用して悪化する症例を経験すると、ステロイド外用剤の使用を躊躇してしまい、湿疹であっても治らないケースが少なくないと感じます。

今回はそれぞれの疾患詳しく説明しますと、かなり膨大になってしまいますので、ある程度の鑑別ポイントを説明し、詳細は別ページにゆずります。

1-1 蕁麻疹

蕁麻疹は下写真のように、かゆみ・赤み・ぼこぼこした皮膚の変化を伴い、時に湿疹と鑑別が難しいことがあります。
蕁麻疹と湿疹の鑑別ポイント
・蕁麻疹を鑑別する上で最も重要で簡単なポイントは、蕁麻疹はほとんどの場合一つ一つの皮疹が一日以内にあとかたもなく消える
これだけ見ると簡単に鑑別できそうに思いますが、時に広範囲に皮疹の出没を繰り返している場合など、それぞれの皮疹が一日以内にあとかたもなく消えているか、意外に患者さんに尋ねても分からないことがあります。
コツとしては、可能であれば連日同じ部位の写真を撮ってもらい、形が変わっているか比較するようにしています。

蕁麻疹の治療の基本は抗アレルギー剤内服となります。そして、実は、ほとんどの蕁麻疹は食べ物などアレルゲンがない特発性です(血液検査で特異的IgEなどの評価は有用でないものがほとんどです)。
さらには、1か月以上続くような慢性蕁麻疹は長期に抗アレルギー剤内服が必要など、抑えるべきポイントがありますので、可能でしたら皮膚科医にコンサルトをお願いします。

1-2 乾癬

鑑別の2つ目は尋常性乾癬です。乾癬もかゆみ、赤み、ぼこぼこ・ざらざらした皮膚の変化を伴い、時に湿疹と鑑別が難しいことがあります。
乾癬の特徴は境界がはっきりした厚い鱗屑を伴う紅斑です。湿疹はもう少し境界がぼんやりしていて、かさつきも積もるほど厚くはならないことが多いです。乾癬はかゆみを伴うことも伴わないこともあり、湿疹ほど強い痒みを訴えることは多くない印象です。
ただ乾癬の難しいところは、見た目が上の写真のような典型例ばかりではなく、かさつきの少ない症例や、中央の写真のように小紅斑のみであったり、逆に全身が真っ赤になってしまう紅皮症状態の乾癬もあり、乾癬の臨床は非常に多彩です。 そのためしばしば湿疹や白癬などと誤診され、治療されていることがあります。

乾癬は免疫細胞の異常によって皮膚のターンオーバーが異常に亢進していますが、ステロイド外用剤単独でそれを十分に抑えることは難しいです。
基本的には 異常なターンオーバーを抑える作用があるビタミンD3外用剤を併用します。ただ、ビタミンD3外用剤とステロイド外用剤を併用してもコントロールが難しいことも多く、最近では、乾癬に関与する特定の免疫異常(IL-17、IL-23など)に絞って免疫を抑える作用のある生物学的製剤なども使用され、非常に高い効果があります(ただ、非常に高額なため万人におすすめはできませんが…)。
乾癬の湿疹との鑑別ポイント
典型的には境界がはっきりした厚い鱗屑を伴う紅斑(臨床的に多彩)
ステロイド外用剤を塗ると多少改善するが完全には消えないことが多い

1-3 真菌症(白癬・カンジダなど)

鑑別の3つ目は真菌症です。真菌症もかゆみ、赤み、ぼこぼこ・ざらざらした皮膚の変化を伴い、しかも、ステロイド外用剤を長期に使用しますと全身に拡大するリスクもあり、鑑別が重要です。
わたくし皮膚科医を20年以上続け、実感したことがあります
それは、”湿疹と真菌症を見た目だけで鑑別することはほぼ不可能”ということです。
そのため 真菌症を疑った場合(多少なりともかさつきがある場合)はほぼ全例鏡検を行ないますが、非皮膚科医の先生方にはハードルが高いと思います。そこで、真菌症(白癬、カンジダ)を鑑別するため以下のような鑑別のポイントを挙げてみました。
真菌症を疑うポイント
・カンジダ症は胸の下や股部など蒸れたり擦れるところにじくじくした紅斑~膿疱を認めた場合に疑う(上記写真の下2枚)
・体部白癬は、おむつが当たる部位や背部など蒸れる部位に好発(ただ体中に生じうる)。辺縁に鱗屑を伴い輪っか状の紅斑を認めた場合に疑うが皮疹は多彩(上記写真の上2枚)
・真菌症であってもステロイド外用剤を塗布すると一時的に皮疹が改善することもあるが、数週間塗っても治りきらなかったり、塗るのをやめると速やかに再燃する
ちなみに、治療としては、抗真菌外用剤を1か月ほど塗布します。ただ、テルビナフィン(ラミシール®)は、カンジダには無効で、白癬菌に耐性菌も増加しているため、白癬菌にもカンジダにも有効なルリコン®やアスタット®などを選ぶのが無難です。逆に1か月塗布して改善なければ、白癬以外の可能性を考えた方がよいかと思います。
また、じくじくしている皮疹にクリーム基材の外用剤を塗ると刺激性皮膚炎を生じ悪化することがありあますので、べたべたはしますが軟膏基材を選ぶのが無難です。

1-4 疥癬(疥癬を見極める裏技)

鑑別の4つ目は疥癬です。疥癬もかゆみ、赤み、ぼこぼこした皮膚の変化を伴い、しかも、ステロイド外用剤を長期に使用すると全身に拡大するだけでなく、後述します感染力の強い角化型疥癬に移行するリスクもあるやっかいな疾患です。
では、以下に鑑別のポイントをお示しします。
通常疥癬を疑うポイント
・通常疥癬は主に脇や鼠径部など服の中にぼこぼこした皮疹を作ることが多い
・男性では陰嚢部のぼこぼこした皮疹は他疾患ではほとんどみられず疥癬に特徴的
・手や足などに疥癬トンネルがみられる(疥癬患者の8割に存在)
疥癬はヒゼンダニが皮膚に住み着いて生じます。
ヒゼンダニは手足の角質内に潜り込んで、卵を産み、孵化した虫体が主に体幹部~股部を動き回る習性があります。その動き回る際のアレルギー反応で皮疹を生じるといわれています。
強い痒み(特に夜間)を伴い、体幹部を中心に赤いぶつぶつした皮疹が特徴ですが、皮疹は多彩です(露出部優位に皮疹があったり、ぼこぼこした皮疹は乏しかったりすることもあります)。
ただ、通常疥癬はそれほど感染力は強くありません。そのため、後述する角化型疥癬に移行する前に見つけることが大切です。
そのために最も大切なこと、それは
早期に疥癬を診断するうえでもっとも有効なのが疥癬トンネルを見つけること
先ほどもお話ししましたように、通常疥癬では約8割に手足に疥癬トンネルがみられます。これを見つけることが最も重要です。
ただ、疥癬は大きさ0.2mmほどですので、疥癬トンネルも幅0,2mmほどの線状のかさつきです。つまり、肉眼では単なる乾燥肌によるかさつきと鑑別が難しいです。
そこで、おすすめの秘技があります。
それは、写真を拡大する方法です!
もちろん、ルーペなどを使用して拡大してもよいですが、スマホやタブレットで手掌や指間部、足底などの写真を撮り、ピンチアウト(拡大)して隅々チェックすると疥癬トンネルを見つけやすいです
ある程度の解像度があれば、拡大することで上の写真のように疥癬トンネルを見つけることができます(ある程度コツはいりますが)。疥癬トンネルは、線状のかさつきがあり、そのかさつきの端っこに黒いゴマ粒(虫体)が見られるのが特徴です。

ただ、残念ながら疥癬が見過ごされてしまうと時に角化型疥癬に移行してしまうことがありますので、次に角化型疥癬のお話をします。
疥癬が治療されず、免疫力低下、ステロイドの長期使用などにより、ヒゼンダニが増加すると角化型疥癬に移行することがあります。
角化型疥癬になると、臨床所見はさらに多彩になり上の写真のように、丘疹もみられず、紅皮症(皮膚の広範囲が紅斑で占められる)の状態になることもあります。
さらに厄介なのは、角質が積もるため、疥癬トンネルを見つけるのも難しくなります
そのため、角化型疥癬を鑑別するポイントは、“厚くなった角質を見つけること”です。角質の堆積を生じるのは手足が中心ですが、上の写真のように臀部など手足以外のこともあります。
そして、もう一つ角化型疥癬を疑うポイント。それは、周囲に疥癬の方が複数いる場合です。
先ほどお話ししましたように、通常疥癬の感染力はそれほど強くありません。
施設などで疥癬患者(or 急にかゆみを生じた方)が複数人発生した場合などは、角化型疥癬患者がいる可能性を考えた方がよいです。
これらをふまえ、もう一つの疥癬を疑うポイントをお示しします。
角化型疥癬を疑うポイント
施設内でかゆがっている患者さんやスタッフが増加した場合は疥癬を疑う(手足のチェック)
その際に角化型疥癬の患者をみつけ素早く治療を始めることが大切

1-5 酒さ、酒さ様皮膚炎

酒さというのは、自然免疫の異常(過敏反応)により、赤ら顔やニキビ様の皮疹を生じる疾患です。”酒”という字を書くので、アルコールが関与しているのでは、と思われる方もいると思いますが、どちらかというとお酒を飲んだように赤ら顔になるという意味合いが強いと思われます(とはいえ、アルコールは悪化因子の一つです)。紫外線、化粧品、香辛料など軽微な刺激が悪化因子になります。自然免疫の異常活性化による、いわゆる敏感肌に近い病態と考えられています。
この酒さがステロイド外用剤の長期塗布により生じることを酒さ様皮膚炎といいます
この酒さや酒さ様皮膚炎のやっかいなところは、赤みやぼこぼこした皮膚の変化などがあり、一見湿疹に見えてしまうということです。そのため、湿疹が治っていないからと長期にステロイド外用剤が使用され難治化してしまうことがあります。

以下に湿疹との鑑別のポイントを示します。
酒さ様皮膚炎と湿疹の鑑別ポイント
すでに長期間(1か月以上)ステロイド外用剤を使用されている症状はかゆみというよりひりひり感ステロイドを塗布すると若干改善するが中止後速やかに悪化する
酒さ・酒さ様皮膚炎の治療は、ステロイド外用剤を使用している場合は速やかに中止します。ただ、中止後一時的に赤みが悪化する可能性があることを事前に説明します。治療としてはニキビ様の皮疹があればテトラサイクリン系抗生剤(ビブラマイシン50~100mg1X)の内服やロゼックスゲルの外用などが有効なことはありますが、保険適応ではなく、難治化することも少なくないため皮膚科受診してもらった方が無難かもしれません。

1-6皮膚掻痒症

湿疹との鑑別の最後は、皮膚掻痒症です。
皮膚掻痒症とは明らかな皮疹がないが痒みを生じる疾患です。
痒み=ステロイド外用剤、としてステロイド外用剤が処方されているとこも少なくありませんが、少なくとも炎症のない皮膚に炎症を抑える外用剤は効きません。
このような炎症(皮疹)はなくてもかゆみを生じる疾患があるということを知っていただくことが大切です
皮膚掻痒症は原因不明なことが多いですが、軽微な皮膚の乾燥や内科的疾患(糖尿病や肝疾患、腎疾患など)から生じていることもあります。そのため、原疾患を治療しないと掻痒のコントロールが難しいケースもしばしばみられます
皮膚掻痒症と湿疹の鑑別ポイント
皮膚掻痒症はかゆみはあるが明らかな皮疹はない
軽微な湿疹が皮膚搔痒症と誤診されることがあるので、実際皮疹部を触れてみて皮膚の変化を確認することも大切(ざらつきがあればステロイド外用剤の使用を検討)

皮疹にステロイド外用剤が効かない理由 ①診断が適切か まとめ

ステロイド外用剤を使用するポイントとなる3徴(痒み、赤み、触った皮膚の変化)を満たしても、ステロイドが有効でない疾患は意外にたくさんあることがわかっていただけたと思います。ただ、最後にお伝えしたいことが2つあります。

1 3徴(痒み、赤み、触った皮膚の変化)を満たすケースの多くはステロイド外用剤を適切に使用すれば改善する(過度に例外を恐れない)
2 3徴を満たした場合でも、必ず定期的(特に使い始めは1~2週間ごと)に診察して、皮疹の改善や悪化などを評価する
3 適切にステロイド外用剤を使用し、1~3週間ほど経過をみても、皮疹が改善しない、または一度改善してもステロイド外用剤中止後に悪化する場合は、速やかに皮膚科受診してもらう

ここでポイントは、“適切にステロイド外用剤を使用する”ということです。実は、本来ステロイド外用剤で改善するはずの湿疹性病変であっても、適切にステロイド外用剤が使用されていなかったために改善しない、ということも少なくないのです。
次回適切なステロイド外用剤の使用方法についてお話ししたいと思います。
目次