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なぜ高齢者のかゆみに抗アレルギー剤はあまり効かないのか??

まもりさん

先生患者さんがかゆがっています

非皮膚科医

じゃあ、抗アレルギー薬処方しとくね

1週間後…
まもりさん

先生、かゆみが治りません…

非皮膚科医

じゃあ、セレスタミン®内服に変更…

さらに1週間後
まもりさん

先生、かゆみがおさまらない上に、傾眠傾向です…

非皮膚科医

痒みへのファーストチョイスが抗アレルギー剤という症例をみることが少なくありません。しかし、実際にはそれで改善することばかりではないことを日々の診療で経験されると思います。
それは、なぜなのでしょうか?
今回はそんなお話をしたいと思います。
目次

なぜ抗アレルギー剤で治まらないかゆみがあるのか

では、結論からお話しします。
抗アレルギー剤でかゆみが治まらないのは
痒みの伝達にはヒスタミンが関与しない様々な経路がある
ということです。
これは、どういうことか、以下にかゆみの経路をお示しします。
かゆみというのは、主に、①皮膚の末梢神経→②脊髄→③脳、という経路で伝達されて脳で痒みを感じます。
この中でもっとも、かゆみに深く関与しているのが、①皮膚末梢神経の興奮による痒みと考えられています。皮膚末梢神経に何らかの物理的刺激が加わったり、神経の受容体に起痒物質が作用するとかゆみが誘発されます(下図参照)。
この起痒物質の代表がヒスタミンです。
しかし、実は神経に作用しかゆみを生じる起痒物質はわかっているだけでも10種類以上と非常に多く存在するのです(以下に一部記載)。
このように、かゆみにはさまざまなかゆみを生じる物質が関与していて、抗アレルギー剤が有効なヒスタミンが関与する痒みはその一部にすぎないのです。
例えば、高齢者のかゆみの原因で頻度の高い乾皮症~湿疹によるかゆみはヒスタミンの関与はそれほど大きくないため、抗アレルギー剤はあまり有効ではありません。

では、ここで乾燥肌がなぜかゆみを生じるのか、そしてどのように対処すればよいのかお話しします。

乾燥肌はなぜかゆくなる?(+対処法)

みなさんの中にも、冬場に乾燥するとかゆくなる、という経験をした方はいると思います。
でも、かさつきだけで、赤みやざらつきなどの湿疹性変化はないですよね。ということは乾燥肌は炎症をほぼ生じていないのにかゆくなるのです。
では、なぜ乾燥肌はかゆみを生じてしまうのでしょうか?
上のイラストは左側に正常の皮膚、右側に乾燥肌の皮膚断面を示しています。
ポイントはかゆみを感じる神経=”C線維”です(青線)。乾燥肌ではC線維が表皮内に入り込んでいることが分かると思います。このC線維にはヒスタミンなどの起痒物質によりかゆみを誘発する受容体とともに、物理的刺激によりかゆみを誘発する受容体も存在するのです。そのため、C線維が表皮内に入り込むことで、例えば温まる・服などがちくちく触れる、などの軽微な刺激でもC線維が活性化して痒みが誘発されてしまうのです。
しかも、この軽微な物理的刺激によるC線維の活性化にはヒスタミンを含めたケミカルメディエーターは関与していないと考えられており(湿疹性病変があれば別)、抗アレルギー剤はもちろんのこと、ステロイド外用剤も効かないのです。
では、乾燥肌にはどのように対処すればよいのでしょうか?
乾燥肌の対処法
1 生活習慣:入浴でナイロンタオルを使用しない。熱いお風呂に長時間入らない(40度以下10分以内を推奨)。セーターなどのちくちくした素材が直接触れるのを防ぐ。
2 薬物療法:保湿剤をたっぷり塗る(なるべく入浴後すぐ)
このように乾燥肌を刺激しない、悪化させない対策が有効でそれは日常生活から見直す必要があるのです。

では、話を抗アレルギー剤に戻しまして、高齢者で抗アレルギー剤が有効なかゆみを生じる疾患はないのでしょうか?
もちろん、高齢者において抗アレルギー剤が有効な疾患はあり、実は抗アレルギー剤が有効な皮疹はある程度見た目で鑑別できます
次にそんなお話をしたいと思います。

抗アレルギー剤が有効なかゆみの見分け方

ヒスタミンが関与するかゆみを生じる皮疹の代表例が蕁麻疹です。
蕁麻疹の特徴ってわかりますのでしょうか?”膨疹”です。
膨疹というのは上の写真のように、皮膚が浮腫状に盛り上がった皮疹です。
ヒスタミンが分泌されるとこのような皮疹になるのか、下のイラストをご参照ください。
ヒスタミンは主に血管に作用します。すると、皮膚は以下のような変化を生じるのです。
ヒスタミンが皮膚に作用すると
①毛細血管が拡張する=皮膚が赤く見える
②毛細血管の透過性が亢進する=皮膚に水がたまり浮腫状になる
こうしてヒスタミンの作用を知ると、なぜ膨疹が出現するのか分かりやすいですよね。
以上をまとめますと、抗アレルギー剤が有効なかゆみは以下のようになります。
皮膚に赤みがあり、浮腫状になっている
なぜ、膨疹といわないかといいますと、このような臨床をきたす皮疹は膨疹以外にもさまざまあるためです(例えば多形紅斑など)。
かゆがっている患者さんの皮疹が上記のようでしたら、一度抗アレルギー剤の投与を検討してもよいかと思います。

まとめ

今回は、なぜ抗アレルギー剤で治まらないかゆみがあるのか、についてお話させていただきました。
1 かゆみを生じる原因は多岐にわたる(抗アレルギー剤が有効なかゆみは一部にすぎない)
2 ”浮腫状で赤みのある皮疹”をみたら、抗アレルギー剤が有効な可能性がある
では、浮腫状の皮疹以外のかゆがる患者さんにどのようにアプローチすればよいのでしょう?
それは決して簡単ではありません(それが簡単にできれば皮膚科医はいらないかも…)。
ただ、一つ言えることは、痒みを生じる患者さんで最も頻度が高いのが、”湿疹性病変”であり、湿疹性病変に最も有効なのはステロイド外用剤、ということです。
次回以降では、ステロイド外用剤が有効な皮疹の見分け方、さらには、抗アレルギー剤やステロイド外用剤が効きにくい痒みにどのようにアプローチしていけばよいのか、についてお話していきたいと思います。
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